パウ・ガソル

内なる闘争心を引き出すための行動

1月下旬にヘリコプターの墜落事故で急死したコービー・ブライアントは、現役時代にチームメートの力を引き出すために強力なリーダーシップを発揮していた。

練習中に仲間の弱点を指摘し罵声を浴びせるなど、時に行きすぎた行動に見えることもあった。しかし、彼は他人にも自分にも人一倍厳しいリーダーで、優勝するための努力が不十分だと思ったチームメートには容赦しなかった。

2009年と2010年に連覇を達成した際にコンビを組んだパウ・ガソルにも、多くを要求していた。レイカーズは2008年のNBAファイナルでセルティックスに敗れて優勝を逃したが、コービーはガソルの闘志に火を点けるため、驚きの行動に出た。

その年の夏に開催された北京オリンピックにアメリカ代表として出場したコービーは、ガソルが所属するスペイン代表を破って金メダルを獲得した。そして、そのメダルをトレーニングキャンプ初日にガソルのロッカールームにぶら下げたという。母国を愛するガソルはコービーの行動に激怒した。

しかし、コービーは「パウ、聞いてくれ。君はセルティックスに負けて、オリンピックでは俺たちに負けた。今シーズンも負けて3連敗になることだけは避けなければいけない。一緒に優勝を勝ち取ろう」と説明して、ガソルを納得させた。

この話以外にも、コービーがガソルの闘争心をかきたてるために取った行動があると、ガソルがスペインのテレビ番組『La Resistencia』に出演した際に明かした。

「レイカーズ時代には、チームメートから2つニックネームを付けられた。一つは映画『グラディエーター』の主人公からとったもので『スパニアード』、チームのみんなが映画のサウンドトラックをかけたりしていたよ。もう一つはコービーが付けたもので、『パブロ』だ。彼はいつだって僕の内なる闘争心に火を点けようとしていて、この名前の由来はパブロ・エスコバルからきているんだ」

パブロ・エスコバルとは、コロンビア最大の麻薬密売組織メデジン・カルテルを創設し、『麻薬王』という悪名を世界中に轟かせた人物だ。ガソルは、歴史に残る犯罪者の名前をニックネームにされた理由をこう明かした。

「彼が自分をパブロと呼んだ理由は、麻薬王には関係なかった。容赦ない本能的な部分を自分に真似てもらいたかったからだ。それだけのアグレッシブさを僕にもたらすために、パブロ・エスコバルと自分とを比較したんだ」

付けられて気持ちのいいニックネームではないが、ガソルの説明を聞くとコービーの意図は理解できる。コービーの言動によりスイッチが入ったガソルは、その後、肉体強化に取り組んだ。そして2008-09シーズンからフィジカル色の強いプレーでも負けなくなり、レイカーズの連覇に貢献した。

周りから誤解を受けるような手法だが、これが機能したのはガソルとコービーの間に強い信頼関係があったからこそ。金メダルの話も含め、2人がパートナーとして認め合っていたことを表すエピソードだ。