チームに爆発力を与えた勝負強いシューター
ウインターカップ決勝で、明成(宮城)が前半に主導権を握る原動力となったのが、2年生シューター田中裕也の活躍だ。試合を通しては24得点3スティールと躍動。特に前半に決めた5本の3ポイントシュートは強烈で、福岡大学附属大濠の出鼻をくじくに十分なインパクトだった。
得意なパターンは速い展開から放つ3ポイントシュート。第2クォーター残り3分、塚本舞生のスティールから走り、相原アレクサンダー学のアシストを受けて決めた4本目の3ポイントは勢いがあった。このときスコアは43-27。走って決めた会心の一撃にガッツポーズが飛び出した。後半は3ポイントがなかなか打てなかったが、その分は状況を見極めてドライブインや速攻で走り、ファウルを誘っては正確なフリースローでつないだ。
田中が勝負強さを見せたのは決勝だけではない。準決勝の帝京長岡戦でも後半に立て続けに決めて逆転のきっかけを作り、3回戦の洛南戦でも劣勢から3ポイントを決めている。ここぞというところでの3ポイントシュートは幾度もチームのピンチを救い、リズムを作ってきた。
佐藤久夫コーチが育成するシューターの特徴は、リリースがとても速く、一瞬の隙を逃さず打てることにある。そして確率の高さよりも、立て続けに決めてチームに勢いをもたらし、ここぞという場面で決めきるシューターを好む。そういう意味では田中も佐藤コーチが頼りにする『爆発型』。かつ、試合を通して崩れない安定感もある頼もしい存在だ。
「(八村)阿蓮さんだけに頼っていては勝てないので、自分が3ポイントを決めたらチームが楽になると思って、思い切り打っています。決勝の前半は自分のリズムで打てましたが、後半はマークがきつくなったので、ドライブや苦しい時こそ走ろうと思って速攻に走りました。先輩たちが最後の大会だったので、優勝して終わることができて本当に良かったです」
1年生からエースナンバーをつけた唯一の選手
明成バスケ部13年の歴史には、代々受け継がれる背番号がある。『6』は司令塔の番号。一期生の伊藤駿(SR渋谷)からスタートし、石川海斗(仙台89ERS)、畠山俊樹(新潟アルビレックスBB)、植村哲也(法政大4年)、納見悠仁(青山学院大2年)がつけてきた。
そして『10』は点取り屋やシューターがつける番号。言ってみればエースナンバーだ。歴代では佐藤卓哉(三井住友海上/関東実業団)、佐藤文哉(群馬クレインサンダース)、高田歳也(新生紙パルプ商事/関東実業団)、安藤誓哉(アルバルク東京)、白戸大聖(東海大4年)、三上侑希(中央大2年)がその顔ぶれ。これらの背番号は2005年に創部した当時の一期生がつけていた背番号を受け継ぐ形となっている。
田中はこのエースナンバーを1年からつけている。創部13年の歴史の中で、1年生から10番をつけている選手は田中しかいない。それだけ期待されている証なのだが、背番号の重さに何度もプレッシャーで押しつぶされそうになったという。
「これまですごい先輩たちが10番だったので、1年生の時は僕が10番をつけていいのかと思っていました。2年目の今でもプレッシャーはあります。でもプレッシャーに勝たないと明成ではやっていけないので、自分がやるしかないという気持ちでシュートを打っています」
本人はプレッシャーがあるというものの、今のチームで田中ほど10番が似合う選手はいない。「シューターに必要なのはどんな場面にも動じずに打ち切る大胆不敵さ。ちょっとくらいシュートが落ちても、俺にボールをよこせと言い、打ち続けられること」と語る佐藤コーチは、田中が持つ大胆不敵な姿勢にシューターの資質を見つけて育ててきた。
1年前、ウインターカップの初戦で敗れた時、先輩たちがミスを連発して萎縮していた中で、一人で無心にゴールに向かっていたのが田中だった。プレッシャーと戦っていた1年生は悔し涙を流していたが、その時からエースシューターになる姿勢は見せていた。この1年間で田中はウエイトトレーニングに明け暮れて身体を一回り大きくさせ、ディフェンスに当たられても崩れないフォームを身につけている。そして1年後のウインターカップでは、勝負強いシュートを連発。『明成の10番』だと胸を張って言える選手になったのだ。
目標は三上侑希、来年も明成バスケを受け継ぐ決意
目標としている選手は3つ上の先輩、三上侑希(中央大2年)。U-19代表のキャプテンで、3連覇を達成した時の『10番』だ。その一撃が爆発を生むという意味では、これ以上に手本となる選手はいない。
「三上さんは素早いリリースで3ポイントを打ち、ここぞというところで決められる選手。それにディフェンス力があって、ディフェンスをしながらシュートを打ち続けられるところがすごい。僕もそうなりたい」
これまではディフェンスが課題だった田中だが、今大会はアグレッシブにプレッシャーをかけて、スティールを連発するようになった。スティール部門では平均3個を記録して1位にランクイン。課題を一つずつ克服している田中は、来年も攻防の中心となって打ち続けるだろう。
「来年の明成は小さいチームになってしまうのでとても大変です。優勝した喜びに浸りたいけれど練習するしかありません。1、2年生の中では自分がいちばん多く試合に出て経験をさせてもらっているので、この経験をみんなに伝えたい。先輩たちがやってきた明成のバスケットを受け継いで、来年も日本一を目指します」