文・写真=小永吉陽子

八村のファウルトラブルに耐えて修正した明成

大黒柱の八村阿蓮が前半で4ファウルの大ピンチ――。この崖っぷちから、耐えて踏ん張り、62-59の3点差で洛南(京都)に勝利した明成(宮城)が、2年ぶりのベスト8へ進出した。

死のブロックと呼ばれたトーナメントの『右下ブロック』。明成と洛南の3回戦は期待通りの手に汗握る熱戦であり、我慢比べ合戦になった。

2回戦で市立船橋(千葉)との激戦を制した後、洛南のエース津田誠人は「市船は3ポイントのチームだったので、落ちたシュートを拾うことで主導権を握れた。明成は中が強いチームなので市船とは戦い方は違うけれど、やっぱり阿蓮(八村)のところを抑えるリバウンドがカギになる」と話していた。

その言葉通り、津田を筆頭にリバウンドで勝ったからこそ(洛南42本、明成31本)明成を苦しめたのだが、明成はインサイドが強いだけのチームではなかった。八村のファウルトラブルから突破口を開いたのは、田中裕也の3ポイントと、相原アレクサンダー学のドライブインだった。

硬かった出足、駆け引きを繰り返し耐える展開に

明成の出足は硬かった。激しいディフェンスからリズムをつかむのが明成の戦い方だが、八村にファウルがかさんだ状態ではリバウンドを支配できず、走ることができなかった。その停滞したリズムを最初に打破したのが2年生シューターの田中だ。第2クォーター開始早々に八村が3つ目のファウルを犯して暗雲が立ち込めたそのすぐ後に、スティールから3ポイントを決めて流れを一変させる。第2クォーターだけで3本の3ポイントを決めて試合を接戦に持ち込んだ。

第3クォーターに八村が4つ目のファウルを犯すと、今度はキャプテンの相原が躍動した。洛南が大橋大空から津田への速攻で走ったその刹那、猛然たる勢いでブロックに跳んで止めたのが相原だ。長い手足を生かした得意技が出たことでスイッチが入ったのか、相原は持ち味のドライブインを幾度も仕掛けて得点につなげてファウルを誘い、さらには3ポイントやタフショットも飛び出し、第4クォーターだけで11得点、計18得点と躍動したのだ。

明成は得点との駆け引きで、八村をベンチに下げてはコートに出すことを繰り返しながら、耐えに耐えながら第4クォーターに入ると、疲労からか足が止まってミスが出始めた洛南を前にしてディフェンスをオールコートのゾーンプレスに切り替えて積極的な姿勢で攻め続けた。

ゲームの終盤、6点のリードを奪ってからの明成は、洛南が力を振り絞って放つシュートに対し、八村が高い位置でリバウンドをもぎ取り、豪快なブロックショットを重ねてゴール下を支配。3点差で逃げ切った。

相原「阿蓮は俺たちに任せてくれました」

洛南との大激戦を振り返って明成の佐藤久夫コーチは、「八村のファウルトラブルと今日のゲーム展開は『まだまだ』だったけれど、4つ目のファウルを犯してからの八村は、自分のやるべきことはやった。何より今日は相原と田中が良くやってくれた試合」と勝因を語った。

田中はどんな場面にも動じないシューターで、1年から試合に出ている選手。そして相原については「この2年間はあいつのミスで何回も負けてきたけれど、今日はアレックス(相原)で勝たせてもらったのでうれしい。下級生の頃から使ってきて3年目の冬だからね」と笑みを見せた。

実際、相原は昨年のウインターカップ1回戦の尽誠学園(香川)戦ではファウルアウトとなり、良いところが全くなかった。現在はシューティングガードを務めるが、将来のポイントガードを目指してゲーム作りを経験させていた時期もある。そのため、ハンドリングや状況判断においてミスが出ても目をつぶりながらも試合に起用して育成してきた。自信を持つまでに時間を要した選手だったが、洛南戦で窮地を救ったドライブインやブロックショットなど、その躍動感あふれるダイナミックなプレーこそ、これまで期待し続けた姿だ。

18得点4リバウンドと奮闘した相原は「阿蓮がいなくなった時を想定した練習はしてきたので、不安はなかったです。アレンも俺らに任せてくれたので強気でやれました」と激闘を振り返ると同時に、安堵の表情も見せた。「これまで自分はチームに迷惑をかけて負けてきたので、勝負どころで決められてうれしいです。インターハイ後は劣勢になったときに声を出して、みんなで協力して良い雰囲気作りをすることを心掛けてきたので、それができたから勝てたのだと思う」

洛南との激闘を制し、明成は2年ぶりの8強入り。しかし、勝利の余韻に浸ったのは勝った瞬間だけ。「今日はリバウンドとルーズボールで気の緩みがあったところを突かれたので、ここからはリバウンドとルーズをもっと頑張って走らないといけない。それが明成のバスケットなので」と相原は気を引き締める。ここまでの戦いにはどこか硬さが見えた明成だが、洛南との大一番を制し、ピンチを乗り越えたチーム力でメインコートに挑む。