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コービーも心を開いて話すことのできる「稀な人物」

NBA中継に欠かせなかった名物リポーターのクレイグ・セイガーがこの世を去ってから、1年が経った。

奇抜なデザインのスーツに身を包み、コート上でスーパースターたちと見せる掛け合いは職人芸の域に達していた。セイガーとの絡みが頻繁に話題になったスパーズ指揮官のグレッグ・ポポビッチは、訃報を聞いた際に「彼はあらゆる形で特別な存在だった」とその死を悼んだ。また、「プロとしても素晴らしかったが、なによりもその人間性が素晴らしかった。試合前後、試合中であっても、人との交流が大好きな人物で、我々もそのことを感じていた」と絶賛するほどの人物だった。

没後1年が経ち、セイガーの妻が亡き夫に関する文章を『The Players' Tribune』に寄稿。その中では、知られざるセイガーのインタビュー術についても触れられている。

妻のステイシーさんによれば、セイガーは番組プロデューサーからインタビュー内容について指示されるのを拒み、常に自ら周到な準備を行なっていたという。取材時間が限られ、3つの質問しか聞けない条件であれば、最低でも20の質問を考え、選手の受け答えによってインタビューを進める方向を柔軟に変えていったのだとか。

セイガーとのインタビューについて、コービー・ブライアントは、「アスリートが快適に、心を開いて話せる稀な人物」と語ったことがあった。現役時代にはピリピリムードのことが多く、くだらない質問を一蹴することもあったコービーがここまで言うのだから、『仕事仲間』としてのセイガーとの関係は特別なものだったのだろう。

メディアとの受け答えが日常生活の一部になっているプロアスリートからすれば、同じことを繰り返し聞かれれば杓子定規のようなインタビューになってしまう。聞き手が自分に対して深い造詣を持っていると感じれば、心情的にも、これまでどのメディアにも話していなかった内容をついつい話してしまうものだ。

NBAの名物リポーターが旅立ってから1年、今後セイガーのような個性派で人情派のリポーターは、再び現れるだろうか。人は、いなくなってからその大きさを知られるようになる。まさに、セイガーに当てはまる表現と言える。