文・写真=鈴木栄一

ここ一番の得点力で接戦を勝ち切ったチームに貢献

11月18日、琉球ゴールデンキングスは名古屋ダイヤモンドドルフィンズと対戦。試合終了のブザーが鳴るまで勝敗の行方が分からない激戦を67-64で制した。オフシーズンに行った手術の影響から11月4日に今シーズン初出場を果たしたばかりの古川孝敏にとって、接戦での試合終盤においてコートに立っていた初めての機会となった。

この試合、古川は8得点をマーク。中でも第4クォーター、1点差に迫られたオフィシャルタイムアウト明けにジャンプシュートを決め、相手に傾いた流れを断ち切った。そして4点リードで残り1分を切った場面では、津山尚大の外れたシュートに対し、オフェンスリバウンドをつかんでからのシュートをねじ込み6点差へと広げるなど、ここ一番での得点力が光った。

得意の3ポイントシュートは、この試合で4本中成功なし。11月4日の北海道戦で今シーズン初登場を果たしてから、これで10本中いまだ成功なしではあるが、持ち味が不発でも球際に強さを発揮するタフなプレーで貢献できる強みをしっかりと見せた一戦となった。

古川とは東海大学、そして栃木ブレックスで同僚だった佐々宜央ヘッドコーチは、「古川は今、温かい声援を受ける中で、期待に応えたいというプレッシャーがあると思います。彼とは付き合いが長い中で、3ポイントが入らない時もあるだろうという感じです。ただ、シュートが入らない時に泥臭いプレーを出してくれているのが良いことです」とその働きを評価している。

古川自身も、「オフェンスの部分で言えば、意識しているのはチャンスがあれば狙うことくらいです。最後、決まる、決まらないのは結果論のところもあります」と言及するのみ。それよりも「入りから自分たちのディフェンスをするという意識がある中、1試合を通して激しいディフェンスができましたが、コミュニケーションミスなどもったいない部分があったので、そこをもっと詰めていきたい。ただ、40分間、気持ちを持って全員で戦えました。こういう厳しい戦いを勝ち切ったのは大きい」と手応えを語る。

「我を出しすぎないことは意識しています」

昨シーズンの古川は栃木ブレックスで優勝に貢献するとともにプレーオフMVPを受賞している。琉球では当然のように得点源としての期待を受けての入団となった。しかし、アジアカップで負傷した足首の手術を8月下旬に行ったことで、琉球での実戦デビューは11月まで遅れてしまった。

本来であれば、エーススコアラーとしてチームを牽引する働きが期待されるが、現状はまだまだ周囲との連携を深めていくところ。「自分らしさをうまく流れの中で出せていければと思いますが、合流して間もないので、僕がどうしたいか伝わりきれていない部分もあります。チームの流れを崩さないよう、自分の我を出しすぎないことは意識しています」と、まずは自分がチームの流れにうまく乗ることを重視している。

そして「自分がパフォーマンスを上げなければという意識ではなく、チームが勝つ為にその中で自分らしさを出せるところがあれば、積極的に出していきたい。満足していないわけでも、満足しているわけでもないです」と、あくまでチームの歯車としての立ち位置を強調している。

「国を背負って戦うとはこういうこと」

また、故障から復帰したばかりであるものの、古川は日本代表に招集され、ワールドカップ一次予選のメンバーにも選ばれている。復帰直後でコンディションを上げていく段階で、代表との両立は他の選手以上にタフな状況ではあるが、「呼んでもらえるのがそもそもありがたい話です」と気にすることはない。

「肉体的、精神的に『しんどいでしょ』と言われればそうかもしれないですが、国を背負って戦うとはこういうことだと思います。環境は何の言い訳にもならない。自分の最大限のパフォーマンスを、チームでも代表でも機会があれば出さないといけない。こういう状況はうれしく思うのでポシティブな意識でやらせてもらっています」と、周囲の期待を意気に感じて取り組む。

ここまで、要所での3ポイントシュートというオフェンス面での爆発力を見せられていないのは、もどかしい部分があるかもしれない。それでも、「ここでステップアップしていかなければいけない。単純にチームのために何ができるかを考えてやるようにしています」と古川は焦らない。シュートを打つべきタイミングでしっかり打っており、やっていることの方向性に間違いはない。長距離砲が爆発するのは時間の問題。琉球ファンはそう楽しみに待つだけだ。