文=鈴木健一郎 写真=古後登志夫

「早く始めた分だけ完成度が高いんです」

1年でのB1復帰を目指す秋田ノーザンハピネッツは開幕11連勝と最高のスタートを切り、開幕から1カ月にして『昇格は半ば決まり』との印象を周囲に与えている。しかし、キャプテンの田口成浩は「そんなこと、全く思っていないですね」とこれを明確に否定する。チームの出来に十分な手応えを感じていてもなお、田口はスタートダッシュの要因を「開幕時点での完成度が高いから」と見なし、油断するまいと気を引き締めている。

「チームを作る段階で、8月1日から外国籍選手も含めて一緒に合流してやれました。だから完成度が高いんです。選手同士のコミュニケーション、ヘッドコーチの言っていることを理解する時間は、早く始めた分だけ僕らが一番長かったんです。でも、このままずっと行くとは思いません。レギュラーシーズン最後の60試合目までを戦って、プレーオフで勝って、それでやっとB1に上がれるわけですから気は抜けません」

B2での戦いに集中する田口だが、その一方でB1については「常に意識しています」と言う。

「B1とB2のレベルの違いを自分は肌で感じています。今はB2で勝てていますが、『今のプレーはB1だったらやられていたな』みたいに、B1のレベルを意識しながら見ている部分はあります。B2に合わせるのではなく、B1で勝てるバスケをしていかなければならない。より高いレベルで物事を考えて一つひとつ勝っていこうと常にヘッドコーチからも指示されるので、それをチームで共有しています」

「今シーズンは覚悟の1年だと思っています」

ヘッドコーチが代わり、田口の起用法にも変化があった。シューティングガードの1番手という立場は変わらないが、『出ずっぱり』だった昨シーズンに比べて出場時間は短くなり、ここまで11試合で4試合はベンチスタート。2連戦でともに先発出場したのは信州ブレイブウォリアーズ戦だけだ。

タイムシェアは理に適っているとしても、先発を外れることに戸惑いはないのだろうか? 「今シーズンは覚悟の1年だと思っています。使われるのも使われないのも覚悟。勝つことがすべてなので、プレータイムとか先発とか、個人のスタッツも正直どうでもいいです。とにかく勝てればOKなんです」

話を聞いたのは10月29日の仙台89ERS戦の試合後。この日のプレーを例に挙げて田口は説明してくれた。「自分はファウルで下がりましたが、その後に周りの選手がカバーして良い流れをつかんでくれました。それでダメなら自分がまた行ったかもしれませんが、今日はサポートする選手が一人ひとり役割を果たした中で勝てました。『なんで俺じゃないんだ?』とは全く思わなかったです。ベンチで『よし、このまま行け!』と思っていました」

システマチックな新スタイルは『効果抜群』

ペップヘッドコーチの新しいバスケットに、田口は大いに刺激を受けている。前から激しく当たるハードディフェンスは試合を見れば一目瞭然の特徴。だがそれだけではなく、攻守に渡り決まり事が増えたシステマチックなバスケを採用している。「決まり事しかないですよ」と田口は苦笑しながらも、その『効果抜群』ぶりをこう語る。

「相手のディフェンスの弱いところ、自分たちの強いところを比べながら、今はどこを突きたいのかを明確に指示してくれます。それをやらないと相当怒られます。今まで11試合やってきましたが、前半に指示を守らなくてハーフタイムに激怒されて、それで後半に指示どおりにやったら『めっちゃうまく行くじゃん!?』みたいなこともありました」

「ボールを持った時、コーチの指示が右だったとしても、左が空いていたら思わず左にパスしちゃうじゃないですか。でも、コーチは『そこを突きたいんじゃない』、『我慢してこっちにしなさい』と言うんです。それをやることで次の動きが生まれます。指示どおりにやると、空いていない方向にパスを出したのに不思議なぐらいうまく行ったりする。そんな経験が何度もある中で、自分たちも『だからみんなで指示をこなそうぜ』という感じになっています」

「チームで大事な時間帯をしっかり戦えるように」

そんな中、自分自身のレベルアップにも田口は意欲的に取り組んでいる。今シーズンの彼が目指しているのは、試合の流れに影響を与えられる選手だ。

「バスケットは流れのスポーツで、片方のチームに流れがずっとあることはありません。試合の大事な時間帯、ここぞという場面を自分が理解できるようになるのがまず目標です。40分間のすべてが大事ではありますが、相手に流れが行きそうなタイミングでの1つのプレー、チームに流れを呼び込む1つのプレーを判断し、それをチームメートに共有して、チームで大事な時間帯をしっかり戦えるように。それを伝えられる選手になりたいです」

個人のスキルアップではあるが、そのアウトプットはチームのためを想定している──。なんとも田口らしい目標だが、そう伝えると彼はわずかな照れ笑いを浮かべながらこう言った。「状況を読む力と伝える力が必要なので、相当難しいことだと思いますけど、もう28歳なんで。ミスも経験にして今後に生かせられるようにやっていきます」