文字通り『エースキラー』の大役をこなす
ウインターカップ男子決勝では福岡第一が福岡大学附属大濠との『福岡決戦』を制し、連覇を達成した。
大濠のエース、横地聖真をわずか9得点(ラストショットを除けば6得点)に抑えたことが勝因の一つとなったが、この大役を担ったのが内尾聡理だ。
「ボールを持たせないことは誰でもできるので、それを徹底しました」と言うように、常にプレッシャーをかけ続けて簡単にパスを出させない。ボールを持たれても絶妙な間合いを保つことで横地が得意とするジャンプシュートをイージーに打たせなかった。横地はドライブで飛び込んでは何度もクベマジョセフ・スティーブのブロックショットの餌食となったが、これは横地の望むジャンプシュートを打たせない内尾の守備による『アシスト』とも言える。
福岡第一の井手口孝監督が「ディフェンスの要となるのは内尾です。内尾が相手の一番良い選手を止めることによって周りが生きてきます」と以前に語っていたように、内尾が横地を抑えたことで福岡第一が試合のイニシアチブを握った。
片峯コーチ「内尾の存在が福岡第一の強さ」
堅守を誇る福岡第一でもNo.1のディフェンス力を発揮し、重圧の掛かるファイナルでも決定的な仕事をこなした内尾だが、「河村(勇輝)もうまいし、小川(麻斗)もうまいので、自分が一番とは思っていないです。自分一人で守っているわけじゃないですし」と謙遜する。
主役に値するパフォーマンスを見せたが、スタッツを見れば8得点4リバウンドと目立たない。「バスケは派手なプレーとか、3ポイントシュートとかを面白いと思う人が多いと思います。バスケをよく知っている人が、ディフェンスすごいって思ってくれればそれで良いです」と少し困ったような笑顔を見せた。
彼が言う「バスケをよく知っている人」の一人が、ライバル大濠を率いた片峯聡太コーチだった。試合後の会見で福岡第一との差を問われた片峯コーチは、「ボールの執着心は今日のゲームもそうだし、1年間どのゲームでも及びませんでした」と語るとともに、その象徴として内尾の名前を挙げている。
「ウチにも1対1ができる、3ポイントシュートを決められる選手はいます。でも、内尾君のようなどんな時にも迷わずブレることなくディフェンスを頑張り、ルーズボールに飛びつくプレーヤーを、私は育てることができませんでした。河村(勇輝)、小川(麻斗)、スティーブも素晴らしいですが、内尾の存在が福岡第一の強さじゃないかと今日思いました」
「苦しかったことのほうが多かったです」
日本一になった後も、内尾自身はサポートキャストとして謙虚な姿勢を崩さない。「去年のスタートが3人残っていて、自分と神田(壮一郎)が頑張らないといけない状態。2人のキャプテンが声を掛けてくれて、ミスをしても自分のやりやすいプレーをしろと言ってくれました。スタートの3人には迷惑をかけたけど、自分たちを引っ張ってくれて感謝しています」
こうした性格は後天的に出来上がったものだ。というのも、東町中学校時代は得点を量産するオールラウンドプレーヤーとして全国ベスト8。高校では日本一にと福岡第一に進んだが、そのレベルの高さに面食らった経験があるからだ。
「第一に来て、一番上のレベルを見たので。自分よりも上がいると分かりました。試合に出れない時期が長く、そこで自分はまだまだだなと思ったので、そういう環境がこういう感じにしたのかと(笑)」
全国トップクラスで活躍した選手であれば、プレータイムを優先して高校を選ぶ選択肢もあるはずだ。それでも内尾は「少しでも日本一に一番近いのはどこだろうと考えた時に第一だと思いました。試合に出れなくても上手い選手を相手に練習できるので自分がレベルアップできるとも思った」と、日本一という目標は曲げることなく努力を続けた。
去年の優勝メンバー、松崎裕樹と古橋正義の穴を埋めるために努力を続け、スタートの座を勝ち取っての日本一。有終の美を飾った内尾は「最高でした」とスッキリした表情を浮かべた。
「3年間を振り返ると、先生には一番怒られてきましたし、苦しかったことのほうが多かったです。それでも先生は怒り続けてくれて、他に上手い選手がいる中で自分をスタートで使い続けてくれたので、井手口先生に感謝したいです。チームメートも、コートを空けてくれたり、シューティングのリバウンドしてくれたり陰の部分で支えてくれて感謝しています。苦しい思いも、悔しい思いもいっぱいしてきましたが、1年間で2冠も取れて、人として成長できたと思います」