文・写真=鈴木栄一

「今のままだと圧倒的な成績を挙げるのは難しい」

10月20日、川崎ブレイブサンダースは、サンロッカーズ渋谷との接戦を85-83と制した。この日も大黒柱としてチームを勝利に導いたのがニック・ファジーカスで、20得点10リバウンドと安定のパフォーマンスだった。

「第1クォーターの後、ディフェンスがひどかったことを理解し、そこから立て直すことができた。オフェンスではピック&ロールを使って簡単な状況を作ってスコアを挙げることができ、要所で相手を止めることができた」

このように勝因を語るファジーカスだが、この日の20得点は彼にとっては少ない数字である。ただ、マッチアップしたロバート・サクレは、守備力を武器に一昨年までロサンゼルス・レイカーズで4シーズンに渡って在籍した選手。「サクレはディフェンスに優れた選手。大きな体の持ち主で当たりにも強く、彼から点数を取ったりゴール下から遠ざけたりするのは簡単ではない。彼をとてもリスペクトしているよ」と、リーグ最強の点取り屋であるファジーカスをもってしてもサクレ相手から得点を重ねていくことは難しい。ただ、その中でも及第点の数字を残すとともに、巧みなスクリーンで味方の得点をお膳立てと数字に残らないプレーでも役割を果たした。

「みんながステップアップしていかないといけない」

これで今シーズン5勝2敗と確実に白星を積み重ねている川崎ではあるが、一方で内容については昨シーズンと大きく異なる。ここまでの勝ちは接戦でのものがほとんどであり、勝ちが3つ先行していながら得失点差がわずか+10にとどまるなど、去年のように相手を圧倒しての勝利がほとんど見られていない。

この点について尋ねると、ファジーカスは次のように答える。「昨シーズンとはメンバーが違う。マドゥ(ジュフ磨々道)の引退は大きく、今は去年と同じような選手層ではない。この状況を理解し、みんながステップアップしていかないといけない。今のままだと昨シーズンのような圧倒的な成績を挙げるのは難しいと思う」

日本国籍の取得前には、2006年日本開催の世界選手権にセネガル代表として出場した経験もある磨々道の抜けた穴の大きさについて「彼は帰化選手で(桜木)ジェイアール、マイケル・パーカー、アイラ(ブラウン)たちに次ぐ存在だった。彼がいなくなったことで帰化選手なしで戦うことになり、オン・ザ・コート「1」での優位性がなくなった。そして、彼はスタッツに残らないところでの貢献が大きかった。特にディフェンスが良く、パスもうまくてバスケIQが高かった。彼の不在が大きいと感じることはあるよ」とファジーカスは言う。

「今日の勝ちも2月の勝ちも1勝は1勝で変わらない」

ここ数年、主力メンバーがほとんど変わっていなかった川崎にあって、今オフは磨々道の引退に加え、永吉佑也の移籍、さらにライアン・スパングラーに変わってジョシュ・デービスが新入団と大きな変化があった。すべてファジーカスとともにインサイドでプレーする選手たちである。

オン・ザ・コート「1」において4番ポジションを新たに担う野本建吾、鎌田裕也とのコンビネーションはまだ発展途上。「今は野本や鎌田をどのように使えばチームによりフィットするのか。そのためには何が必要なのかを探っているところ。まだ、7試合を終えたばかりだし、試合を重ねていけばより連携がスムーズになり、ケミストリーが生まれてくると思う」

そしてデービスについては、「彼は少しライアンと違うタイプ。彼は自分でボールを運べて、チャンスを作れる。ライアンとは違ったダイナミックを生み出せる選手だ」と評しているが、こちらもまだまだ連携に磨きをかけていきたい状況だ。

今の川崎は、「野本、鎌田、小澤たちがステップアップし、チームにエナジーをもたらす存在にならないとチャンピオンになるのは難しいと思う」とファジーカスが語るように、チームを去った選手たちの穴を埋めるべく若手の成長を必要としている。そして、若手の成長には経験が不可欠であり、そこには『産みの苦しみ』という我慢も必要となっている。

しかし、そうはいってもまずは試合に勝つことが何よりも大事。「成長するための我慢の時期はあるけど、より早くチームを修正してすべての試合で勝ちにいかないといけない。今日の勝ちも2月の勝ちも1勝は1勝で変わらない。プレーオフ近くになると、あの試合に勝っていれば……とかよく言われるけどね」とファジーカスが語るように、当たり前のことだが、いつ、どんな相手に挙げても白星の価値は同じ。この慢心なき絶対的エースを軸に、川崎は昨シーズンのような爆発力を一刻も早く取り戻していきたい。