セカンドチームが王者の攻撃を4点に抑えた第2ピリオド

相手の行く手を阻み、オフェンスファウルを奪った橋本竜馬は、青に染まる観客席に向かって吼えていた。攻守交代し、東芝神奈川のディフェンス時、続けざまに2つ目のファウルを犯した辻直人はベンチへ下がらざるを得ない状況となる。40分間で4つのファウルは認められるが、5つ目は退場を命ぜられるのがバスケのルール。ティップオフからまだ1分27秒しか経っていない。先々を考えると、ポイントゲッターの辻をベンチへ下げねばならず、早々に東芝神奈川にとってはトラブルが発生した。

辻とニック・ファジーカスが東芝神奈川の得点源であり、これまでの3試合を振り返ると総得点の57%をこの2人が占めている。ベンチメンバーの得点は平均3.2点に留まり、アイシン三河の優勝を加速させる数字となって現れていたはずだった。しかし、「バスケットは算数じゃねぇ」という名作スラムダンクの名言どおり、統計では図れない。

辻に代わってコートに入ったのは藤井祐眞。藤枝明誠高校時代、ウインターカップ(2008年2回戦、海部戦○162-79)で1試合79得点を記録した得点の鬼である。今はポイントガードとしてチームをコントロールすることに徹しているが、ゴールを狙えばしっかりネットを揺らし、3ポイントシュートを決めて辻の穴をしっかりと埋めていく。

ファジーカス以外、先発メンバーを交代させて臨んだ第2ピリオド。セカンドチームのディフェンスが機能し、6分間アイシン三河に点数を許さない。ベテラン柏木真介がボールを持ったまま何もできず、5秒バイオレーションを取られる珍しいシーンもあった。藤井とともに、山下泰弘が確実にジャンプシュートを決めて点差を離して行く。この10分間でアイシン三河はギャレット・エドワーズの4点しか挙げられず、東芝神奈川が40-25とし15点差を付けた。

セカンドチームの活躍について、「特別な指示はしていない」というヘッドコーチの北卓也はこう振り返る。「辻が(2ファウルでベンチに下がり)いなくなったことで、相手も油断したところがあったとは思うが、控えメンバーがシュート決めてくれたことで的が絞りづらくなった」

好守両面で存在感を発揮し、チームを勝利に導いた長谷川。

仲間を信じ、チーム全員でカバーし合って頂点へ

15点リードして迎えた第3ピリオドにコートに戻った辻にとって、2つのファウルはすでにトラブルではなくなっていた。不在の時間帯をしのいでくれた仲間たちに、辻は感謝の弁を述べる。

「出だしでやらかしてしまったので、前半は他のメンバーがすごくがんばってくれて、チームに勢いが出て東芝らしいバスケができた。後半、僕が出た時は15点リードしていたので、気持ち良くプレーさせてもらったことをチームメートに感謝したい」

比江島慎を10点に抑えた長谷川技、藤井祐眞のディフェンスが光る。これまでは辻とやり合っていた比江島であったが、今日に限っては「やりづらい部分があった」と言う。その中でも相手の方が小さい分、「ポストで攻めたり、もう少しリバウンドで絡んで行かなければ攻略できないと思う。まだ、対策は分からないので考えていきたい」と困惑していた。

その点についてアイシン三河の鈴木貴美一ヘッドコーチは、「相手は小さいのに、ドリブルをたくさん使ってなんとかしようとし過ぎてしまい、オフェンスでエネルギーを使い、ディフェンスで休んでしまっていた」と試合を振り返る。

2シーズン前に優勝した時も、セカンドチームの安定した働きが東芝神奈川の強さでもあった。そのストロングポイントが戻ってきたこの試合で2勝2敗に追い付き、逆に王手を懸けた。

「もちろん辻とニックが中心選手ではあるが、チームスポーツなので周りの選手の活躍が勝利に結びつく。明日も総力戦になると思うので、全員の調子が良ければよいのだが、誰かがトラブルを起きれば誰かがカバーしなければならない。チーム全員で仲間を信じてやるだけ」と北ヘッドコーチは抱負を述べた。

あと1勝に迫りながら、82-60と大敗を喫したアイシン三河であったが、試合終了後すでに気持ちを切り替えるように橋本は不敵な笑みを浮かべていた。それは会見のコメントからもうかがえた。

「明日、必ず勝ちます!自信を持ってやれば必ずやれる。先ほど比江島が、まだ対策はできていないと言ったが、そんなものは必要ない。とにかく思い切ってプレイすれば、彼の力ならば必ずできると信じているし、チームとして立ち向かって行けば必ずやれる。今までやってきたことをしっかりやれば必ず勝てる自信はある」

自分自身を鼓舞するように、闘志溢れる言葉を残していたのは恐ろしい。

比江島もまた、「泣いても笑っても最後なので、自分の持てる全ての力を出し切って、お互いを信じ合ってやれば勝てる自信はある。明日までにしっかり修正して、全部を出し切って優勝したい」と語っていた。

そう、勝っても負けても明日が最後であり、どちらかが優勝し、いずれかが悔し涙を流すかまたは唇を噛むことになる。最高の瞬間を手にするまで、あと40分間しかない。最終戦のチケットはすでに販売中だ。