「復帰後1年は以前のようなパフォーマンスはできない」
2019年のNBAファイナル第6戦で左膝前十字靭帯(ACL)を断裂する重傷を負ったウォリアーズのクレイ・トンプソンは、早ければ来年の2月頃に復帰できると見られている。だが、ある専門家は、ACLを負傷したアスリートに対して一般的に言われている、復帰まで10カ月から12カ月という説に警鐘を鳴らしている。
生体力学の研究にキャリアの大半を費やしてきた『Mayo Clinic』のティム・ヒューエット医師とクリストファー・ナジェリ医師は、ACLを断裂したアスリートは、2年は復帰すべきではないと『Heavy』に語った。
過去にNBAのトレーナーと意見を交換したことがあるヒューエット医師は「クレイの件に関する事実を共有させてもらいたい。これは私個人の意見ではなく、科学的な考えと事実に基づくもの」と前置きした上で、2年の休養が必要な理由を述べた。
「こういう意見は聞きたくないかもしれない。でも、これが事実。もし2年が経つ前に復帰すれば、再発のリスクが高まる。そして、復帰してから1年は以前のようなパフォーマンスはできない」
ACL断裂から復帰した選手は少なくない。ただ、ヒューエット医師の指摘にあるように、同じケガから復帰したジャバリ・パーカーは、復帰後に再びACLを断裂した。またデリック・ローズもACL断裂後から故障が続くなど、大腿骨と脛骨を結び、関節を安定に保つACLの断裂はアスリートに与える影響が大きい。
ヒューエット医師は、高額な年俸を受け取る選手ほど、慎重になるべきと言う。
「復帰時期が早ければ早いほど、再発のリスクは上がる。年俸が1500万ドル(約16億円)から2000万ドル(約22億円)の選手ほど、人体の仕組み、生理機能、それからパフォーマンスが元通りになるまで復帰を待つべき」
ACL断裂から復帰した選手は、『感覚のズレ』を主張するケースが多い。気持ちの問題という意見もあるが、ヒューエット医師によれば、靭帯の再建手術を受けた場合、靭帯としての機能が通常レベルに回復するには18カ月から24カ月は必要だという。
「感覚のズレは精神的な問題ではなく、肉体的な問題でもある。再建部分が完全に治っていないということ。靭帯の機能が戻るには、18カ月から24カ月はかかる。以前の状態のベースが出来上がるまでには、そのくらいの時間がかかる。その前に復帰すれば、靭帯がまだ回復していない状態でプレーするようなもの」
ACL断裂から復帰し、再発しなかった選手は、復帰2年目のパフォーマンスがケガをする前の状態に近づくという傾向もある。ブルズのザック・ラビーンは、2017年の2月にACLを断裂し、2017-18シーズン途中に復帰したが、24試合で平均16.7得点、フィールドゴール成功率は38.3%だった。それが2018-19シーズンは63試合に出場して平均23.7得点、フィールドゴール
成功率は46.7%とキャリアハイをマークした。ラビーンのケースは、ヒューエット医師が主張する理論に当てはまる。
人体の構造上、再建手術を受けたACLが元通りに回復するまで2年かかるというのなら、トンプソンにとって理想的な復帰時期は2021-22シーズンということになる。当然ながら、2020年の東京オリンピック出場も諦めるべきだ。
この夏にウォリアーズと5年1億9000万ドル(約205億円)のマックス契約を結んだのだから、復帰を急ぐ必要はない。単純計算しても、球団は今後2年をリハビリに費やす選手に7600万ドル(約82億円)を支払うことになり、トンプソンも退屈なリハビリを続ける生活になる。ただ、2019-20シーズン中に復帰することで再びACLを断裂するリスクが高いのならば、30代後半まで現役を続けたいと話すトンプソンにとっては、2021-22シーズンに復帰したほうがメリットがあるように思える。
もしリスクを取り、膝、もしくはほかの箇所をケガすれば、彼の契約はウォリアーズの『不良債権』と化してしまう。
どちらの道を選択するかはトンプソンとウォリアーズ次第だが、ACL断裂という重傷を負った選手のキャリアのためにも、ヒューエット医師の見解は、考慮されるべきではないだろうか。