先日、U-19ワールドカップで大躍進を果たした日本代表に増田啓介、鍵冨太雅、西田優大のOBを、そして2年生の中田嵩基を送り出した福岡大学附属大濠。それ以前の実績を含め、「上で通用する人材」の育成では突出した実績を誇る。それでも2014年のインターハイ優勝、ウインターカップ準優勝を最後に、上位から遠ざかっている。昨年は同じ福岡県のライバル、福岡第一が2冠を達成。今回のインターハイでは覇権を取り戻すとともに、『育成の大濠』ではなく『強い大濠』であることを見せたいところ。チームを率いる片峯聡太監督に話を聞いた。
「声を出す選手が主体的にバスケットを頑張っています」
──インターハイ開幕が近づいてきましたが、今のチーム状況はいかがですか。
ケガ人もいないですし、U-19ワールドカップが終わって中田が戻ってきました。彼もキツいだろうけれど、求心力が戻ってきたという感じで、チームに安心感が出てきました。
──去年のチームと比べると、今年のチームはどこが強みになりますか?
昨年まではオールラウンダーが5人ないしは4人いるチームでしたが、今年はガード、フォワード、センターが役割を明確にして、その部分を磨いています。ゲームによって対応するバランスの取れたチームバスケットを目指しています。また3年生だと永野(聖汰)、2年生は中田と土屋(大輝)。それからプレータイムが長いわけではありませんが山本(草大)など、よく声を出す選手たちがすごく主体的にバスケットを頑張っています。
──全九州大会では走り負けしていた部分があったように思いますが、インターハイに向けて修正できていますか?
走り負けの原因はバスケット自体の運動量などではなくて、ゲームの流れをコントロールできる選手が中田しか今のところいないことでした。ガンガン積極的にやる選手は揃っているのですが、それをコントロールする中田の不在が裏目に出てしまったのかなと。積極性がうまくいっていれば、ああいう展開にはならなかったんですが、そこがうまく行かない時のコントロールは中田でないとできなかったです。
──チームから代表選手を出すのは名誉なことですが、主力が抜けてチーム力が落ちてしまう葛藤がありますね。
私以上に本人のほうが葛藤が強いでしょうね。中田の代わりを作ろうとするのではなくて、いる選手が持っているものの中でチームを作っていくことが監督としての私の役割だと思っています。選手がいないことに執着すると言い訳になります。そうじゃなくて、代表で活躍して経験を積んだ中田が帰ってきてチームのプラスアルファになるようにチームを作っています。
「心の部分はある程度こちらから作ってあげないと」
──インターハイでは2年連続でまさかの1回戦負け。このところ全国大会で上位から遠ざかっています。勝つことのプレッシャーはありますか?
プレッシャーというよりも「勝ちたい」という欲を大きく奮い立たせることが必要です。去年はそれこそ日本代表に選ばれている選手も多くて、このチームで何とか結果を出さなきゃと真剣に思っていた選手が全員ではなかったかもしれません。そういった意味で今年のチームは全国での勝利に飢えています。
──勝利への意思が練習中からも明確に見えるように感じます。それは本人たちが自然にそう思っているのか、監督から伝わっているのか、どんな流れで貪欲さが出ているのでしょうか?
寝る時間以外、私は彼らのことを見ています。怒ることもあるし、勝ちたいと思うよう仕向けることもあります。永野や中田あたりは、昔から競い合いの中で生きてきている分、そういう気持ちは強いのですが、競い合いに慣れていない子たちにもアプローチしていくようには要求しています。
──高校バスケで徹底的に勝ちにこだわったチーム作りをすべきかどうか、非常に大きな問題です。片峯監督はどう考えますか?
それは私も自分自身の指導のあり方の課題だと思っています。チームの強化だけを考えれば大きな選手はセンターかフォワードだけやっていればいい。でも、このあたりを見据えて育成と強化をやってきた私の経験からすると、これは特に高校生くらいだと相反するものです。育成と強化の接点は正直今もまだ模索し続けています。
──卒業後の活躍ぶりを見るに、大濠は育成が強いというイメージです。どのような選手が成功する人材なのでしょうか?
今まで教えてきた選手もそうですし、私の現役時代の同級生や先輩もそうですが、言われてやるのではなく自分から行動できる選手が結局は第一線まで登り詰めています。ただ、入学してくる子がみんなそうではありません。1年目は言って怒ってとにかくやらせる、2年生になれば言われたことがちゃんとできるようになり、3年生で言われなくても自分の意思で行動できる。そんなプロセスで心と身体が成長した選手は、大学からも「欲しい」と声がかかって上のリーグに行きます。
あとは心というか、覚悟ですね。これはどのカテゴリーでも同じですが、生活の中心にバスケットをブレることなく置くことができるか。これは絶対条件であって、それに付随して身長や能力といった要素が絡んできます。結果が出ることでバスケットを最優先にする覚悟ができる子もいますが、心の部分はある程度こちらから作ってあげないといけません。
例えば今は筑波大にいる杉浦(佑成)。入学してきた時から身体が大きかったですが、心は普通の中学生でした。それをコントロールできるようになって努力できた選手です。
「ただやるだけじゃなく、理に適ったことをやり続ける」
──今回のインターハイ、勝負のポイントはどこになるでしょうか?
1回戦の実践学園(東京)も力があるし、6試合すべて気が抜けません。3回戦以降は留学生がいるチームとたくさん当たるはずで、逆に大濠しか勝ち上がれない組み合わせだと思います。今は何が厄介かと言うと、できる留学生選手が2人いますから、そこは昔との違いです。1人だったら大丈夫なんですけど、ウチに井上(宗一郎)が2人いるわけじゃないので。そこはゲームの流れを読んで一工夫が必要になります。
留学生がいるチームと当たるまでは、自分たちの良いところをしっかり出せば問題ないと思っています。そこから先は、いかに相手の強いところをチームで潰して、自分たちの弱点をチームでカバーして、逆に相手の劣るところを徹底してやっつけられるか。ただやるだけじゃなく、理に適ったことを40分間やり続けないと。そこが試されます。
自分たちのバスケットができたら勝てて、できなければ負けるのではなく、自分たちで流れを持ってくるのが強さ。相手によって戦い方は多少変化させるべきだと私は考えています。
──では最後に、インターハイに向けた意気込みを聞かせてください。
大濠が全国大会でどのような結果を残すか、皆さん重要視していると思います。我々も全国大会で優勝することが最大の目標です。一戦必勝で緩むことなく、自分たちの持ってる力を日々出し切って、それを6日間皆さんに披露していけるようにしっかり頑張っていますので、応援をよろしくお願いいたします。