「チームスポーツでは、エゴは脇に置いておくべきだ」

スパーズのビクター・ウェンバニャマに41得点24リバウンドと大暴れされた第1戦を落とし、サンダーは追い込まれていた。7戦シリーズの初戦とはいえ、ホームで敗れた痛手は大きい。第2戦は勝利はもちろん、ウェンバニャマに対する『回答』も求められていた。

それがアイザイア・ハーテンシュタインだった。第1戦では先発するも12分しかプレータイムのなかったハーテンシュタインは、第2戦を前に指揮官マーク・ダグノートから出番が増えることを告げられていた。

キャリア8年目の28歳、父親がドイツ人で、プロ選手だった父がプレーするドイツで育ったハーテンシュタインは、ドイツとリトアニアでプレーした後にNBAへとやって来た。ガードだった父親を見てバスケを学び、ドイツのユースプログラムで育った背景から、7フッターのセンターでありながらハンドリングができ、バスケIQも高い万能性が彼の持ち味だ。

NBAで多くのチームを渡り歩く中で、彼はその万能性のすべてではなく、『必要な時に必要なものを』発揮してきた。半年だけナゲッツでプレーした時は、ニコラ・ヨキッチを休ませる時間を繋ぐためのハードワークを、リバウンドの強いミッチェル・ロビンソンがいたニックスでは、ディフェンスの規律を整えるとともにプレーメークにも絡んだ。クリッパーズではストレッチ5の役割に応えて3ポイントシュートを打っていたが、移籍して3ポイントシュートが求められないとなれば封印した。

2年前、フリーエージェントとなった彼にサンダーは3年8700万ドル(約130億円)の契約を与えた。若手のポテンシャルを見抜いて育てるサンダーは、そこに足りない要素をフリーエージェント市場に求める。多彩な能力を持ちながら、エゴを出すことなくチームの要求に応じられるセンターとしてハーテンシュタインは評価された。彼とアレックス・カルーソの獲得が、サンダーを優勝へと押し上げる決め手となった。

そして今回も、ハーテンシュタインはその万能性を発揮した。今回求められたのはウェンバニャマを試合から消すこと。第1戦でのウェンバニャマは25本のシュートのうち18本が制限区域内から打ったもの。その外から打ったシュート7本のうち決めたのは2本だけで、ジャンプシュートのタッチが良かったわけではない。ゴール下で自由にプレーできたことで彼はアンタッチャブルな存在となっていた。

指揮官ダグノートがハーテンシュタインに求めたのは、ウェンバニャマを制限区域から押し出し、自由を与えないこと。ハーテンシュタインはこれに応え、スキルやバスケIQを封印してダーティワークに徹した。「チームスポーツでは、エゴは脇に置いておくべきだ」とハーテンシュタインは言う。

「第1戦ではスパーズが僕らよりフィジカルに戦っていた。だから今日は試合序盤から僕らがフィジカルで優位にあることを示したかった。僕はもともとフィジカルなプレーが得意だし、それがチームに必要であればやるだけだ。良い流れを作れたことでチェット(ホルムグレン)も後半はより激しく戦えていたし、チーム全体としてフィジカルに戦えたと思う」

ウェンバニャマに対しては常にコンタクトし、腕を絡めて行きたい場所に移動させず、パスを受けるだけでも一苦労という状況を常に作り続けた。「ビクターは本当に素晴らしい選手で、止めるにはフィジカルに当たり続け、リム付近でのイージーシュートを打たせないしかない。もちろん全部は止められないけど、一つひとつのプレーを可能な限り難しくさせるんだ」

ハーテンシュタインの奮闘により、ウェンバニャマの仕事は難しくなった。制限区域にポジションを取ろうにも押し出され、そこで踏ん張っても簡単にはボールをもらえないし、ゴールを向いてプレーするのはさらに困難だった。プレーエリアを外へ外へと広げられ、イージーな2点とリバウンドの機会が削がれていった。それでも21得点17リバウンドを記録したが、それでは勝利に十分ではなかった。

ハーテンシュタインのプレーを『アンチ・バスケットボール』と批判する意見は当然あるだろうが、ハーテンシュタインはチームから求められる仕事をただ果たすだけだ。ウェンバニャマは「純粋に努力の問題だ。もっと戦わなければいけなかった」と苦戦を振り返ったが、もう第1戦のようにゴール下で自由にプレーする機会はやって来ないだろう。