ランドリー・シャメット

解雇を乗り越えた29歳、NBAキャリア8年目での復活劇

キャバリアーズとのカンファレンスファイナル第1戦で、ニックスは第4クォーターに32-18の猛反撃を見せて同点に追い付き、延長で勝利した。最大22点のビハインドを背負って敗色濃厚だった試合で、文字通りの『ゲームチェンジャー』となったのがランドリー・シャメットだった。

前半は3分のみの出場で得点なし。第3クォーターはコートに立つこともなかった。その彼が投入されたのは第4クォーター残り9分のこと。その1分半後に点差は22へと開くのだが、ジェイレン・ブランソンがギアを上げるとともに、シャメットが攻守に存在感を発揮し始める。

それまで29得点を挙げていたドノバン・ミッチェルをマークして、そこから延長を含めてシュート5本をすべて外しての無得点に抑え込む。シャメットいわく「それまでほとんどプレーしていなかったから、あり余っていた力を相手にぶつけた」というディフェンスで、キャブズのエースを沈黙させた。

オフェンスでは第4クォーターで2本、延長で1本の3ポイントシュートを決める。『ホット』なシャメットが相手ディフェンスを引き付ける引力を放ち始めたことでスペースは広がり、ブランソンのドライブは効果を増した。

シャメットはNBAキャリア8年目の29歳。サイズのある多彩なガードだが、ルーキーイヤーの途中にクリッパーズにトレードされ、そこから流転のキャリアを送ってきた。カワイ・レナードとポール・ジョージのクリッパーズ、ケビン・デュラントとジェームズ・ハーデンのネッツ、デビン・ブッカーとクリス・ポールのサンズと、常に結果を残してきたが定着には至らず。昨シーズンの開幕前には肩を脱臼し、ウィザーズを解雇された。

その彼が再起の場として選んだのがニックスだった。トム・シボドー体制の昨シーズンは出番が限られ、フリーエージェントとなった昨年オフには他のチームからオファーが届いたものの、ニックスとの再契約を選択した。この時、彼は「このチームには各ポジションにリーグのベストプレーヤーが揃っていて、最終的には彼らが勝敗を決める。でも、彼らがコートにいない時に『違う顔』を相手に見せることも大事で、その役割を担うつもりだ」と語り、立場の弱いロールプレーヤーであることを自覚し、そこから這い上がる覚悟を決めていた。

「この世界では自分ではコントロールできないことが多すぎる。コーチが僕をいつ起用し、何分プレーさせるかは分からないけど、そのチャンスが来た時にベストの自分を見せるための準備は自分でコントロールできる。昨シーズンはその部分で自分に自信を持てた」

新たにニックスの指揮を執るマイク・ブラウンは控えにも多くの出場機会を与える方針だったし、シボドーの時よりもペースが上がってシューターの価値も増す見込みで、そこにチャンスがあるとシャメットは信じていた。「ドリブルハンドオフやピンダウンスクリーンからの攻め、走りながら素早く判断を下すこと。自分一人でプレーを完結させる必要はなくて、ボールを持たなくてもチームオフェンスに貢献できる。スタッツには表れない価値を出すことに最善を尽くすつもりだ」と彼は言った。

再契約を結んだ昨夏の発言が、まさにそのままカンファレンスファイナルの大事な場面でのプレーに現れた。同じ控えガードで、彼より序列が上のマイルズ・マクブライドは「彼はシュートで試合を変えただけじゃない。ディフェンスでもチームを鼓舞した。フルコートプレスを仕掛け、ディフレクションを狙って手を伸ばす。そういったプレーが相手を苦しめ、僕らを盛り立てた」と語る。

脅威の逆転劇にマディソン・スクエア・ガーデンは沸き立った。その盛り上がりが最高潮に達したのは、22点差から99-99の同点へと追い付いた残り45秒でのシャメットの3ポイントシュートの瞬間だった。ブランソンのアシストを受けたシャメットが右コーナーから放ったシュートがリムの上で2回跳ねる間、息を止めてその軌道を見守った観客たちは、ボールがリングの内側へ転がり落ちると歓喜を爆発させた。

「僕も『入ってくれ!』と願っていたよ。正直に言えば、打った瞬間はスコアを気にしていなくて、決まれば同点とは分かっていなかったんだけど、余計なことを考えずにプレーできている時は、良いシュートが打てるものさ」とシャメットは言う。

「MSG(マディソン・スクエア・ガーデン)はめちゃくちゃ盛り上がっていたね。追い上げている時間帯、ファンの熱気に背中を押されていたよ。プレーが一つ決まるたびに、すさまじい熱量を感じた」

オーバータイムの末に試合終了のブザーが鳴ると、ジョン・スタークスやスパイク・リーなど最前列で試合を観戦していたニックスファンのVIPたちは、エースのブランソンではなくシャメットに抱きついた。「光栄だったけど、不思議な気分だったね」とシャメットは笑う。

OG・アヌノビーがハムストリングのケガで離脱していた間はマクブライドが先発となり、シャメットは控えガードの1番手となった。この試合からアヌノビーが復帰して序列は下がったのだが、その試合がシャメットのキャリアナイトになるのだから、バスケは分からない。

それでも、苦境の中であきらめることなく『自分にコントロールできることをやる』姿勢を貫いたシャメットの努力あってこその勝利だ。そしてこれは、ニックスの勝利でもある。今シーズン序盤、シャメットは肩のケガを再発させて2カ月近く欠場した。この時、1年300万ドル(約4億5000万円)のガードの代わりはいくらでもいるとして、シャメットを解雇すべきとの意見も多かったのだが、ニックスはシャメットを信じた。それがこのプレーオフで大きな1勝に繋がった。