文=鈴木健一郎 写真=B.LEAGUE、古後登志夫

「すべてアジャストして決めることができた」

Bリーグの『AWARD SHOW』に出席した横浜ビー・コルセアーズのエース、川村卓也。SNSでのファン投票で選ばれる『タフショット賞』を受賞したのだが、イベントを通じてノリノリ、誰よりも楽しみ、周囲を盛り上げるエンターテイナーぶりを遺憾なく発揮した。

『GQ』がコーディネートしたボルドーカラーのテーラードジャケットで決めた川村は、『タフショット賞』を受賞した2月4日の千葉ジェッツ戦、70-70の同点、残り1.7秒でのスローインから決めた川村の決勝ブザービーターについて、次のように振り返る。

「会場もホームでしたし、どうしてもあの場面でブースターにも勝利を見せたかった、自分たちも勝って勢いに乗せたかった。その前に富樫(勇樹)に素晴らしいショットを決められて、あわやという展開でした。残り1秒あればバスケットボールは何が起こるか分からないので、最後まであきらめない気持ち、みんなの気持ちをつなげたいという思いを一つのボールに乗せて打ちました。それがうまく自分のシュートタッチと軌道と、すべてアジャストして決めることができたと思います」

まさに川村にしか打てないタフショットだが、「必ず仕事をしてやるという強い気持ちと、絶対に決めきってやるという気持ちがあれば、ああいう場面は人間誰でも、その局面を乗り越えることができると思うので」とサラリと言う。

しかし、どう考えても「人間誰でも」できる芸当ではない。まず、自分が打つという強い気持ちが必要だ。あの試合、川村のシュートタッチは必ずしも良くなかった。それでも試合の最も重要な局面で、責任を背負う覚悟ができている。今のBリーグで、特に日本人でそれができる選手は決して多くはないのが現実だ。

あの瞬間の心境を川村はこう振り返る。「僕の思考回路は、『僕にボールをよこせ』しかなかったです」。これが川村卓也なのだ──。

「ああいう場面は個人的には大好きです」

試合を決める重要な場面で、迷うことなく責任を引き受ける。それができる秘訣を、川村は「責任感」と表現した。「日頃からチームの勝敗について人一倍の責任感を持っているつもりです。自分がやらないとチームが上にいけない、と自分に刺激を与えながら日々活動しています。その中で、ああいう局面で結果を出すからこそ、チーム内外を問わず認めてもらえる存在になれます。その積み重ねがあのショットにつながると思います

「決めきったことは自分の自信にもつながるし、これからの自分もああいう局面を迎えて『やれるんだ』という気持ちを持ちながら取り組んでいける。ああいう場面は個人的には大好きです」

ちなみに、『タフショット賞』には副賞としてリーグスポンサーのカシオ計算機から特製のG-SHOCKが贈られている。こういう『特別扱い』が川村は大好きで、「今日は僕だけいただいたのでね」とうれしそう。川村は言う。「1本のシュートを大切にしていれば、こうやって自分を評価してくれる環境にも立てます。自分にもご褒美が来ると思ってこれからも頑張っていきたい。そういう思いが今の子供たちに伝わって、将来Bリーガーになりたいとう選手が一人でも多く出てきてくれることを願いながらプレーしていきたいと思います」

最後にバッチリ決まったファッションについて自己評価を問うと「今日は100点でしょ! 今日が100点じゃなかったら、いつ100点を出すんですか!!」と大笑いで答えてくれた。

三菱から横浜へと新天地を求めて迎えたBリーグのファーストシーズン、チームは苦難の末にではあるがB1残留を果たし、川村はシューターとしての能力とエンターテイナーぶりを存分に発揮した。長いシーズンはこれで終わり。それでも波乱万丈の川村卓也の挑戦は、まだまだ続く。