アンソニー・エドワーズ

「退場処分がチームに大きなエネルギーを与えた」

現地12月19日、ティンバーウルブズはホームでサンダーを112-107で破り、前年王者にシーズン3つ目の黒星を付けた。しかし、試合はウルブズにとって不穏な立ち上がりだった。

試合開始から5分40秒、アンソニー・エドワーズのシュートがリングに嫌われ、オフェンスリバウンドを拾ったジュリアス・ランドルがそのまま押し込もうとしたところで、複数のディフェンスに囲まれて潰された。これがノーファウルだったことに怒った指揮官クリス・フィンチがコートに入ったとしてテクニカルファウルが宣告される。なおも収まらないフィンチはスタッフに止められながらも抗議を続け、2つ目のテクニカルファウルで退場となった。

ウルブズのライバル関係と言えば、常に西の覇権を争うナゲッツが挙げられるが、近年はサンダーも意識せずにはいられない相手だ。昨シーズンのカンファレンスファイナルでは1勝4敗で一蹴されたが、ウルブズはサンダーに劣っているとは思っていない。

そしてフィンチは、サンダーに対する明確な対抗意識を持っている。昨シーズンの対戦後に、サンダーはファウル紛いの激しいディフェンスを当たり前のようにやってくるのに対し、シェイ・ギルシャス・アレクサンダーには軽い接触があった時点でフリースローが与えられると不満を語った。シェイからすれば、ディフェンスの次の一手を読み、それが過度であればファウルを誘いに行く『技術』なのだが、フィンチはこれに納得せず、「サンダーに勝つには、相手の腹立たしいプレーに対する忍耐力がまず求められる」と語っている。

フィンチの考え方が正しいかどうかは別として、彼は第1クォーターの半分も経たないうちに退席処分となった。この時点でスコアは11-15で、彼からすれば憤懣やるかたないであろうシェイのテクニカルフリースロー2本が決まって11-17となった。しかし、ここからウルブズは立ち直り、サンダーの多彩な攻めをしのいで、リーグ屈指の堅守を攻略し始めた。第1クォーターの出遅れを第2クォーターで取り戻し、第3クォーター以降はリードチェンジを繰り返す接戦に持ち込んだ。

第4クォーター残り50秒、ランドルのフリースローが外れるが、リバウンドをルディ・ゴベアがかきだしてポゼッションをキープ。エドワーズがアイソレーションから3ポイントシュートを決めてウルブズが108-107と逆転に成功する。続くサンダーの攻めでは、シェイのレイアップをエドワーズがブロックに成功。エースの攻守に渡るクラッチプレー連発で、ウルブズが接戦を制した。勝利を喜んでロッカールームへと戻る選手たちを、通路の奥で待ち構えたフィンチは一人ずつハイタッチして出迎えた。

26得点12リバウンド3アシスト3スティール2ブロックを記録したエドワーズは、「フィンチのエナジーをチーム全員で吸収したような感じだったよ。彼の退場で僕らの闘志に火が付いた」と上機嫌で語り、こう続けた。「あそこまでやってくれたことに感謝だね。1回目のテクニカルファウルを受けてもまだ彼が向かっていくと分かっていたら、羽交い絞めにしてでも止めたんだけど、気付くのが遅かった(笑)」

そして、ゲームウィナーとなった3ポイントシュートを「パスを第一に考えていた……というのは嘘で、最初から打つと決めていた。タフショットだったけど、1週間に何千回も打ち込んでいるシュートだ」と振り返り、その直後のブロックショットについてはこう語る。「ジェイデン(マクダニエルズ)が左をカバーしていたから、右だけに集中した。絶対に自分で打ってくると分かっていたよ。ボールを僕の目の前で晒した瞬間を見逃さなかった」

試合後の会見には、退場処分となったフィンチの代わりにアシスタントコーチのマイカ・ノリが出席した。フィンチがいなくなった後にどうやってチームを落ち着かせたのかと問われた彼は「おかしな話だけど、特に何もしなかった。退場処分がチームに大きなエネルギーを与えていたから、水を差したくなかった」と答えている。

そして、チームが見せた死に物狂いのパフォーマンスの理由をこう明かした。「選手たちは前日のミーティングでフィンチに、チームに必死さが足りないとたっぷり説教されていたんだ。それであの退場劇だから、『今日はちゃんとやらないとマズいぞ』と思ったんだろうね(笑)」