山本草大

福岡大学附属大濠でキャプテンを務め、広島大では選手兼監督を経験。その後に母校の大濠に戻って恩師である片峯聡太のアシスタントコーチを2年間務めた山本草大が、四日市メリノール学院の高校男子バスケ部を任せられた。1年目でチームを3年ぶりのインターハイに導き、ウインターカップ出場権も手にした。ところが、1回戦で当たるのは学生時代からずっとライバルとして戦い続けてきた福岡第一。「ただ胸を借りるだけじゃなく、やれると思っている」と語る山本コーチに、チームを預かる責任とウインターカップへの抱負を聞いた。

「U18年代で自分のチームを持って指導したかった」

──去年のウインターカップでは大濠のアシスタントコーチとして優勝を経験し、今年の春に四日市メリノール学院のコーチになりました。その経緯はどんなものでしたか。

私自身、いずれU18年代で自分のチームを持って指導したいと考えていましたし、そのためのステップとして大濠高校でお世話になるところは片峯聡太先生にも理解していただいていました。私としては母校の大濠でのアシスタントコーチにもすごくやり甲斐を感じていたんですけど、やっぱり自分が決断して責任を持って選手たちと接していくところにチャレンジしたかったし、そこが自分の情熱を注げるところだと考えていました。

だから最初にお話をいただいた時点で「喜んで!」とお返事させていただきました。その後でゆっくり考えても、この年齢ではなかなかないチャンスだし、ありがたいと思いました。

──OBということもあり、大濠を離れる寂しさは大きかったのでは?

それで言うと、今の3年生が入学してきた時に僕はアシスタントコーチとして大濠に入ったので、3年間最後まで見てあげられない寂しさと、申し訳なさはありました。私の中では、3年間はアシスタントで大濠にお世話になって、4年目5年目でヘッドコーチのできる環境を探すイメージがあったので、オファーをいただいて驚いたのと、やっぱりかわいい後輩たちと離れる寂しさはありましたね。

──それは四日市メリノール学院に行く上での不安に繋がりましたか。

母校ではないチームの選手を見る経験がなかったわけですから、その子たちを本当に愛せるのだろうかという不安はありました。それは片峯コーチにも相談しました。

──実際に春からメリノールの教員となり、寮監にもなりました。新しい環境にアジャストする苦労はありましたか。

稲垣愛コーチがものすごく動いてくださるんですよ。何に対してもいろいろ察してアドバイスしてもらえるし、実際に一番動かれるので、僕のメンタル的にはすごくやりやすい、ありがたいスタートでした。

山本草大

「どうやって自信を持たせてあげればいいんだろう」

──選手を愛せるのだろうか、という不安は1年やってみてどうでしたか。

キャリアがあってバスケに自信のある大濠の選手と、それほどキャリアのないメリノールの選手というギャップは感じましたが、やっぱりみんな同じ高校生だし、みんなバスケが大好きだし。最初に思ったのは「すごい良いものを持っているから、どうやって自信を持たせてあげればいいんだろう」でした。それに、やっぱり高校生として大事なことはどの高校でも変わらないので、それを求めていくことが選手たちへの正しい向き合い方だと思いました。

──そこで大事にすることは何ですか。

やっぱりまずは一生懸命に頑張ることです。必死に頑張るからこそ、誰かの同じような頑張りに気付くことができます。下を向いていたら誰かのナイスプレーにも誰かの気遣いにも気付けません。自分に対して働きかけてくれたことに気付かないなんて寂しい人間にはなってほしくないので、そこは高校生の今だからこそ学んでほしいです。

だけど、一生懸命に頑張ろうとしても、自信がないと頑張りきれない、声を出せない、手を叩けないというところもあると思うんですよね。その大事なところに気付いてもらうために、バスケをどう繋げるかを考えるところからのスタートでした。

──教員として、母校ではない新しい環境にアジャストする苦労はありましたか。

毎日大変でした。学校の仕事も学校によって全然違うし、毎日あっという間で、気付けばもうウインターカップです(笑)。でも結局は放課後に選手たちにバスケを教えるのが軸なので、「どうしたらいいんだろう?」と悩むようなことはなかったですね。

──ウインターカップ開幕を迎えますが、選手たちに自信を持たせる部分、チームとしての成長についてはどんな手応えを得ていますか。

高校生が本気になって、5人で力を合わせてディフェンスとオフェンスをやれば、少々の相手には勝てると思っています。特に今のメリノールの選手たちはそうですが、オフェンスだったら走るタイミングや走るレーン、ディフェンスだと5人がどこで仕掛けてどこは捨てて、という部分を徹底すれば勝てると思っています。

インターハイで1回戦負けの悔しさを味わい、U18日清食品ブロックリーグ、ウインターカップ県予選とやっていく中で、今は選手たちから「勝つぞ」という気持ちが出てきています。インターハイでも持っていきたいところまでチームを仕上げたつもりでしたが、その時にはなかった自信が彼らなりに着いてきました。以前には感じられなかった「俺たち、できるぞ」という気持ちが伝わってくるようになったのは、すごく大きな成長です。

山本草大

「ただ胸を借りるだけじゃなく、やれると思っている」

──ウインターカップ初戦の相手が福岡第一です。自分が高校生だった時からしのぎを削ってきて、コーチになってからも戦ってきた相手との対戦をどう受け止めていますか。

組み合わせが出た瞬間は「福岡を離れたのにまたやるの!?」と思いました(笑)。去年までは年間10回戦っている相手ですからね。

──知り尽くしている相手ではありますが、優勝候補であり格上のチームです。

この前、初めて福岡第一の映像を使ってミーティングをしました。福岡第一の選手が何を得意としていて、それを止めた時にどうやってジャンプシュートまでもっていくかとか、そのあたりは全部分かります。

明らかに普通のスカウティングじゃないような細かいところまで事細かに説明する中で、「ここを乗り越えないと福岡第一には勝てないんだよな」と感じました。福岡第一に負けるチームは「思ったより速かった」とか「思ったより強かった」と言いますが、私の中でそれはないので、そこは選手たちにしっかり伝えていくつもりです。

──優勝候補の福岡第一に胸を借りるのか、本気で倒しに行くのか、どんな心境ですか。

これはもう「やったるぞ!」しかないですね(笑)。私は組み合わせが決まった時に、トーナメント表を3年生に見せて「12月23日はお前たちがヒーローになる日だぞ!」って言ったんですけど、選手たちはもう全然で「マジ?」みたいな感じでした。私は組み合わせが決まってからずっと「やるぞやるぞ」としか思っていなくて、選手たちの気持ちはまだ私と同じところまで来ていませんが、当日には私と同じ気持ちになっていると思います。

ただ胸を借りるだけじゃなく、やれると思っているんですよね。自分自身で半分は根拠のない自信だと思いつつ、残りの半分は「いやマジで普通に勝つ自信あるし」みたいな。インターハイでもそう思っていて、負けてめっちゃヘコんだんですけど(笑)。でも、ヘッドコーチになって1年目でこういう機会をいただけるのは本当にありがたいです。

──最後に、全国の高校バスケファンの方々にメッセージをお願いします。

四日市メリノール学院の高校男子はまだあまり全国の実績がありません。ですが、そういう選手でも日々の練習で頑張りを積み重ねています。組織力にフォーカスして、全国で勝つことを目標に本当に頑張ってきた自信を持ってウインターカップを戦い抜きます。是非、応援してください。