
四日市メリノール学院中を全国トップの強豪に育て上げた稲垣愛コーチが、高校バスケ部も兼任で指導するようになって今年で4年目。チームの成長は全国大会の常連になるに留まらず、昨年のインターハイ8強に続き、今年はU18日清食品ブロックリーグで優勝して来年のトップリーグ入りもうかがうステップアップが続いている。稲垣コーチにウインターカップへの意気込みを語ってもらった。
「自分たちも強豪と戦える部分はあるという意識付け」
──チームは毎年着実にステップアップしています。良い手応えは感じられていますか。
手応えは確かにあります。去年のウインターカップで大阪薫英女学院の洗礼を受けた後(1回戦で69-104で敗戦)、「全国上位と何がこんなに違うんだろう」と考えた時、それはフィジカルやシュート力、最後の球際の強さであって、そこを鍛えればもうワンランク上のチームになれるんじゃないかと、ウインターカップが終わってすぐに選手たちに話しました。
東海新人が終わった後に岐阜女子に負けて、そこでも同じように「ここをやられた、そこを改善できれば対等に戦えるんじゃないか」と考えて、次に桜花学園と東海総体で当たるのが決まっていたので、「桜花学園に勝ちに行こうよ」と話しました。「あこがれるのをやめましょう」じゃないですけど、自分たちにも強豪と戦える部分はあるんだという意識付けをして、そこに選手たちの勝ちたい気持ちも一致して、そうなってからは着実にステップアップできているように感じます。
──具体的に、プレーのどんな部分が変わってきましたか。
全国ベスト8クラスのチームと戦ってもフィジカルで当たり負けしなくなった。それはトレーニングの成果で、タイトなディフェンスという部分では非常に手応えを感じています。そのあたりから、どうしてもサイズのないチームなので、バスケの作り方の理解力を少しずつ深めて、判断力を着けるようにしてきました。
──もちろん勝って優勝するのが一番の喜びですし、チームとしての評価になりますが、チームの地力が着々と増すことに愛コーチ自身は喜びを感じますか。
結果がすべてじゃないとは言っても、結果が出ないと選手の道しるべがなくなっちゃうから、目標を達成することはとても大事です。ですが、過程を大事にしないと目標には到達できない。現状での選手たちの過程に対する達成感みたいなものは充実していると思います。
「この部分はここまで来れた」、「でもまだここの部分はできていない」、「だったらここをこうすれば勝てるよね」という形で、課題を潰して潰してプラスを作っていけばチームは良くなると選手たちにはいつも伝えています。漠然と取り組んで「よく頑張った」ではなくて、具体的に「この部分がこうなったから良くなった」ということを大事にしています。何でもかんでもOKじゃなくて、自分たちの求めるところを、どこまで求めるかを設定する。その上で「ここまでやれたからOK」、「でもここは足りなかった」という繰り返しがチームの成長なのかなと思っています。

「どっちに行こうが選手のかわいさは全然変わらない」
──中高一貫で指導することのメリットをどう考えますか。
結局バスケってどこまで行っても一緒だから、中学で大事なことは高校でも大事です。だから高校で必要になることを中学でも大切にしてやり込んでいく。それは例えば判断力や理解力ですが、それを中学でできるようになったら、高校で困ることはないんですよね。
もちろん他の高校に行く選手もいますが、いろんな先生方が「メリノールの子は判断力が良い」と言ってくださるので、それは非常にありがたいと思うし、やっていることは間違っていなかったんだなと思います。だから中学が、高校が、という分け方をせずに上積みをただ増やしていくことに中高一貫校のメリットはあると思います。
──4年前はメリノール中でエース級の選手は他の高校を選んでいました。高校がこれだけ強くなると、その流れも変わっていると思いますが、中学生の進路はどう考えますか。
本人が行きたくて他の高校に行くのは全然OKで、私はそれでハッピーです。例えば東海総体で桜花学園と対戦すれば、メリノール中出身の濱田ななのが大事なところでシュートを決めてくるんですよ。「やっぱりあいつが決めるんか」と、悔しいけどうれしい(笑)。浜松開誠館の前川桃花も同じです。中学の選手がメリノール高校に上がると言ってくれたらうれしいけど、他のチームで活躍している姿を見るのも楽しいので、どっちに行こうが選手のかわいさは全然変わらないですね。
──逆に他の中学から四日市メリノール学院に入ってくる選手もいます。今、内部進学と外部からの入学の人数はどんな割合ですか。また、そこに違いはありますか。
エントリーで言えば半々ぐらい、ちょっとメリノール中の選手が多いかな。メリノール中から上がってきた選手は、システムを理解している部分やトレーニングでメリノールのやり方を分かっているので、特にディフェンスの部分でアドバンテージはあります。
でもオフェンスでは刀根綺萌や山下藍、今は東京医療保健大にいる志摩香奈子だったり、他の中学校から来た選手がメリノール中にはない発想だったり面白さを出してくれているので、それが融合してくれるのはすごくありがたいです。

「正直『ウチの子たちスゴい』といつも思っています」
──中学と高校の2つを指導するだけでなく、寮生の私生活をケアして、今は世代別の日本代表のコーチもあって、そのエネルギーの源はどこにありますか。
高校生はちょっと大人に近付いてるから楽なんですよ。中学生よりも理解力が高いから、こちらの意図を汲んでくれる。中学生はマジ大変で(笑)、その分だけかわいいかもしれないけど、高校生はちょっと大人になっているのにこれだけ一生懸命やっていて、正直「ウチの子たちスゴい」といつも思っています。それがあるから頑張れます。
──間もなくウインターカップ開幕です。初戦が聖和学園、勝てばシード校の精華女子と対戦します。
組み合わせの日に、聖和学園の小野裕先生とは「次の休みに練習試合をやろう」と連絡を取り合っていたんです。それで組み合わせが発表されて「できない!」って(笑)。U16日本代表のチームリーダー(小野)とアシスタントコーチ(稲垣、精華女子の大上晴司)と身内が固まる組み合わせで楽しみです(笑)。
準備はしっかりやっているので、良い形で開幕を迎えられると思います。用意したことがどれぐらいできるのかが楽しみですね。車を運転している時にいきなりディフェンスのすごいプランが降ってきて、慌てて車を駐めてアシスタントコーチの粟津雪乃に電話して「ちょっとメモって、バスケの神様が降りてきた!」みたいな(笑)。
そのアイデアが降ってくるじゃないけど、自画自賛することは多くて、選手たちに「今日の練習めっちゃ良かった」とか、良いところがあれば褒めてあげる。そうすると次の日もよく頑張ってくれたりします。今はそうやってちょっとずつレベルを上げています。
──では最後に、高校バスケファンの方々にメッセージをお願いします。
バスケの神様が降りてきた、そんなバスケができれば一番良いのですが、それが何かはメリノールのバスケを見て探してみてください(笑)。ウインターカップではメリノールならではの、稲垣愛ならではのバスケをやりたいと思っているので、「こんなことやるんだ!」という部分を探しながら見てもらえたら面白いと思います。応援よろしくお願いします。