
高校バスケの名門、福岡大学附属大濠は毎年のように全国トップレベルのタレントを擁するが、それだけに勝利へのプレッシャーは大きくチーム作りには他校とは違った難しさがある。それでも片峯聡太コーチは自らも貪欲に学びながら、毎年メンバーが入れ替わる中で魅力的なメンバーを作り続けている。『トロージャンズ2025』の総決算となるウインターカップに向けて、チーム作りへの手応えを聞いた。
「大事なのはこちらが戦略的にスイッチを入れること」
──昨年のウインターカップで優勝し、勝又絆選手と榎木璃旺選手のスタート2人が残った新チームは、良い形で始動できたように見えます。ここまでのチーム作りはいかがですか。
選手の駒はある程度揃っていましたが、それをどう組み合わせるのが一番良いのかが最初はなかなか定まりませんでした。ただ、新人戦や春の遠征を経て、まずは個の能力が高まり、インターハイ予選ではチームをその時点での良い形にできたと思います。それでもインターハイは思っていた以上には勝ち上がることができず、そこでチームをいったん崩して、U18日清食品トップリーグで選手たちを鍛えました。今は一番良いチームを組み立てるべく最終調整を行っているところです。
──大濠の場合、タレントが揃っている分だけチームとしての良い組み合わせを見付けるのは難しく、世代別の代表で選手が抜ける難しさもあります。
「こういうバスケの形を作りたい」と思っても、全員が揃う練習の回数や量が確保できないのは悩ましいところです。だから洗練されたバスケは夏から秋までは作れなかったと思うのですが、最終的には10人から11人ぐらいで40分間強度高く遂行していくバスケが今年のチームの一番良い姿だと、私も選手たちも思ってコートに立っているので、その完成形をウインターカップで見せたいです。
──大濠のチームカラーは一貫したものがありますが、毎年毎年でチームは異なります。今年のチームが持っている強みはどこにあると思いますか。
スイッチが入った時にオフェンスでもディフェンスでもアグレッシブにやれる、その力は今までのチームの中でも大きいと思います。去年のチームは自分たちの力を発揮すれば勝てるという安定感がありました。今年はそういう安定感はあまりなくて、試合によって浮き沈みがあって、インターハイとかウインターカップ予選では受け身になって負けることがありました。
そういう意味で大事なのは、こちらが戦略的にスイッチを入れること。それができれば、3年生の真面目にやり続ける強さと、下級生の持っている能力が融合します。そういう展開になった時が今年のチームの理想形だと思うので、そのパズルの完成を目指したいです。ウインターカップでは1試合ごとに相手も強くなっていきますが、その中で成長して自信を付けて、メインコートで自分たちの一番良い姿を披露したいです。

「今のチームに足りないものが何かを外から見ろ」
──11月3日、ウインターカップ県予選の福岡第一戦で大敗を喫した後、チームに喝を入れたり、トップリーグで一度メンバーを大きく入れ替えたり、チームを向上させるための工夫を凝らしました。そこにはどんな意図がありましたか。
ウインターカップ予選での負けは本当に一番良くない負け方でした。チームが受け身になってしまい、「行くぞ!」と声を掛けているのに実際は全然行かない。最初にガツンとやられて、なんか帳尻合わせをしようとするけど間に合わない。インターハイで負けた時も同じように受け身の負け方でしたから、さすがにこれは許容できなかったので、U18日清食品トップリーグの東山戦には3年生を連れていかず、「今のチームに足りないものが何かを外から見ろ」という荒療治をやりました。
1、2年生からしても、東山に良い試合はできても、勝つとなると遂行力や徹底する力、やり続ける力がまだ足りないことが分かったし、3年生はそこを補うのが自分たちだと気付きました。そうやって翌週の福岡第一とのトップリーグ最終戦に臨んだ結果、優勝という形で大会を締めくくることができました。
特に3年生は、こちらが仕掛けたことに対してちゃんと向き合う力があるので、そこから良い方向に頑張ってくれました。でも本当は私から焚き付けられたから頑張るのではなく『自家発電』することが大事です。自分たちが立てた目標に対して、自分たち自身が頑張るようになければいけない。ここから先は私が出ていくのではなく、3年生の力でそういう状態に持っていってほしいです。
3年生は最後の大会なので、自分たちが良い結果を出して終わりたいのはもちろんですが、これまでの指導者や先生方、トロージャンズをサポートしてくださった皆さんへの恩がありますから、キツい時や大変な時こそ、そういう感謝の思いをプレーで示してほしいです。1、2年生は能力のある選手がたくさんいますが、自分たちの代で結果を残せばいいのではなく、下級生の時に3年生を勝たせることに大きな意味があり、カッコ良いことなんだとこの1年間ずっと言ってきているので、そのためにしっかり汗をかいて頑張ってほしいです。
──大濠にはたくさんのキーマンがいますが、どの選手にどんな期待をかけているかを教えてください。
去年からスタートで出ている榎木と勝又の落ち着いたゲームへの入りだったり、40分間の遂行力はチームの安定感に間違いなく繋がっていきます。彼らの冷静な頑張りにはまず期待しています。ただ、みんなが落ち着いていてはダメなので、そこに(白谷柱誠)ジャックや本田蕗以といったアクセントのある選手が、良い時も悪い時もある中でしっかり得点に絡んでいく。その安定感とアクセントの中間にいてバランスを取ってくれるのが吉岡陽。この5人で大事な場面はしっかり戦ってくれると思います。
バックアップでは村上敬之丞がここに来てガードとしてすごく良くなって、安心して起用できるので、相手チームのバランスによっては榎木より村上のプレータイムが長くなるかもしれません。インサイドの控えではサントス(マノエルハジメ)と廣田翼で、自分たちの出た時間はしっかりハッスルして、留学生相手のディフェンスやリバウンドでチームを救う働きに期待しています。

「このトロージャンズという船を正しい方向に導く」
──今年はアシスタントコーチが山本草大さんから池田大輝さんに代わりました。片峯コーチが世代別の日本代表だったり国体での活動が多い中で、アシスタントコーチの重要性も大濠ではかなり大きいと思います。
池田はデータを取ったり、VITASさんの栄養サポートやタニタさんの体組成を測るような、私だけではなかなかできない細かな作業をきめ細かく担い、選手に数字でフィードバックしています。今までは「ちゃんとやれよ」と言われるだけだったのが、足りない部分がデータで出てきてしまうので、選手は大変です。例えば自分が出ている時間帯でディフェンスが悪くなっているのを数字で突き付けられた選手が「じゃあ僕は試合に出ない方がいいんですね」みたいに拗ねちゃったり(笑)。
最初の頃を考えると、事務手続きのようなところも含めて細かい作業を1人で全部やっていました。それがいろんな人にサポートしていただくようになって、昔できていたことができなくなっていると感じることもあります。「それはいかんな」と思いながら、でもスタッフも含めて今のトロージャンズを運営しているわけですし、私はいろんなところで新しい学びを得て知見を増やしながら、このトロージャンズという船を正しい方向に導く役割を担っていきます。そうやって選手が中心で、私たちが周りでしっかり支える環境を作っていきたいです。
──間もなくウインターカップが開幕します。優勝への意気込みを聞かせてください。
今年のチームは、正しい強度でしっかりガンガン戦えている時にはU18年代では突出した力があり、たとえ相手に強力な留学生ビッグマンがいようが負けないと思っています。だから、チームをそういう状態にどうやって持っていくかにフォーカスしたいです。もちろん相手に対してのアジャストは必要ですが、自分たちの力をしっかり発揮することへの準備に力を注いでいきます。
今年のウインターカップでは12月23日の1回戦から試合があります。一戦必勝で頂点へたどり着けるように頑張りますので、会場でもテレビやSNSでも、トロージャンズを是非応援してください。よろしくお願いします。