力のバッツと技巧の金丸、アジャストした三河が圧倒
チャンピオンシップの第1戦は、リンク栃木ブレックスが83-68と先勝していた。迎えた今日の第2戦。栃木は5分ハーフの延長時限(第3戦)も含めて、あと1勝でファイナル進出が決まる状況だった。
しかしアウェーのシーホース三河が、試合の出足から昨日とは見違えるような攻守を見せる。両チームとも外国籍選手のオン・ザ・コート数は「1-2-1-2」で迎えた第1クォーター。三河はインサイドを強調した攻めが機能し、第1戦は精彩を欠いたアイザック・バッツも積極性を発揮する。
バッツはチームのファーストオフェンスから208cm133kgの巨体を生かした『重戦車系』のドライブで1対1を仕掛けていた。三河はバッツがチーム初得点を決めると、次は金丸晃輔が2本連続でミドルを沈め、内外とバランス良く得点を重ねていく。
22-12とリードして終了した第1クォーターのスタッツを見ると、シュートの成功率は三河の「61.1%」に対して栃木が「29.4%」。しっかり決めていた三河が、一度もリードを譲らずに第1クォーターを終えることになった。第2クォーターもリードが最大16点まで広がる展開。三河は37-24の13点リードで前半を折り返した。
第3クォーターも三河は金丸が10分間で11得点の大爆発。残り1分41秒には金丸が無理な体勢からの3ポイントシュートを決め、バスケット・カウントによるフリースローも成功させる4点プレー。この時点で52-36までリードは広がっていた。栃木の竹内公輔は呆れたような顔でこう振り返る。「金丸があそこまでタフなシュートを決めてきたら……。第3クォーターの4点プレーは、ちょっと心が落ちかけましたね。あのシュートが入り出したら、ちょっとお手上げでした」
金丸は最終的に21得点を挙げて第2戦のポイントリーダーになった。昨日は苦戦していたリバウンドも、三河はバッツの14を筆頭に42リバウンドを稼ぎ、栃木の35を上回った。
熊谷の強攻を機に栃木がクロスゲームに持ち込む
三河は第3クォーター終了間際にも橋本竜馬が3ポイントを決め、57-38までリードを拡大。14日のクォーターファイナル千葉戦で22点差からの逆転劇を見せている栃木であっても、届くことは難しい点差と思われた。そんな中、両チームとも『第3戦』を見越した選手起用を始めていた。三河はほぼ出ずっぱり状態だった比江島慎、金丸を第3クォーターの途中からベンチに下げる。栃木も熊谷尚也、須田侑太郎といったベンチメンバーを起用して第4クォーターに入った。
ところが、その熊谷が目覚ましい働きを見せる。第4クォーター残り8分57秒に鋭いスピンからジャンプショットを沈めると、一気に3本連続の7得点。勢い付いた栃木は約7分間で17得点のビッグランを見せ、55-57と2点差に迫る。
ここからしばらく拮抗したものの、栃木が63-65と2点差まで詰めて迎えた残り4.9秒には、三河の比江島がフリースローを2本連続で落とす『まさか』の事態。栃木はライアン・ロシターがディフェンスリバウンドを獲得し、ドライブを仕掛けた。しかしロシターはせっかくのボールをこぼしてシュートに持ち込めず、栃木は結局63-65のまま第2戦を終えた。
ただ栃木は敗れたものの、ベンチメンバーの奮闘で第3戦に向けた潮目を作った。比江島、金丸といった主力を引っ張り出して消耗させることにも成功した。ヘッドコーチのトーマス・ウィスマンはこう説明する。「勝つことはできなかったものの、試合の流れを変えることができた。スタートの3人を休ませた状態で、そこまでできたことが大きい」
消耗戦の様相を呈した第3戦、リードする三河にミス
5分ハーフの第3戦に入ると、金丸が引き続いて快調に得点を重ねることで三河が先手を取り、栃木が食い下がるという展開が最終盤まで続いていた。栃木は残り30秒の大詰めに、ジェフ・ギブスが田臥勇太のパスをゴール下で受ける同点の大チャンス。しかしギブスは打ち切れず、外に開いたパスが味方に合わずにターンオーバーとなってしまう。
残り30秒、12-10とリードした場面。タイムアウトを取って試合をどう締めるかを確認した三河はかなりの優位にあったはずだが、ここからまずい判断が続いてしまった。直後のオフェンスで比江島がボールをキープせず、ゴール下のバッツに出したパスを奪われ、速攻から遠藤祐亮の同点ゴールを許してしまう。
スコアは12-12で、時間が残り21秒。三河はタイムアウトを既に使い切っており、テコ入れができない。そして次のオフェンスも最悪の形で終えてしまった。
栃木はギブスが高い位置でスティール狙いのギャンブルプレーに出たものの、ボールに届かずに滑ってしまう。三河にとっては「5対4」の数的優位となり、比江島はこれを生かすべくゴール下のバッツにロングパスを送る。バッツとロシターのゴール下での1対1に、ギャビン・エドワーズとバッツ、古川孝敏も食らい付いていく。バッツはこれを決められず、リバウンドを取った古川が田臥へとつないで栃木のファストブレイクが発動。田臥は橋本竜馬のファウルを受けて、残り5.9秒で時計が止まった。
エースの覚悟、「俺にくれ」と要求したロシター
マイボールのスローインを前に、栃木はタイムアウトを取った。ロシターはウィスマンヘッドコーチにこんなリクエストを出していた。「第2戦で同じような状況から決められなかったことで悔しい思いをしていた。同じシチュエーションになったので『俺にくれ』と伝えた」
ウィスマンヘッドコーチはこう明かす。「5.9秒を残してタイムアウトとなった瞬間に、ロシター選手が自分のところに来て『俺にボールをくれ、俺が最後に打つ』と言ってきた。自分の経験からも選手がそう言ってきたら、そうさせるべきだと思っている。いかにロシターに持たせるかという点をコーチ陣で話し合った」
栃木は安斎竜三コーチが指示を送り、選手たちをコートに送り出す。遠藤がボールを投げ入れ、ギブスがボールを受けた。左から大きく回り込みながら古川のスクリーンを使ってエドワーズとのズレを作ったロシターは、ボールを受けると迷わずリングへ一直線。右手でしっかりと沈めたレイアップが決勝点となった。第3戦を14-12で制した栃木が、ファイナル進出を決めた。
栃木の総力でもぎ取った決勝点だった。ウィスマンヘッドコーチはこう力説する。「(ショーン)デニスコーチも、安斎(竜三)コーチも、それぞれのアイデアを持っていて、話した結果として安斎のプレーがいいだろうという判断になった。それぞれの選手、スタッフに判断する力があり、それぞれに判断できる権限を与えるのがこのチームの良いところ。それが栃木の強さだと思う。最後のプレーはこのチームを象徴していた」
らしくないミスが2回出た三河、比江島は「頭が真っ白」
三河の鈴木貴美一ヘッドコーチはこう悔いる。「完全にノーマークになって、行けるということでパスをしてしまったと思うけれど、あそこは行っちゃいけないところ。残り28秒と24秒に、2回ウチらしくないプレーが出てしまった」
比江島は第2戦で35分43秒とほぼフル出場。12得点、8リバウンド、4アシストの大活躍を見せて勝利に貢献していた。しかし勝負どころで悔しいプレーが出てしまった。ブザーを聞いた瞬間「頭が真っ白になって何も考えられない状態で、自分がやってしまったという気持ちでした」と比江島は言う。「最後の最後は自分の判断ミスで負けてしまった。自分でしっかりキープすれば、僕らのほうが有利な状況にあった。負けない戦い方をすれば良かった。今はそれしかない」
栃木の選手たちが口を揃えて強調していたのが、ブレックスアリーナ宇都宮のホームアドバンテージ。第3戦終盤に起こった三河のミスも、残り5.9秒から生まれた決勝点も、観客の作り出した強烈な流れが間違いなく作用していた。
栃木は27日の15時10分から、川崎ブレイブサンダースとBリーグの初代チャンピオンを掛けた一発勝負のファイナルに臨む。会場は東京の代々木第一体育館だ。
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