
軽視できない二次性脳損傷リスク
Bリーグは10月31日、脳しんとうによって引退を余儀なくされた熊本ヴォルターズの本村亮輔のインタビュー動画と脳しんとうに関する症例や評価方法、リハビリテーションについて掲載されたハンドブックを公開した。脳しんとうとは、頭部、頚部または身体への直接的な衝撃によって脳に強い衝撃が加わり、外傷性脳損傷を引き起こした状態をいう。コンタクトが多いスポーツで症例が多い外傷の一つに挙げられる。
本村へのインタビュー動画では、受傷後の闘病の様子や葛藤が当事者目線で率直に語られている。脳しんとうの症状は人それぞれで、受傷後すぐに出ることもあれば、時間が経ってから発生することもある。本村の場合は、受傷から2週間後に異変に気づき、その後、光や音への過敏反応、頭痛、めまい、気持ちの浮き沈みなど多岐にわたる症状が出たという。
本村は症状で一番苦労したこととして「特に光を見ることがつらかった。日の光を見るとクラクラしてしまい、外出することもできなかった」とコメント。症状が改善された後も、突発的なめまいや平衡感覚のズレが日常的に現れるなど、慢性的な病状に悩まされることとなったと語った。またプレー面でも「自分が認識している距離と実際の距離で誤差が生まれる」といった影響が出たという。
脳しんとうの診断は難しい。病院で一般的に行われるCTスキャンやMRIで所見を見つけることが困難で、選手の自覚症状や医師の神経所見によって異常が見つかるケースが多いのが現状だ。しかし、アスリートとしてプレーすることを優先してしまうがために、症状を隠してしまうというケースも見受けられる。本村も2度目の受傷が判明した際、「ここで脱落したらもう(復帰は)ないだろう、という思いにかられ『症状が出ても言わないでおこう』というスタンスになってしまった」と明かしている。本村の場合は幸いにも大事には至らなかったが、症状を隠して競技を続行することで重度の脳障害を引き起こすリスクがあることを理解する必要がある。
脳しんとうは繰り返すことで重症化しやすい。さらに、頭部以外への強い衝撃からも症状を引き起こすことがあり、コンタクトの多いバスケットボールでは細心の注意が必要だ。本村もチームスタッフが症状を発症しないか注視しながら活動を進めていたと証言。チームメートやスタッフのサポートが重要であることを忘れてはいけない。
そして症状を軽視することによって、急性硬膜下出血などの致命的な二次性脳損傷を引き起こすリスクがあること、繰り返しの受傷によって慢性的なめまい、頭痛、精神障害や認知症を引き起こす可能性もあり、受傷した場合は本人だけで判断せず、躊躇なく医師の診察もしくは医療機関への搬送を行うことが重要だ。
本村は競技人生の道半ばで引退を決断した。しかし家族からは「一安心できた」という言葉をかけられたことが助けになったと語る。「僕が(脳しんとうで)引退したことによって認識が変わり、脳しんとうを甘く見てはいけないということを下の世代に伝えていきたい」とインタビューを締めくくった。
繰り返しになるが、脳しんとうはコンタクトスポーツであるバスケットボールにおいては切っても切り離せない重大なテーマ。ぜひ視聴、一読してほしい。
【脳しんとうハンドブック】
https://www.bleague.jp/files/user/B.LEAGUE_Concussion_Handbook_ver1_1.pdf