取材=Dice(山口大輔) 構成=鈴木健一郎 写真=B.LEAGUE、Getty Images、野口岳彦

Dice(山口大輔)はかつてNBAスパーズのアスレティックトレーナーを務めた人物。ジェフ・エアーズとは同時期にスパーズに在籍し、2013-14シーズンのNBA優勝をともに勝ち取った間柄でもある。現在、東京医科歯科大学の特任助教としてスポーツと医学、科学の融合に取り組むDiceはバスケットボールの現場から離れているが、『戦友』がBリーグに来たとなれば話は別。対談形式で、日本のバスケットボールの様々なテーマについて語ってもらった。

得点やアシストは必ずしも優先すべきものではない

Dice 今日はありがとう。このインタビューをやろうと思ったのは、4月16日の千葉ジェッツ戦を見たことがきっかけなんだ。スパーズの時以来、久しぶりにJeffのプレーを見たくて会場に行ったんだ。最初に印象に残ったのが第1クォーター、ディアンテ(ギャレット)が速攻でフリーだったのにダンクをミスしたシーンなんだけど……。

Jeff そうそう、あったね!(笑)

Dice アスリートにとっては恥ずかしいシーンだ。彼のように注目を集める選手なら特にね。その反動で、試合の集中力を途切れさせてしまうことはよくある。それでディアンテがそれにどう対応できる選手なのか気になったんだ。そうしたら、ベンチに座っていたJeffが即座に立ち上がって、ディアンテに笑いながら何か声を掛けていた。何か意図があったんだろう?

Jeff 「気にするな、何でもないことだ」と、からかい気味に伝えたんだ。あんなことは誰にだって起きる。ちょうどその数週間前に自分も同じような目に遭った。ダンクに行こうとして尻もちをついたんだ(笑)。でも、それを笑い飛ばして何もなかったように次のプレーに集中したよ。「さあ行くぞ!」ってね。

Dice あの場面、チームメートの誰かがディアンテに声を掛ける必要があったけど、スーパースターのディアンテに対して、日本人選手は声を掛けづらかったかもしれない。そこでJeffのリーダーシップが見られたと思ったんだ。プレーの面も印象的だった。あの試合はなかなかボールが回らず、ディアンテを中心としたボールハンドラーが攻める以外に攻め手を欠いていた。それでも、Jeffが身体を張ったスクリーンを決め始めたことでパスが回るようになり、4点差まで詰め寄った。スタッツは5得点5リバウンドと平凡だけど、そんな数字よりはるかに大きなインパクトがあったと思う。日本に限らず、多くのチームは助っ人の選手に得点やアシストを求めてくるけど、それが必ずしも優先すべきではないよね。得点を取りたくないわけではなくて。

Jeff もちろん、点を取りたくないヤツなんていないよ。

北海道や秋田はトップクラスの『実行力』を持つチーム

Dice 「チームのために自分ができることは何なのか、何が正しい選択なのか」と考えて自分の役割を果たすことは、僕自身がサンアントニオで学んだことでもある。君にとってそれが何なのかを教えてもらいたいんだ。

Jeff Diceが言うように、僕もサンアントニオで自分の『役割』を理解することを学んだ。僕の場合、その役割は試合ごとに変わってくる。ある試合では自分が攻めの中心となる。相手のポストのディフェンスが弱ければそこをアタックするし、シュートタッチが良ければピック&ショートロールでミッドレンジジャンパーを打つ。でもオフェンスやゲームプランにかかわらず常にコントロールすべきなのは、どれだけしっかりとディフェンスをやるのか、そしてどれほどのエネルギーと集中力を持って試合にアプローチするのか、あるいは試合の流れを見極めてどうアジャストするか、ということだったりする。

Dice 試合展開に合わせてアジャストできるのがJeffの『役割』であり、強みでもあるというわけだね。

Jeff 試合が終わった後に反省をして次の試合へのアプローチを変えるのはどのチームもできる。良いチームというのは試合中、クォーターが終わるごとにゲームプランをアジャストできるチームなんだ。さらに良いチームだと、必要であれば一つのプレーのためでもアジャストする。

Dice そうなると、個人の得点やアシストを競うのとは全く別の話になってくるね。

Jeff 多くの人が得点を気にするけど、これまでプレーした中国やヨーロッパのリーグで、海外から来た助っ人ばかりが点を取るチームはたいてい勝てないチームだった。それでも、例えば中国ではどの助っ人がより多くの得点を稼ぐかがチーム間の競争になっていた。優勝するために『チーム』としてプレーすることに重点を置くチームもあったけど、リーグ全体としては断然個人のスタッツ重視だった。だからこうして日本に来て、他国のリーグとはまた違う『トレンド』を見れるのは興味深いよ。

Dice Bリーグが新しい『トレンド』になっているということか。

Jeff いかに『チーム』として機能できるかを大切にしているよ。それはあまり勝てていないチームでも一緒だ。例えば、オフェンスに関しては秋田や北海道は僕がこれまで見て来たチームの中でもトップクラスの『実行力』を持つチームだ。彼らは元NBA選手のようなスーパースターに頼ったプレーをしない。コーチが用意したゲームプランを忠実に守り、実行する事で得点を取りに来る。

Dice まるでサンアントニオだね。スパーズでも常にポップ(グレッグ・ポポヴィッチ)が言っていたよね。「ウチにはブレイク・グリフィンやレブロン・ジェームズ、ケビン・デュラントみたいに一人で30点を取れるような選手はいない。チーム全員で点を取りに行かなくては、本当に強いチームには勝つチャンスはない」と。

Jeff それが僕らのメンタリティだった。そして、日本にもそれに似たものがある。能力の高い外国籍選手がいないチームと対戦する時、普通に考えれば簡単に勝てるはずなんだけど、実際はそうじゃない。前半を終えて20点差があったとしても、簡単には試合をあきらめない。これが日本のチームなんだ。

僕はコートに入った瞬間から別の人間になる

Dice 日本のプロ選手についてはどんな印象を持っている?

Jeff すごく静かで控えめな印象なんだけど、実は強いハートと高いプライドを持っている。だから20点差で後半を迎えても、第3クォーターには「勝つんだ」という気迫でやって来る。それは僕にとってもすごく良い経験になるよ。もともと僕のエネルギー、特に感情として出す部分は日本人選手よりはるかに上を行くんだけど(笑)、それとは別に、日本人選手には表に出さないだけで、内に秘めた強い心があるのが分かった。

Dice なるほどね。では弱点はどこだろう?

Jeff 内に秘めた感情をもっと表に出せばいいのにと思う。いつもそうしろとは言わない。僕だってコート外では楽観的でのんびり屋で、誰とでも仲良くしたい愉快な人間だ。でも僕はコートに入った瞬間から別の人間になる。嫌味でフィジカルで負けず嫌いで、トラッシュトークまでする選手にね。コート上の僕しか知らない人は、友達になりたいとは思わないだろう。逆に普段の僕しか知らない人が試合を見たら「あれ? こんなヤツだったの?」と驚くんじゃないかな。でも、それぐらいの勢いがないと上には行けない。

Dice 感情を「表に出す」っていうのが日本人には文化的にも苦手なところだよね。特に「ディスカッションをして当たり前」というメンタリティー、自らコミュニケーションを取ろうとしなければ誰も自分のことを相手にしてくれないアメリカの文化とは全く異なるから。

Jeff でも、誰も他人の心の中を読むことはできないからね。何も伝えようとしなければ、何も伝わらない。

ダンカンから教えてもらったことを日本で伝えたい

Dice さっき伊藤大司選手にJeffのことを聞いていたんだ。君が入ってチームが変わったと言っていたよ。シーズン途中の加入なのに、そんなの構わずに言いたいことを言うし、NBAでの経験も豊富でスパーズでの優勝経験もあるから説得力があると。「スパーズ云々ではなく、あれは彼の人柄だから」とも言っていた。日本人はコミュニケーションが苦手だけど、バスケットボールをやる上ではすごく大事な要素だよね。

Jeff 日本に来る前に、伊藤拓摩ヘッドコーチからもその点は伝えられていた。気付いたことを指摘したり、リーダーシップを出してほしいと言われたんだ。試合を見るだけでも、僕がコート上で常に声を出して、チームとのコミュニケーションを大切にしていることが分かるはず。僕自身も、自分が合流してから今までのチームの変化は感じているよ。

Dice それは具体的にどのような部分で?

Jeff 円陣を組んだ時やハーフタイムでは、だいたい僕かトレント(プレイステッド)が話すんだけど、他のメンバーもどんどんコミュニケーションを取るようになってきた。以前はコーチが来るまで黙って座っていたメンバーも、僕が何かを話せばその反応を出す。コーチがその場にいてもいなくても、選手が自主的に発言して議論できるチームになってきたと感じている。僕自身も、自分らしさを発揮できる環境にいると思っているよ。

Dice 素晴らしい成長だと思うけど、やろうと思っただけでできるわけじゃないのがコミュニケーションだよね。特に日本人にとっては。

Jeff 僕だってみんなと同じ立場にいたことがあるよ。スパーズ時代も、ティム・ダンカンに対してどう接すればいいか分からなかった。明らかに彼のほうが能力も経験もあって、下手に話し掛けられないと思っていたんだ。でも、実際はそんなことはなかったんだけどね。

Dice 最初はどうやってコミュニケーションを取った?

Jeff ある日、ティミーが僕のところに来て、「俺が気付いていないことが何かあると感じたら教えてくれ。あのプレーはどうしてうまく行かなかったと思う?」と質問されたんだ。それで自分の考えを伝えると、「それは気付かなかった。良い視点だね」と言ってくれた。そのやり取りが僕に自信を与えてくれた。「これまでたくさんのプレーを見てきて気付くことは間違いじゃないんだ」、「自分のバスケットボールIQは低くない」とね。この経験を今度は僕が、この日本で伝えることができればと思っているよ。

『正しいプレー選択』かどうかを大事にすべきだ

Dice でも、誰かにアドバイスするのは簡単じゃないよね? 良い気付きがなければ助言はできないのだから。そのコツがあれば教えてもらいたい。

Jeff 映像を見た時点で自分たちがどの部分で優位に立てるのか、自分の中での考えを持っておくんだ。それをチームメートにそのまま伝えるのではなく、彼らが何を考え、どう思うのかをまず聞き出す。そうやってお互いの意見を出し合うことが当たり前になれば、メンバーそれぞれがバスケットボールをより深く理解し、同じビジョンで意見交換できるようになる。サンアントニオでの僕らがそうだったようにね。

Dice 日本人はチームワークを大事にする点が強みだ。でも、時にはセルフィッシュにプレーすることも必要だと思う。僕らがいた時、確かにスパーズは『チーム』として機能していたけど、選手個々はそれぞれ『らしさ』を発揮していた。みんな遠慮せずに自分の意見を言い、コミュニケーションを取ることでより良いアイデアを生み出していた。でも日本人のチームワークは、時として互いに遠慮して、自分を押し殺してしまう。そう感じたことはない?

Jeff まさにそうだね。日本の選手たちは自分が攻めることができても、あえてアメリカ人選手にシュートさせることを優先したり、さっきシュートをミスしたから同じ失敗をしないようにと慎重すぎるプレーをすることで結局ターンオーバーにつながったり……というシーンをよく見かける。それはもったいないよね。良いシューターだろうがそうでなかろうが、オープンであれば絶対に打つべきだ。だから誰かがシュートを外しても、それが良いシュートであれば僕は「いいぞ!」と声を掛けるよ。

Dice 決まるかどうかじゃなく、良いシュートを打つことが大事なんだね。

Jeff そう、その時の結果だけが大切なんじゃない。シュートが入るか入らないか、ドリブルが足に当たってしまった、そんなことはコントロールできない。『正しいプレー選択』かどうかを大事にすべきだ。そういう視点でコミュニケーションを取り続けていれば、いずれ『自分らしくある』ことが心地良くなってくる。

Dice アルバルク東京は変わってきたと言うけど、もっと良くなれるかな?

Jeff もちろんだ。ウチもまだうまく行かないことも多々ある。自分を出すべき時にそれができないシャイな選手もいる。そこを改善しようと試みてきて、チームがどんどん変わっていると感じる。そして今はこれまでの成果を試す最高のタイミングだと思うよ。チャンピオンシップでそれぞれチームのために何ができるかを見つめ直す。チームが優勝するために自分が何をすべきか、それぞれが分かっていると思うよ。