「できるんだったら、引退前のようにやりたい」
Wリーグはいよいよ明日から2024-25シーズンが始まる。リーグ3連覇を目指す富士通レッドウェーブで大きな注目を集める新戦力が、2022年の引退から電撃復帰を果たした前澤(旧姓・篠崎)澪だ。
長らく富士通の主力を務め、東京五輪では3人制日本代表として6位という成績を挙げた前澤は、結婚と出産による3シーズンのブランクを経てコートに戻ってきた。当然のようにかつてのゲーム勘を取り戻すのは簡単ではないが、先月下旬に行われた『FIBA女子バスケットボールリーグアジア(WBLA)』では、4試合で平均16分出場、7.3得点、3ポイントシュート成功率40%を記録し、ローテーションの一員として活躍していた。
周囲は長いブランクを考慮し、今の前澤が順調に調子を上げているととらえている。だが、本人は納得できていない。「自分の中でそういう印象だったり、自信はないです。だからWBLAの後は結構、メンタルが落ちていました(笑)。たぶん自分の頭に以前のイメージが強く残っているからなので、比べる必要はないですが、それでもやっぱり比べてしまう。『いや、全然だな』というふうに思ってしまうところがあります」
なぜ前澤はこのような厳しい自己評価を下すのか。それは現役復帰を決めたからには、どれだけ困難なことかを十分に分かった上で、かつての姿を取り戻すことにチャレンジしたいからだ。「やっぱりできるんだったら、引退前のようにやりたいというのは一つの目標としてはあります。年齢面に加え、ブランクがあることも考えたら難しいかもしれないですが、今シーズンはそこを目指す挑戦をしたいです」
前澤がコートから離れている間、富士通はWリーグ連覇を達成。大きな成功体験を得たことによるチームの変化を感じている。「『みんなで』という意識がすごく強くなっている。チームのためにみんなで戦って絶対に優勝する、その強い気持ちが練習中からキャプテン(宮澤夕貴)を筆頭にすごく出ています」
また、自身の立ち位置についてはこのように続けた。「私がいない時に積み上げてきたものをできるだけ壊さないようにしたいです。しかも、自分が一番年上になるので、年下の選手たちが気を遣わないように意識しています、どうやったらチームによりなじめるのか、ちょっと探り探りやっています(笑)」
ママさん選手の先駆者に「自分の後にも続いてほしい」
日下光ヘッドコーチは、貴重な戦力として前澤に期待を寄せている。「去年までガードの小さい選手によるペイントアタックは、ドライブが多かったです。しかし前澤はカッティングによるペイントアタックが持ち味で、彼女のカッティングを生かしたセットプレーも入れようとしています。そういう意味で、オフェンスのバリエーションが増えたところはあります。ディフェンスでも、以前と変わらぬ激しいプレッシャーなどでハッスルしてくれていて、心配はしていないです」
また、名コンビとして長らくチームをけん引してきた相棒の町田瑠唯は「まさか戻ってきてくれるとは思わなかったので、正直びっくりはしました」と前澤の復帰について語る。そして、かつて観客を沸かせた連携プレーの再現にも手応えを得ている。
「お互いにやりたいこと、考えていることは分かっていると思うので、あとはいかに反応できるのか。そこは練習している中で、かつての感覚を思い出しているところで、懐かしさも出ています。リーグ開幕からすごく楽しみですし、これまでの富士通にプラスアルファをもたらしてくれると思います」
欧米では珍しくないが、日本のバスケ界において出産を経て再びトップリーグでプレーする選手は稀有な存在だ。「それが(復帰を決めた)一番の理由ではないですけど」と前澤は言うが、同時にママさん選手の先駆者として、後進のためにも選手生活の可能性を広げる助けをしたいと続ける。
「自分の後にもそういう選手が続いてほしいです。そのためにも自分がしっかりとプレーして、他の選手に自分のような選択肢があると感じてもらえたらいいなとはすごく思っています」
最後に前澤は、シーズンに向けてこのような抱負を語っている。「とにかくチームのために自分ができることを100%やる。試合に出れる・出れないは関係ないです。ベンチから声を出すのもチームのためになりますし、チームが勝つために何ができるのかを常に考えていきたいと思っています」
富士通は開幕節からいきなり、昨シーズンのファイナルで戦ったデンソーアイリスと激突する。さらに17日、主力の内尾聡菜がコンディション不良によって当面の間、欠場することが発表された。内尾と同じウイングの前澤は、内尾の穴埋め役としても大きな期待を寄せられながらシーズン開幕を迎える。

