ホーム開幕戦で北海道を圧倒
「久々に自分たちのバスケットができたかな」。ホーム開幕戦となった10月15日のレバンガ北海道戦を99-72の大勝で終えた後、群馬クレインサンダーズの辻直人は勝利の余韻を感じさせることなく、静かな口調で試合を振り返った。
この試合を迎えるまでの4試合を2勝2敗で終えたが、その内容は決して『群馬らしい』ものではなかった。「勝てる試合を落としてしまったなという感じで、落とし方があまりよくなかったです」と辻が語るように、ディフェンスの強度やオフェンスの完成度には課題が残った。
しかし、この試合ではアウェーで3連勝中と勢いに乗っていた北海道を相手に、第2クォーターからリードを広げ続けて快勝。その要因の1つとなったのがゾーンアタックだった。群馬は開幕から相手のゾーンに対してオフェンスが停滞する時間帯があり、それが敗因にも繋がった。しかしこの試合ではボールムーブからワイドオープンを巧みに作り出し、3ポイントシュート30本中15本成功と大量得点へ繋げた。
北海道の3-2ゾーンを攻略したのは前節までの経験が生きたからだと、辻は話す。「ゾーン対策は試合ごとにどうしたら良いかチームで考えていて、今日は連携がうまく取れました。勝って学ぶのが1番ですが、負けて得た学びをこの試合で出せました」
カイル・ミリングヘッドコーチも手応えを感じている。「パッシングゲームがゾーンを攻略した要因でした。ビッグマンがペイントアタックしてから、キックアウトしてアウトサイドでシュートを決める。それが機能しました」
「やっとゲーム感が戻ってきて『バスケしてるな』って感覚になってきた」
3点のリードで迎えた第2クォーター、最初に流れを作ったのは辻だった。開始直後に連続で3ポイントシュートを成功させてリードを広げ、北海道にタイムアウトを請求させた。1本目はピックを使ったプルアップ、2本目はトランジションで迷うことなくリングを射抜いた。いずれも好調を思わせる思い切りの良いプレーだった。
辻に現在のコンディションを問うと「やっと!って感じですね(笑)。まだキツいですけど、シュートも含めて足に踏ん張りが効くようになってきました」と頬をゆるめた。
辻は、オフにケガをして調整が全体的に遅れていた。9月のプレシーズンゲームについても「走るだけで必死」と自身を評価しており、開幕節のシーホース三河戦も積極的なプレーは多くなかった。「今やっとゲーム感が戻ってきて『バスケしてるな』って感覚になってきました。開幕戦なんか、リングを見た回数が何回あったのかな?っていうくらいだったので」
続けて「不安を抱えながらやっていましたが、今は体力的なところも上げられてきています。負けた試合は自分のプレーでチームに良い影響を与えられなかったので…。ここからは思い切ってプレーできます」と力強く語る。
さらに、2本目の3ポイントシュートを決める直前のポゼッションでは、北海道のエース富永啓生に1対1を仕掛けられたが、胸と足を使って守りシュートを打たせなかった。このグッドディフェンスが辻の連続3ポイントシュートに繋がり、その後の流れを作ったのは言うまでもない。
辻は「1回守れたからってね…」と謙遜した上で、「でも、チームにきっかけを与えられたかなと。特にベンチから出てきてリズムを作ることは重要なので、そういう意味では自信になる試合でした」とディフェンスでも手応えを得ている。
「良い形で打って決めることを目標にしたい」
辻は、コート上のプレーだけでなくキャプテンとしても大きな役割を果たそうとしている。昨シーズンからキャプテンを務めているが、優勝を目標に掲げた今シーズンは、よりチームを気に掛ける言葉が多く聞かれる。
「今シーズンは、結果を求められるシーズンです。雰囲気が良い時は、 みんながリーダーシップを発揮できている証拠だと思いますが、よくなかったり緊張感がゆるくなってきた時にそれを発揮するのが自分の役目かなと。でもキャプテンの役割を果たしつつ、いちプレーヤーとしてまだまだ第一線でやりたいです」
この言葉を受け、昨シーズン1歩およばずに逃した3ポイントシュート王を狙っているのかと尋ねると「もういいかな。あれを狙うのは結構ダメージがでかいですよ。最後まで緊張して、しんどいんで」と笑って答え、それ以上に向き合うことがあると続ける。「今日なんか、スリーを打ったのは4本だけですよ。チャンスがあれば積極的に10本近く打てたらいいかなと。(成功率ではなく)良い形で打って決めることを目標にしたいです」
今週末には、開幕5連勝中と勢いに乗る千葉ジェッツ戦が控えている。群馬にとっては、これまで幾度も悔しい敗戦を喫している相手だ。辻は最後に意気込みを語った。
「千葉Jは良いチームですので、開幕から5戦でいろいろ経験して学んできたことをどう生かせるか、良い指標になると思います。意地と意地のぶつかり合いで、全力で戦っていきたいです」
大勝の直後でも浮かれた様子はまったくなく、辻の視線はすでに次を見据えている。「優勝する」と公言した覚悟から生まれるプレッシャーは計りしれない。それでも辻が3ポイントシュートでチームを勝利に導く姿に、大きな期待がかかる。