ナフィーサ・コリアー

「世界最悪のリーダーシップに苦しんでいる」

現地3日からいよいよファイナルがスタートするWNBA。しかし、大一番の前に大きな話題を集めるスピーチがあった。

現在、WNBAと選手会は1031日に失効する労使協定の新契約について交渉中だが、両者の提案には大きな隔たりがある。その際たるものが選手の年俸だ。WNBA側は年間3%ずつのサラリーキャップ上昇と、ある条件を達成された際の収益分配という現在と基本的に同様のシステムを提案。ただ、収益分配の目標はかなりクリアが難しい条件と見られている。

選手会が求めているのは、リーグのバスケットボール関連収入に応じた割合でサラリーキャップを決める方式だ。現状、WNBAの同収入に占めるサラリーキャップは約9%。選手会はそれをNBANFLMLBなど他の主要北米スポーツと同じ約50%にすることを望んでいる。ちなみに今シーズンのWNBAのサラリーキャップは約150万ドル(約22000万円)。NBAのようなラグジュアリータックス制度はなく、上限以上の支払いを認めないハードキャップのシステムだ。

WNBAは長らく赤字が続いており、それゆえに他のスポーツに比べて圧倒的に低い9%という収益分配率も受け入れられていた。しかし、今のWNBAはチームや選手たちの長年に渡る尽力に加え、ケイトリン・クラーク、エンゼル・リース、ペイジ・ベッカーズなど、大学時代から注目を集めるスター選手が次々とプロ入りする追い風もあって収益は大幅に増加。2024年の総収入は2億ドル(約300億円)と、ここ5年間で2倍となった。さらに、2026年からは11年総額で約22億ドル(約3300億円)の新しいメディア契約を結んでいる。

この数字を見れば、劇的に収入を増やしているリーグ側に対して、選手たちが自身の年俸にそれがまったく反映されていないと感じるのは当然だ。そして選手会の副会長を務めるナフィーサ・コリアーは、WNBAコミッショナーのキャシー・エンゲルバートを名指しで批判し大きな反響を呼んだ。

ミネソタ・リンクスに所属するコリアーは、アメリカ代表として東京五輪とパリ五輪に出場し、7年間のキャリアで5度のオールスター選出などWNBAを代表するトップスター選手。そんな彼女は次のように語っている。

「私たちは世界最高の選手たち、ファンを持っている。ただ、世界最悪のリーダーシップに苦しんでいる。何が行われているのか知らなければ、こうした感情を抱くことはなかったかもしれないが、私は知っている。リーグの高い水準とは異なるレベルで選手が扱われている現状を黙って見過ごすことはできない」

「この発言で罰金を課せられることは気にしていない」

コリアーはさらに、コミッショナーから受けたひどい言葉についても明かした。

2月にコミッショナーと会った際、審判の質の問題についてどう対処するのか尋ねたら『審判について文句を言うのは負け犬だけ』と言われた。そしてクラーク、リース、ベッカーズのような若手スターがリーグに莫大な利益をもたらしているのに、新人契約のため最初の4年間はほとんど報酬を得られていないことについて聞くと『クラークは感謝すべき。リーグのプラットフォームがなければコート外での収入がゼロだったのが、おかげで1600万ドル(約24億円)を稼げている』と答えた。そして同じ会話の中で『選手たちはリーグが獲得したメディア契約にひざまずいて感謝すべき』とも言っている」

コリアーは「この発言で罰金を課せられることは気にしていない。私が気にしているのはこのスポーツの未来」とコメントを締めくくっている。

発言の補足をすると、クラークはアイオワ大時代にすでに多くのスポンサー契約を勝ち取っているため、彼女の収入にWNBAの影響はない。また、リーグの新人契約では、ドラフトトップ4に指名された選手であっても最初の4年間の年俸は合計35万ドル(約5200万円)から上がらない。

エンゲルバートはコリアーの発言の直後に声明を出し、「ナフィーサとすべての選手たちに最大限の敬意を払っています」としつつも、「彼女の対話やリーグのリーダーシップに対する解釈については落胆しています」と続けている。しかし、WNBAのトップ選手たちを筆頭に、SNS上にはコリアーを支持する投稿であふれている。クラークもこの件について聞かれ「フィー(コリアー)のことを本当に尊敬している。彼女はすべてを語ってくれた」とコメントしている。

エンゲルバートは世界最大規模の会計事務所デロイトで初の女性CEOを務めるなど、ビシネスパーソンとして脚光を浴び、2019年からWNBAのコミッショナーを務めている。就任後のリーグの大幅な収益増に彼女が貢献していることは間違いないが、いくらビジネスの才覚はあっても選手たちと信頼関係を築けない人物は、スポーツリーグのトップとしては不適切だ。

完全に求心力を失っている彼女は、このままコミッショナーとして労使交渉を続けていくのか。その去就に大きな注目が集まっている。