スローライフからファストライフへ

大学3年生の今季、ハワイ大からフォーダム大に転校したジェイコブス晶は人生の新しいチャプターに足を踏み入れたと言って良いのだろう。フォーダム大はノンカンファレンスゲームで9勝4敗と順調に勝ち星を重ねている。ジェイコブスもスタメンの一角としてチームに貢献。その存在感は平均6.6得点、4.8リバウンドという数字が示す以上のものがあり、新天地でも『攻守の要』として定着した感がある。

コート上でも適応は必要だが、生活の面でもジェイコブスの日々には大きな変化があったことを忘れるべきではない。2025年に21歳の青年は常夏のハワイからニューヨークへ移住したのだ。「春に2週間ほどニューヨークに来て、その後アジアカップが終わって、8月の終わりくらいに戻ってきました。大学の近くにアパートを借りて生活しています。ニューヨークは寒いですね(笑)。雪も降りますし……」。

さまざまな意味でのアジャストメントが必要だったことは容易に想像できる。『宝石箱をひっくり返したような街』と形容されるニューヨークでは、ある程度のお金と時間、そして楽しもうという意思があれば娯楽はいくらでもある。バスケットボールはもちろん盛んであり、ジェイコブスも楽しさを見つけられてはいるようだ。

「住んでみたら好きですよ。すごく楽しいですし、やることも多い。ニューヨークではいつもバスケの試合があって、数日前にはマディソン・スクウェア・ガーデンにコネチカット大vsフロリダ大の試合を観に行きました」

とはいえ、もともとかなりレイドバックした(おおらかな)性格のジェイコブスには過ごしやすい環境ではないのかもしれない。ハワイではいつも海が近くにあり、スタンド・アップ・パドルボードが趣味になったという話をうれしそうにしてくれたこともあった。一方、ニューヨークは人々も往々にしてせっかちであり、南の島の住民たちとは大きな違いがある。「人の雰囲気は本当に真逆ですね。ハワイはリラックスしていて、ゆっくり。ニューヨークは何もかもが早い。学校も、ニューヨークは『この時間までにこれを終わらせる』という感じで、ハワイは『この辺で終わればいいよ』みたいな(笑)」。

いつでもポジティブなジェイコブスには、どんな環境でも受け入れようとするだけの度量はある。ただ、アメリカ東海岸ならではの激しい気候は少々厄介だった様子。しばらく悪天候が続き、少し気分が落ちたこともあったのだとか。「なんで暗い気持ちになっているのかと思っていたら『もう1週間ぐらい太陽が出てないからじゃない?』と言われたことがあって『ああそうなのかな』と。ハワイは毎日サンシャインとレインボーみたいな感じですからね(笑)。でも最近は慣れてきましたし、ビタミンを取れば大丈夫です」。

信頼する仲間と築いていく固い絆

おそらく簡単な適応ではないが、これも良い勉強なのだろう。たとえベストフィットの場所ではなくても、そういった環境に身を置くことで得られるものもある。特に若い頃というのは、自身の大事なもの、得意なモノから一時的にでも距離を置こうとしがち。聡明なジェイコブスもそのように考えたのかもしれない。

「ハワイとニューヨーク、その両方を経験できているのはすごく良いと思います」。そんな本人の言葉通り、バスケットボール選手として、人間として、この急激な変化を体験する難しい時間の中から学べるものは必ずあるはずだ。12月31日のデイトン大戦からアトランティック10カンファレンスのカンファレンスゲームが始まる。ここまでは悪くない勝率で来たフォーダム大だが、今後は対戦相手のレベルも上がる。ジェイコブスの力もより必要とされ、それと同時にチームメートたちとのケミストリーがもちろん重要になってくる。

「結局、大事なのは『場所』というよりも『周りの人』なんです。特に何もやってなくても、周りもみんな良い人たちだから、チームメートといれば楽しいんです。そういった意味で全然、ニューヨークでの生活も好きですよ」

信頼する仲間たちとどれだけ固い絆を築き、高め合っていけるか。新しい街にも少しずつ慣れ、コート上でもさらに本領発揮できるか。通称『ビッグアップル』での日々も半年に近づき、もっと楽しく感じられるのもこれからなのだろう。

もっとも、これからニューヨークでどれだけ充実した時間を過ごすようになっても、ジェイコブスの庶民的な部分は変わらないに違いない。気に入ったニューヨークの食事について聞いても、出てきた答えはお気に入りのレストランの料理などではなかった。気に入っているスポットとして、近所のデリ(お惣菜を中心に食事が取れる小さなスーパー的なお店)を選んだのも象徴的に感じられた。「アパートのすぐ近くにあるラムズデリ(Ram’s Deli &Pizza)は美味しいですよ!お腹が空いているときによく行きます。大好きなニューヨークフードはチョップドチーズ!Let me get a chopped cheese!って言えば美味しいのが出てきます。デリにはなんでもあるので、それがニューヨークの好きなところです(笑)」。

ミンチ肉とチーズを挟んだお手軽なサンドイッチを好むジェイコブスは、もう立派な『ニューヨーカー』なのだろう。あとはこの街でいくつもの経験を積み重ね、成長していくだけ。今から1〜2年後、バスケットボーラーとしてどれだけ大きくなっているのかが楽しみでもある。それと同時に、生き馬の目を抜くような大都会での生活をどのように表現するようになっているかが今から興味深くもある。