毎年Bリーグでは選手の移籍が活発化しており、短いスパンで移籍する選手は珍しくない。そんな中、秋田ノーザンハピネッツの中山拓哉は、2016-17シーズン後半に特別指定で加入してからこれまで秋田一筋だ。大学までずっと神奈川から出たことのなかった中山だが、今や大切な故郷となった秋田への思いについて聞いた。

「秋田は本当の故郷みたいになっています」

──改めて秋田一筋で10年目となります。リーグ全体で移籍が活発になっていく中で中山選手にとって、秋田でプレーを続けることの意味をどのように捉えていますか?

毎年、自分がどのチームで、どういうことをやりたいのかは結構フラットに考えています。その中で来シーズンからBプレミアになり、現行のリーグ編成で戦う最後のシーズンを秋田の一員としてチャンピオンシップを目指したいという思いが強かったです。昨シーズンまで一緒にプレーしてきた選手が去った中で、このチームでまず結果を残したい気持ち、責任感もより強くなりました。

──これまでのプロ生活を振り返ると、最初から10年以上は当然プレーするつもりでプロの門を叩いたのか、それとも全く考えられなかったのかどちらでしたか?

長くトップリーグに生き残り続けるのは簡単なことではないですし、これだけプレーできているとは最初の頃には思っていなかったです。先も考えられず、日々、自分と向き合う。一試合一試合、目の前の試合を戦っていくだけでした。

これまでを振り返ると、苦しいこともありました。特にチームに加入した直後、B2降格を経験したことは苦しかったです。B1でバスケをしたいと入って、3カ月、4カ月後に降格したのは自分にとってもすごいダメージでした。残留プレーオフで、横浜ビー・コルセアーズの川村卓也さんにブザービーターを決められて敗れた直後は放心状態だったのを覚えています。それと同じくらい翌シーズンに、B1復帰を決めた試合も印象に残っています。シーズン中は長いと感じたり、精神的にも肉体的にもきつくなる時間があります。ただ、シンプルにバスケが好きで楽しんでやっていて、振り返るとあっという間だった気もしています。加入した時は先輩しかいなかったので今、自分はチームの中でも年上になったりと時間が過ぎるのが早く感じます。

──昨シーズン途中で秋田がBプレミアに入れるか、入れないのか微妙な時期がありました。Bプレミア入りが発表されるまで、この件について気になっていましたか?

素直に気になっていました。これからどうなるのかはわからないですが、これだけ長くプレーをさせてもらっているので僕が現役で一番長く在籍したことになるクラブは秋田になると思います。それこそ大学までずっと神奈川県で暮らしていて、初めて県外に出たのが秋田で今は第二の故郷というか、妻が秋田県出身なので本当の故郷みたいになっています。僕がプレーする、しないにかかわらずこれだけ地方で盛り上がっていて、地域に愛されている秋田はトップリーグにいてほしい。Bプレミアに入ってほしいという思いで、ずっと気になっていました。

「開幕から今シーズンの秋田は違うぞ、というところを見せたい」

──秋田にとってBプレミア入りの最後の難関となったのがアリーナ問題でした。実際に他のクラブの新しいアリーナでプレーをしてみて、秋田にもアリーナができたらまた違うのかなと、思いを抱くことはありますか?

アウェーで新しく建ったアリーナに行くと、バスケットをプレーするため、選手がよりスポットライトを浴びるような施設だと感じます。そういう場所でプレーをするのはとても楽しいです。大きくて見やすいアリーナがいろいろとできていますが、最新の設備ではない会場で行う秋田のホームゲームに来てくださっている皆さんは、本当にただバスケを観に来るというより、「チームと一緒に戦うぞ!!」という思いで来てくれています。会場の一体感はどこにも負けていなく、秋田のすごさを逆に実感しています。そして、いずれアリーナが誕生した時、今よりも多くのお客さんが来てくれて、この一体感が広がればさらに盛り上がると思います。

──秋田はリーグ屈指の熱いファンに支えられています。加入当初は大きな期待が故のプレッシャーを感じることもありましたか?

自分を奮い立たせてくれています。これだけ応援してくださっている人たちのために頑張りたい、勝ちたい、という良い意味でのプレッシャーになっているかもしれないですね。僕たちがどれだけ応援してもらっているかは、住んでみたらすぐわかります。新加入の選手たちが、秋田に来た初日に「○○選手ですよね?」と話しかけられたと言うくらい地域に浸透しています。それこそ降格した時の涙や、試合に勝った時の満面の笑顔、うれし涙など、試合に来てくださっている方々のいろいろな感情を見てきて「やっぱりこの人たちのために僕たちは頑張らないといけない」と強く感じました。プロバスケットボール選手として、試合を見に来てくださっている方々に、何かを与えられるかはすごく大切です。僕たちは皆さんからもらっているものを、もっと大きくして返したいという思いでプレーをしています。だから、ファンの皆さんとはすごく良い関係にあると思います。

──シーズン開幕に向けて、意識していることを教えてください。

まず、スタートダッシュをしたいです。開幕10試合を見ると、開幕節でサンロッカーズ渋谷と戦った後、シーホース三河、アルバルク東京、琉球ゴールデンキングス、島根スサノオマジック、千葉ジェッツと昨シーズンのチャンピオンシップ出場チームとの対戦が続きます。さらに開幕5試合はアウェーでの試合が続きます。タフなスケジュールですが、出だしでつまづくとチームとして今までやってきたことに疑問を抱いてしまったり、チームが1つになるのが難しくなります。逆にここでしっかりと勝つことができれば、上位に行くチャンスが一気に高まります。

これまでのリーグを見ても、11月のバイウィークまでに好成績を残しているチームがチャンピオンシップに出場するケースが多いです。開幕から今、自分たちができる100%を出し切る、先のことを考えずに戦うメンタルが必要です。開幕から今シーズンの秋田は違うぞ、というところを見せたいです。