伊藤大司

アルバルク東京はBリーグ誕生からの10年間で、チャンピオンシップ出場を逃したのはわずか一度という強豪チーム。しかし、2017-18、2018-19シーズンのリーグ連覇以降はタイトルから遠ざかっている。昨シーズンも天皇杯決勝で敗れ、チャンピオンシップでは2年連続でクォーターファイナル敗退と、ここ一番で勝ち切れなかった。王座奪還に向けてどんな意図を持ってチーム編成を行ったのか、伊藤大司ゼネラルマネジャーに聞いた。

オフェンス面に課題を感じたシーズン

──まず、昨シーズンの振り返りをお願いします。

大倉颯太選手、菊池祥平選手以外は前のシーズンと同じロスターとし、より高いレベルのチームを作ることを目指しました。その中で、メンバーをほとんど変えないことによる慣れが良くも悪くも出て、アップダウンの激しいシーズンでした。レギュラーシーズンではクラブ初の5連敗を喫し、故障者にも苦しみ、イマイチリズムが作れないシーズンでした。チャンピオンシップのクォーターファイナル敗退はもちろん満足できない結果で、特に昨シーズンはオフェンス面の課題を感じました。

──レギュラーシーズンで好成績を残したものの、チャンピオンシップは2試合とも千葉ジェッツに25点差以上の大差で敗れるという衝撃的な結果でした。短期決戦とはいえあの結末を受け、チームの評価に対する土台が揺らぐことはなかったですか。

正直、ありました。特にアルバルクは結果に強くこだわりを持っていますし、結果を追求されるクラブです。リーグ優勝ができず、天皇杯も決勝で負けたことはGMとして評価されるものではないと思っていますし、負けた直後は感情的になり、シーズン全体を否定した時間もありました。

ただ、あの2試合でシーズンを全否定するのはフェアではありません。すぐに良かった点、悪かった点は何か、新シーズンに向けた補強ポイントがどこにあるのかを考えることに切り替えました。アップダウンがあったということは、非常に良い時期もあったということ。そこをポジティブにとらえた上で、ダウンの時はどんな状況だったのかと考え、天皇杯決勝、チャンピオンシップでの敗因を改善するための補強を行いました。

──デイニアス・アドマイティスヘッドコーチが続投し4年目を迎えます。続投の決め手はどんなところでしたか。

続投という判断を出すまでにいろいろなことを考えました。アドコーチともたくさん話をしました。ディフェンスをしっかり構築できた部分についてはとても評価していますし、今シーズンは課題となったオフェンスへのアジャストに期待しています。彼も足りなかったものを明確にとらえていますし、リベンジへの強い覚悟を持っています。

さらに、今シーズンからはアリーナと練習場が変わります。新しいヘッドコーチの下ですべてゼロからスタートするのはクラブとして変化が多すぎるとも考えました。個人的にも、GMに就かせてもらった時から新アリーナで戦うシーズンを大きなターゲットとしていましたし、新アリーナに来ていただくお客さんに、長期にわたってしっかりと積み上げてきたベストなチームを見せたいという考えもありました。

──新アリーナのTOYOTA ARENA TOKYOは開幕前から大きな注目を集めています。どのような印象ですか。

新しい最高の施設でプレーできるのはポシティブでしかありません。これまでも十分な施設でしたが、それ以上となったことでより言い訳できない環境となりました。申し分のない舞台を整えてもらい、選手もチームスタッフも「あとはもう優勝しかない」というマインドセットになっていると思います。

マーカス・フォスター

期待の新戦力は優勝経験も重視

──新戦力であるブランドン・デイヴィス選手、マーカス・フォスター選手、中村浩陸選手はどんな役割を期待していますか。

先ほども言いましたが、昨シーズンの課題は得点が取れなかったことです。3ポイントシュートの成功率もガクッと下がったという反省があります。システムのせいという見方もありますが、GMとしてアドコーチの采配を信頼しているので、課題を解消する武器を持った選手として彼らを獲得しました。

これまでアドコーチ体制では、ゴール下を主戦場とするクラシックなビッグマンを5番に置いていました。これにはインサイドのスペーシングが生まれにくいという短所がありましたが、デイヴィス選手はアウトサイドからも得点できる選手。戦術のバリエーションを増やせると思いますし、テーブス海選手も持ち味のドライブをより仕掛けやすくなると思います。

フォスター選手は3ポイントシュートを改善するために補強しました。昨シーズンまで在籍したレオナルド・メインデル選手は3番と4番でプレーできる選手でしたが、フォスター選手は完全なウイングです。中村選手はテーブス選手、大倉選手と違ったタイプのガードなので層が厚くなります。相手の状況や調子を見ながら、いろいろな組み合わせができると思います。

また、天皇杯決勝やチャンピオンシップといった短期決戦の大勝負で、どれだけ自分たちの力を出し切れるのかが課題となっている中で、デイヴィス選手は欧州の名門バルセロナにも在籍経験があり、キャリアで7度優勝。フォスター選手も4度優勝を達成しています。スキルはもちろんのこと、大舞台で結果を残してきた経験もチームに還元してくれることに期待しています。

──アルバルクはBリーグ随一の資金力を有していて、大多数のクラブよりもスクラップ&ビルドがしやすい環境だと思います。しかし伊藤GMは一歩一歩、土台を固めていくスタイルでチーム作りを続けていますね。

選手を獲得する時には「これから3年や5年にわたってアルバルクを良い方向に変化させてくれるか」という視点で考えています。ビジネス的な問題で残したくても残せなかった選手もいますし、中長期的な視点で新しい選手を入れたほうが良いと思った時は変えていますが、結果として在籍年数が長くなる選手が多くなってはいます。

もちろん優勝するためには大きくチームを作り変えることも必要だと思いますが、それではファンの皆さんに応援されるチームにはならないと思います。NBAのように毎年どんどん選手を変え、ファンに愛されている選手を次々と放出するやり方は、今のBリーグや日本のカルチャーの中ではあまりにヒールすぎると言いますか。「結果を出してから言えよ」と思われて当然ですし、そこにはもちろん大きな責任を感じていますが、「優勝するためにはお金を使って何でもするんだ」という冷たいチームには見られたくないです。