昨シーズンはルカ・パヴィチェヴィッチヘッドコーチ体制2年目として目指すバスケットに磨きがかかり、優勝候補の一角と見られていたサンロッカーズ渋谷。しかし、チャンピオンシップ出場の雲行きが怪しくなったシーズン終盤にヘッドコーチの解任劇があり、結果として30勝30敗の中地区6位という思わぬ結末を迎えた。キャプテンとして激動の1年を過ごしたベンドラメ礼生に話を聞いた。

温故知新が求められる新シーズン

──まずは昨シーズンの振り返りから聞かせてください。

どの対戦相手にも一度は勝利をモノにしていたので「サンロッカーズには勝てる力がある」ということは証明できました。ただ、同一カードで2連勝をする難しさを突きつけられたシーズンでした。やはり上位のチームは必ず2連勝をするので1勝1敗では上に行けないと実感しましたし、負けてはいけないチームに負けたり、試合を取りこぼすことが多かったので、結果以上にもどかしさもありました。

──シーズンの終盤でパヴィチェヴィッチヘッドコーチが解任され、カイル・ベイリーアシスタントコーチが代行となりました。これを受けてチームにどのような変化がありましたか?

正直びっくりしました。成績が良くないとヘッドコーチが代わるということはよくある話ですが、シーズンが終わるというタイミングでの交代は経験をしたことがありませんでした。ルカはコートの上では厳しく、圧倒的な存在感があったヘッドコーチでしたが、コートの外では優しくて、しゃべるのが大好きな方だったので、正直さみしさはありましたね。この決断は、チャンピオンシップ出場が危ぶまれた段階で、サンロッカーズが次の年に向けて舵を切った瞬間だと感じました。そして、これまでと打って変わって全員がコートに立つスタイルに変わりました。

──なぜそのようなスタイルに変わったのでしょうか?

推測ではありますが、シーズンを通して試合に出られず、来シーズンにサンロッカーズでプレーをするという選択肢がイメージできなかった選手は多かったと思います。そういった選手たちに来シーズンに向けて「これまでのサンロッカーズとは違うんだ」というクラブ側の姿勢や、チームに良いイメージを持ってもらうことが優先されたのだと思います。カイルが来シーズンに展開するバスケットを全員に理解させる、というよりも、もう一度バスケットの楽しさを思い出してもらう時間に充てられたのではないかなと。

──ヘッドコーチ交代後からの2勝6敗という成績は、そういったクラブの意向が影響していたところもあったのでしょうか?

もちろんやるからには勝ちを目指してやっていましたが、負け越しという結果になったのは事実です。ただ、ルカの作った素晴らしい土台ができあがっていたので、チームが大崩れすることはなく戦い抜けました。

──パヴィチェヴィッチ前ヘッドコーチが作り上げた土台はどのようなものでしたか。

ルカのバスケットは、一つひとつが細かく徹底されていました。コートで立つ位置や、スクリーンをかける場所、タイミング、ヘルプディフェンスの位置など、1歩どころか半歩レベルで修正されました。自由なバスケットの中にも、しっかりと規律があり、止まるところは止まって、しっかりとタイミングを見てスクリーンをかけるというような綺麗なバスケットができていたので、雑なプレーをする選手はいませんでした。ディフェンスに関しても、一人ひとりをレベルの高いところまで引き上げてくれていました。プレータイムが限られていた選手たちが出場しても崩れなかった時は、ルカが作り上げた土台を感じた瞬間でしたね。

──そこにベイリーヘッドコーチの新しいバスケットスタイルが加わったスタイルが今シーズンのサンロッカーズのバスケになるのですね。

そうですね。カイルは速いバスケットでフルコートオフェンスを組み立てていきたいと考えていて、それを表現できる選手が揃っていると思うので、すごく楽しみです。

ジョシュ・ホーキンソン

新戦力と新しい戦術の融合

──今回の補強の目玉は、昨シーズンのリバウンド王に輝いたトーマス・ウェルシュ選手だと思いますが、彼が加入したことでオフェンスリバウンドの期待値も高まり、攻撃回数も増え、昨シーズンの得点力不足も解消されると思っています。

彼が入ったことによってリバウンドは頼もしくなると思いますが、昨シーズン、得点が少なかったのは攻撃回数自体がそもそも少なかったことが影響しています。一つひとつしっかりと作られたハーフコートバスケットで攻めるスタイルだったので、さまざまなオフェンスの数値が低くなってしまいました。でも今シーズンは、速い展開を目指すバスケットにリバウンドが強い選手が加わりました。アップテンポなバスケットをしていく上で、大事なカギになると思っています。

──目指すアップテンポなバスケットに、スラッシャーのディディ・ロウザダ選手や、3ポイントシュートも打てるビッグマンのドンテ・グランタム選手、ジョシュ・ホーキンソン選手がいることはオフェンスの改善に繋がると思います。

攻撃の起点はいろいろなところに生まれてくると思っています。そういった意味では、ディディやドンテも外からアタックできるというのは強みですし、エントリーがガードでなく4番ポジションになることも考えられます。ただ、アップテンポなバスケットは一つひとつの動きの質が低下することが懸念されます。スクリーンをかけるタイミングや、走り出すタイミング、一つのポイントがズレたら連動して雑なオフェンスになりかねない側面があります。それを防ぐためにポイントを押さえて、オフェンスを組み立てていくことが大事なのでしっかりと話し合っています。今回のメンバーはそこを理解して、プレーに繋げることのできる選手たちが集まったので期待しています。

──おっしゃった通り、アップテンポなバスケットは雑になりやすい傾向がありますが、練習中にコーチ陣から厳しく指摘が入っていますか?

今はチーム練習が始まったばかりなので、深いところまで突き詰める段階には至っていません。これから出てくるであろうポイントを今から考えて、頭の中でイメージしながらプレーをし、いざ、その時が来た時に伝えられる言葉の引き出しを増やしているところです。今後そのようなシチュエーションが出てきたら、選手が主体性を持ってコミュニケーションが取れるよう、ダブルキャプテンのジョシュと僕が中心になって働きかけていきたいと考えています。

──今までもSR渋谷でキャプテンを長い間務めていましたが、ダブルキャプテンになったことでメリットとして感じている部分はありますか?

一人ひとりがチームのリーダーとして何ができるのか考えることが、プロ選手には必要だと思うので、プロチームにとってのキャプテンの存在は大きくないと考えています。なので負担に思ったことはないです。ただ、「キャプテンとしての在り方」と言われると、やはりコート上で背中を見せてチームを引っ張ることや、常に先頭に立って向き合っていくことが、今の僕にできるキャプテンなのかなと思ってます。ジョシュが入ることで外国籍選手やコーチとのコミュニケーションの部分がより深いものになると思っていますし、ジョシュ自身も日本代表のキャプテンを経験して、リーダーシップを持ってチームに帰ってきてくれたので、期待してます。