「僕はドウェイン・ウェイドの大ファンだった」
ノーマン・パウエルの獲得はヒートにとって思いがけない幸運だった。キャリア10年目にして21.8得点、3ポイントシュート成功率41.8%を記録し、オールスター級の活躍を見せた選手を、ローテーション外のベテラン2人(ケビン・ラブとカイル・アンダーソン)とのトレードで獲得できた。ピストンズへの移籍を決めたダンカン・ロビンソンに代わるシューターを務められる点でも大きな補強だ。
パウエルはヒートでの加入会見を行ったが、そこで最初に語ったのは、このトレードが予想外だったことだ。「フロントとの面談でオファーがあることは聞かされていたけど、トレードの可能性は高くないと言われていた。キャリア最高のシーズンを終えたところで、バカンスから戻ったら契約延長の話をするつもりだったから、トレードを知らされた時の衝撃は大きかったよ」
それでも彼は、移籍先がヒートだと聞いて大喜びしたという。「僕はドウェイン・ウェイドの大ファンだったし、ヒートでプレーすることを夢見ていた。子供の頃の夢が実現したと思うと感慨深いよ」
彼のNBAキャリアは、学びと変化の10年間だった。2015年の2巡目46位指名を受け、ラプターズでデビューし、ディフェンスでハードワークする若手としてNBA優勝に貢献。その後はトレイルブレイザーズの短い在籍を経てクリッパーズへ。ここでの3シーズン半はシックスマンとして得点力を示し、昨シーズンは先発に定着して大活躍を見せた。
31歳での大ブレイクについてパウエルは「チャンスがあるかどうか次第だ」と話す。「僕はずっと自分の技術を磨いてきたけど、キャリアを通じて優勝争いをするチームにいた。それは恵まれていることだけど、主役となる選手たちをサポートすることになる。それで影に隠れるような形になるけど、チームの勝利のためなら嫌じゃなかった。昨シーズンは自分らしさを発揮する機会を与えられ、思う存分プレーすることができただけなんだ」
「ヒートでもまずディフェンスで良い印象を与えたい」
目立たない役割に徹してきたパウエルにとって、昨シーズンの活躍は大きな成功であり、自分の自信を裏付けるものになった。「僕はメディアに注目されてきたわけじゃない。そういう意味では過小評価されていたのかもしれない。自分では活躍しているつもりでも、ほとんど話題にならなかったからね。でも、昨シーズンは僕という選手の価値を人々に認めてもらえた1年だった。チームに勝利をもたらす選手という評価をこのまま確立するのが僕の目標だ」
とはいえ、成功を収めたことで自分のやり方を変え、スター気取りでプレーするつもりはパウエルにはない。「僕は『プラグ&プレイ』(状況に合わせてプレーできる万能型)だけど、チームの中心も演じられるつもりだ。だけど『自分が主役でなければいけない』というエゴはない。チームの勝利がすべてで、ラプターズではそのためにディフェンスに集中したし、それはNBAで生き残る道でもあった。ヒートでもまずディフェンスで良い印象を与えたい。ラプターズ時代ほど守備をしなくなった、なんて意見を見たけど、そうじゃないことをコートで示すつもりだ」
彼のアイドル、ウェイドからは移籍を祝福するメッセージが届いたという。その話をするパウエルの表情は子供のように輝いていた。
「シーズンが終わって休暇でヨーロッパに行ったんだけど、そこで彼と会う機会があった。僕があこがれて、プレーを真似てきた人が、僕の活躍をチェックしてくれていたことは大きなモチベーションになったよ。ヒートへの移籍が決まったのはその2週間後だ。彼は歓迎のメッセージを送ってくれた。『ウェイドのチーム』でプレーできるのは最高の気分だよ」