
スポーツ界では、男性コーチが女子チームを指導するケースは多く見られる一方で、その逆はまだまだ少ない。そんな中、今シーズンのBリーグ王者である宇都宮ブレックスをアシスタントコーチとして支えたのが梅津ひなのだ。パリオリンピックでは女子日本代表のテクニカルスタッフを務めていた梅津は、今シーズンに宇都宮に加入。Bリーグファイナルではサイドラインから指示を送り続ける姿が印象的だった。未開の道を切り開く若きコーチに今シーズンを振り返ってもらうとともに、今後の目標を聞いた。
「女性コーチで男子リーグに挑戦したい人の助けに」
──Bリーグはレギュラーシーズン60試合とタフなスケジュールです。覚悟はしていたと思いますが、実際に経験してみていかがでしたか。
始まる前にいろいろな方から「60試合は長い」と聞いていて、自分がどれだけできるかという不安はありました。ただ、女子日本代表で恩塚さん(恩塚亨)と一緒に仕事をしてきた中で、タフな状況はこれまでもたくさん経験させてもらってきました。今、実際にシーズンを終えて振り返ると「長かったな」という感覚はありますが、達成感の方が大きいです。準備の大変さはありましたが、それ以上にブレックスで選手たちやスタッフたちと一緒に戦えることの楽しさが大きかったですし、また挑戦したいと思わせてくれるシーズンとなりました。
何よりも、60試合を通して高いモチベーションを維持できた一番の理由は、「ファンの皆さんと勝って一緒に喜びたい」という思いです。喜んでもらうためには勝たないといけないですし、そのためには準備をしっかりしないといけない。だから大変さやプレッシャーよりも、ファンの皆さんと一緒に喜びを分かち合いたい気持ちが大きかったです。そう思わせてくれたのは、どんな時もたくさんの応援をしてくれたBREX NATIONがいてくれたからです。
──女性のコーチが男子のトップカテゴリー、それも優勝チームの一員であることは本当に珍しいことです。男子チームに挑戦するの女性コーチの先駆者になっていきたいという思いはありますか。
もし、男子のプロリーグに挑戦したいと思っている女性がいるなら、私がその人たちの助けになれたらと思います。女性でもこういうことができるんだということを見てもらいたいですし、ここで私がどれだけ貢献できるかで同じ道を目指している人にも影響するからこそ、結果を出したい思いは強かったです。そもそも、女性のコーチ自体があまり多くない中で、Bリーグのチャンピオンチームのコーチをすることができた今シーズンは、私にとっての財産となりました。今後も男子のプロリーグでコーチをしていく姿を示すことで、少しでもコーチを目指す人たちの希望になれたらという思いはあります。
──その強い決意は、宇都宮に入団する前から持たれていたのか、加入後により強くなっていたのでしょうか。
もともとは恩塚さんに「日本一のコーチを目指すべきだ」と言っていただいたことです。ブレックスに加入する前からそういう思いはありましたが、実際に経験を重ねていく中でより強くなってきたのが率直な感想です。
「選手一人ひとりと向き合って共に成長していけるコーチに」
──この濃密な1シーズンを経て感じた課題、今後の自分を成長させたい部分はありますか。
コーチという立場でバスケットに携わったのは今回が初めてのシーズンでした。自分に足りていない部分は1シーズンを通してはっきりしました。だからこそ、次に向けてそれを修正し、来シーズンに向けて成長するために課題を見直して進んでいきたいです。オフシーズンにもっとバスケットを勉強し、選手とのコミュニケーションの取り方も含めて自分が成長できる部分はたくさんあると感じています。
──将来的にヘッドコーチになりたい思いはありますか。
男子か女子か、年齢やカテゴリーはまだ定まっていませんが、ヘッドコーチとして日本一のコーチになりたい思いはずっと持ち続けています。今はとにかく経験を積んで、将来的にはヘッドコーチとなり、日本一を取りに行きたいです。
──理想のコーチ像などがあったら教えてください
私自身、コーチとしてまだまだです。だからこそ、たくさんの経験から学び続ける必要があります。選手のために、チームのために何ができるのか、日々試行錯誤しながら私自身も成長していきたいです。その先に「あなたの話を聞きたい」「学びたい」と思ってもらえるコーチになりたいです。
──最後に宇都宮ファンへのメッセージをお願いします。
長いシーズン、ファンの皆さんにはたくさん支えていただきました。皆さんの声援が私たちの背中を押し続けてくれたからこそ戦い抜けたと思っているので、本当に感謝しています。そして皆さんと一緒に戦い、最後に優勝という最高の景色を一緒に見られたことが何よりもうれしかったです。ありがとうございました。