
ライジング福岡(現ライジングゼファー福岡)、福島ファイヤーボンズ、神戸ストークスのヘッドコーチを歴任した森山知広は昨夏、韓国のWKBLの『ハナ銀行』からアシスタントコーチのオファーを受けた。2024-25シーズンからアジア枠が設けられ、多くの日本人選手がプレーするようになったWKBLで初の日本人コーチとなった森山は、日本と韓国のバスケの違い、文化の違いに苦戦しながらも、1シーズンを戦い抜いた。
最下位に終わるも「すごく充実したシーズンでした」
──韓国での1シーズン目をどう振り返りますか。
コーチングキャリア初の最下位はなかなか厳しかったです。ただ、海外でコーチをすることも女子チームを指導することも初めての経験で、すごく充実したシーズンだったと思います。自分のバスケット観を見つめ直すことができました。
──いろんなカルチャーギャップがあったと思いますが、一番の驚きは何でしたか。
一番はハナ銀行の環境ですね。他の女子チームについては知りませんが、これまでいくつか視察した男子KBLのチームよりも整っていました。一つの施設にすべてが揃っていて、練習場、クラブオフィス、トレーニングルーム、交代浴ができる大浴場、サウナ、ビデオ分析用の部屋、ミーティングルーム……。テーピングを巻くためだけの部屋なんてものもあります(笑)。トレーナー陣がいるケアルームも日本の整骨院や整形外科医院レベルの施設で、考えられる治療器具はほとんど揃っているし、酸素カプセルもあって、ないものがないっていうくらいの設備です。
食堂で3食出ますし、スタッフも選手も同じ施設内に住んでいて、朝から晩まで一日が完結するので、バスケに集中できる環境でした。一日に8時間ぐらいコートにいることもありますね。ただ、外はすごく晴れてるのに丸一日外出しないことも普通なので、鬱々とした気持ちになる時もありました。
──どうやってリフレッシュされていたんですか。
昼食後に必ず外に出て散歩するようにしていました。外と言ってもハナ銀行の施設内ですが(笑)、本当に大きな敷地で、散歩コースやサッカーグラウンド、遊具、従業員向けの保育園もあるんです。
──言葉が通じなくて苦戦したり、ある程度通じるようになっても大事なことを伝えられなかった、といった経験もありましたか。
監督は僕がBリーグでヘッドコーチを経験したことを評価してくださって、「その感覚のままでいてほしい」、要は自分がヘッドコーチだったらどうするかを伝えてほしいと言われていました。ただ、「自分だったらこう思う」ということの細かいニュアンスや、監督や選手たちが初めて知るような戦術や考え方は、通訳を介しても上手く伝わらないことがあり、すごく苦労しました。
私が韓国語を話せるようになるのが一番なんですけど、生半可な語学力だと違う意味に受け取られてしまうリスクもあります。MLBの選手たちが公式会見で必ず通訳をつけるのも理解できます。どう切り取られるか分からない中で、やっぱり自分の言葉を残しておくのは大事だと感じます。

WKBL挑戦は「日本人選手にとってはプラスしかない」
──韓国と日本のバスケの違いをどう感じましたか。韓国はコンタクトがものすごく激しいと聞きます。
純粋なFIBAルールではなくて、一部独自のルールを採用して、ファウルやコンタクトの基準は日本とかなり異なります。日本だったら絶対にファウルになるような接触が吹かれないので、日本人選手はかなり苦戦したと思いますが、徐々にアジャストしていきました。その苦労は私も同じで、コーチ陣とはよく「練習から試合と同じフィジカルコンタクトをどう再現していくか」みたいなことをよく話し合いました。
これまでそういう意図で練習を組んだ経験があまりなかったので勉強になりましたが、練習の中で激しい身体接触を再現しようとすればするほど選手たちはキツくなります。特に韓国は試合が中1日とか2日で続くので、シーズン中の練習の組み立てはすごく難しかったです。
──ハナ銀行では石田悠月選手がプレーしていました。彼女のパフォーマンスはいかがでしたか?
よくアジャストしたと思います。Wリーグでもたくさん出場していた選手ではないですが、環境にも適応し、試合でも自分の特徴をしっかり出していました。彼女は私と違って韓国語が話せたので、韓国人選手とよくコミュニケーションを取れたことも大きかったと思います。
──日本人選手が韓国でプレーすることについて、どう考えていますか。
今後もチャレンジすべきだと思います。自分の居心地の良い場所で自分を律し、成長するのは難しいので、環境を変えてコンフォートゾーンから抜け出すことは大切です。言い方は悪いかもしれませんが、ベンチにずっと座っているよりもコートに出てプレーしてナンボで、選手として成長できるのは絶対そちらなので、大きなチャンスだと思います。
WKBLで日本人選手がプレーできるルールを活用して、「プレータイムさえあれば、これだけ活躍できる」、「このフィジカルなリーグでもこれだけのスタッツを残せる」と示すことができれば、Wリーグに戻ることもできます。実際に永田萌絵選手はトヨタ自動車と契約していますし、このリーグにチャレンジする意義は大きいと思います。
海外でプレーしようと思った時に、やはり環境面はすごく気になるところですが、WKBLはリーグとして1年経験がありますし、各チームの受け入れ体制も整っていて、衣食住が保証されています。他の国に行くとなれば、すべて自分で切り開いていかなければいけません。WKBLにチャレンジして結果を出せば、所属チームから継続オファーも来るだろうし、Wリーグからオファーが来れば選択肢も増えます。成長したい、環境を変えたいと思っている選手は、躊躇せずに来てほしいと思います。
1年目は9人の日本人選手がWKBLに挑戦して、その選手たちのシーズンの結果を見て、アジアクォーター制度の継続や、2人同時に出せるようなルール変更もリーグは検討しています。そう考えると日本人選手にとってはプラスしかないと思います。ホームシックになっても1泊2日で帰って来れますし。私は福岡に自宅があるので、東京に行くより近いですよ(笑)。

「韓国バスケに飛び込んで、自分がどう感じるか」
──コーチとしてコンフォートゾーンを抜け出してチャレンジしている自分自身もそうですか。
バスケの考え方や文化の違いは、私自身のバスケット観を柔軟にしてくれます。「こうすれば、こうなる」というバスケの原理原則みたいなところで、日本とは違う文化や歴史的な背景がある韓国バスケに飛び込んで、自分がどう感じるかを大事にしてきたので、そういう意味では生活面や環境も含めて良かったと思います。
──来シーズンもハナ銀行のアシスタントコーチをすることが決まっているそうですね。
シーズンが終わった後、クラブ側がキム・ドワン監督の解任を決めたので、私もそこに含まれると思ったのですが、新しい監督は私が神戸ストークスの最後の年に一緒にやっていたイ・サンボムコーチで、「日本に戻りたい気持ちがあれば柔軟に対応するが、アシスタントコーチとして考えている」と言われて契約を延長しました。
複数年契約を結ぶこともできたのですが、昨シーズンが厳しいシーズンだったので、この1年の経験を生かしてどれだけチームに貢献できるか、そこは甘えることなくやろうと1年契約にしてもらいました。日本で一緒にやってきたコーチが監督になって、彼がどういうバスケをするのかにすごく興味があるので、2年目の新シーズンも楽しみです。
──では最後に、Bリーグを離れた森山コーチの動向を気にしているファンの方々にメッセージをお願いします。
アニョハセヨ! いつも応援ありがとうございます。韓国まで家族で応援に来てくれたブースターの方もいて、異国の地で知っている顔が見られる安心感、安堵感がすごくありがたかったです。そうやってチームや環境が変わっても応援してくれる人たちに、少しでも良い話題を届けられるように、「あいつどうしてるかな?」となった時に「頑張っているんだな」と思ってもらえるように、2年目は結果も含めて成長していきたいです。是非、引き続きの応援をお願いします。韓国にも遊びに来てください!