マイク・ブーデンフォルツァー

チームが抱える問題を解消できず「変化が必要だ」

マット・イシビアがオーナーになって以来、サンズのチーム編成から『我慢強さ』がなくなった。問題があれば即座に手を打つし、問題がなくてもさらなる改善を図ろうと動き出す。だから2024-25シーズンが終わったその日にマイク・ブーデンフォルツァーを解任しても驚きはない。

5年5000万ドル(約75億円)契約の1年目を終えた指揮官の解任を発表したリリースには、「最も高いレベルで戦うのが我々の目標であり、今シーズンはその期待に応えられなかった。変化が必要だ」とのコメントが載った。

バックスにNBA優勝をもたらしたブーデンフォルツァーは、組織的なディフェンスを構築すると同時に、オフェンスでは選手の個性をシンプルに組み合わせてタレント力を発揮させた。まさにサンズに必要とされる手腕だったが、それは期待外れに終わった。

問題は多々あった。ケビン・デュラントとデビン・ブッカー、ブラッドリー・ビールの『ビッグ3』はオフェンス偏重で、ディフェンスの激しさと規律を植え付けるのは簡単ではなかった。アスリート能力を前面に押し出すチームが躍進する今のNBAで、サンズはその真逆のチームだった。サンズが高額なサラリーを支払ったスキルと経験は、若いライバルのフィジカルとアグレッシブさに圧倒された。サラリーキャップに余裕がなく、ビールのトレード拒否条項もあって、チームの問題をトレードで解消することもできなかった。

しかし、ブーデンフォルツァーのコーチングもまた大きな問題だった。82試合で35のラインナップを試したが、最適な攻守のバランスを見いだすことはできず、混乱だけをチームにもたらした。ユスフ・ヌルキッチを早々に見切ったが、代役が見つからず長く苦しんだ。一方で不調のビールやタイアス・ジョーンズを引っ張りすぎた。故障者続出の状況をルーキーのライアン・ダンが救ったが、ケガ人が復帰するとダンを使わなくなった。問題のあるロスターを押し付けられ、ケガも多かったが、それでも結果を残すことが彼の責任だった。

ブッカーが「シーズンを通して少しずつ悪くなっていった」と表現したように、こうした混乱が停滞を招き、2月以降は11勝24敗と低空飛行が続いた。

勝てない状況に誰もがイライラしており、デュラントはウォリアーズ移籍を打診された時点でモチベーションを失ったし、ブッカーはリーダーとしての振る舞いに迷っていた。ビールは負けが続いていてもマイペースを貫いた。すべてがブーデンフォルツァーのせいではないが、チームが結果を出せなかった時に一番に責任を取るのがヘッドコーチの役目でもある。

現地4月9日のサンダー戦に敗れた時点で、ブーデンフォルツァーは自身の去就について「我々は敗退したばかりで、フロントとはまだ何の会話もしていない」と語った。サンズの編成には圧倒的に『我慢強さ』が足りないが、それでも彼の解任は避けられなかった。