「根来と今野がゲームに出ている間にチームは勝っている」
大阪エヴェッサにとって9日の京都ハンナリーズ戦は『単なるリーグ戦』ではなかった。根来新之助は試合前の覚悟をこう振り返る。「危機感はありましたね。ここで負けたらチャンピオンシップがなくなってしまうと思っていた。ワイルドカードも微妙なラインやと思うし、西地区2位も本当にぎりぎりなので、今日だけは絶対負けられないと思っていた」
西地区は6チーム中4チームが『2ゲーム差』にひしめく超接戦状態。大阪は8日の初戦で京都に敗れ、両チームは23勝27敗で並んでいた。2位の琉球は25勝25敗(8日終了時点)の微差だったが、『10』という残り試合数を考えれば、一つの負けが多くのしかかる。
Bリーグは勝ち数が並んだ場合、こういう順序で順位が決まる。
(1)当該クラブ同士間の勝率
(2)当該クラブ同士間の得失点差
(3)当該クラブ同士間の平均得点
大阪は名古屋Dに対して2勝2敗、琉球に対しては4勝0敗と五分以上の星を残している。しかし京都戦は2勝3敗と負け越していた。仮に勝率が並んだ場合を見越すと、京都戦の勝ちで順位が変わる可能性もある。
そんな重みのある9日の『リベンジマッチ』で、根来は印象的な活躍を見せた。大阪、京都とともに外国籍選手のオン・ザ・コート数は「2-1-1-2」。パワーフォワードで195cmの根来は、オン・ザ・コート「1」の20分間を任された。桶谷大ヘッドコーチはキャプテンの今野とともに、根来の活躍をこう称える。
「合田(怜)とエックス(ギブソン)が、目で見て分かるような活躍をしていたけれど、それ以外で根来、今野がゲームに出ている間にチームは勝っている。今野が23点、根来は24点勝っている。チームの勝利を裏方で支えてくれたと思う」
第1クォーターを16-25のビハインドで終えた大阪だが、第2クォーターは21-16、第3クォーターは23-4と京都を上回った。根来が出ている20分間に『24点』の貯金が生まれた。
根来は第2クォーター、第3クォーターの戦いをこう振り返る。「ディフェンスが悪かった昨日を踏まえて、2クォーターの途中からディフェンスがしっかりハッスルできた。その上で速攻からどんどん速い展開でアタックできた」
果敢な相手守備を逆手に取りファウルを誘う老獪さ
特に第3クォーターで大阪は京都を4得点に封じる圧巻の守備を見せている。根来はこう説明する。「相手の狙いたいところをしっかり消せた。例えばピック&ロールで(マーカス)ダブがスクリーンに来た時に、ダイブしてくる動きに対してみんなが寄れて、そこのところに対する手が出ていた。次の展開の時に3ポイントシュートを狙う選手が外に待っているんですけれど、チームでローテーションして簡単に打たせなかったし、ダイブに対してもインサイドのペイントで取られなかったのが良かった」
チーム最年長の37歳で、チームの司令塔をつかさどる木下博之は根来の強みをこう語る。「落ち着きですね。彼が戻ってバタバタする時間帯が少なくなった。バスケットは状況判断ですが、根来はそこをできる選手の一人。どこが今有利だ、攻め時だという流れを読めるプレイヤーなので、そういう選手とやるとコントロールしやすい」。9日の試合でも根来の読み、守備の貢献が大阪にとっては大きかった。
根来はオフェンスに関して「ちょっとレイアップを外しすぎた」と反省していたが、それでも9日は12得点を挙げている。京都はスモールラインアップで大阪戦に臨んでおり、根来は彼より背が10cm以上小柄な選手とマッチアップする時間もあった。また「3ポイントシュートを警戒してくれて、それなりにチェックが早く来てくれていた」と彼が振り返るように、京都は外角からの得点力もある根来へ早目、厳し目に手を出していた。根来はそこを逆手に取り5つのファウルを獲得し、フリースローも「6分の5」としっかり決めている。
3月末のシーホース三河戦では206cmの桜木ジェイアールをスピード、外角からのシュートで脅かす好プレーを見せた根来だが、京都戦は身長のアドバンテージをしっかり生かしていた。
チームの勝利だけでなく『プラスアルファ』にも前向き
9日には琉球が滋賀レイクスターズに敗れ、大阪との勝ち数差が1に縮まった。6チーム中4チームが「2ゲーム差」に入る激戦は続いている。根来はそんな『プレ・チャンピオンシップ』をどんな気持ちで戦っているのだろう?
「結構楽しんでいるほうやと思うんですけどね。今までケガして出ていなかったので。僕は楽しく積極的にバスケットしているつもりです」。彼はそう口にする。
根来は昨年11月5日の琉球戦で腓骨筋腱脱臼を負い、プレーオフも見越して手術に踏み切った。 2月18日の川崎ブレイブサンダース戦まで100日以上、公式戦から遠ざかっていた。
もちろんアスリートのコンディションがなかなか100%になるということはない。根来もまだ「正直に言うと足も回復し切ってない。右足も膝を悪くしたりしていて、自分の中でベストのパフォーマンスは出せていない」と明かす状態にある。しかし選手にとって試合に出られない以上の悔しさもない。自身とチームの『修羅場』を、彼は前向きに受け止めている様子だった。
味のあるキャラクターの持ち主でもある根来は、『チームの顔』的な存在だ。彼はBリーグ開幕前のティップオフカンファレスにもチームを代表して参加し、9日の試合後は大阪の民放局から取材を受けていた。明石家さんまの番組から受けたオファーは負傷の直後で出演を断念したとのことだが、この時期になってバラエティ番組も含めてお茶の間に登場する機会が増えている。それは立派なプロの仕事であり、チームへの貢献だ。
彼はこんなことも述べていた。「野球やサッカーは本当にメディアの露出が多いけれど、バスケは今までなかった。これからどんどんメディアに出て注目されて、バスケットを盛り上げて、大阪エヴェッサを有名にしていきたい」。
レギュラーシーズンの終了まであと1カ月。西地区からチャンピオンシップの出場権を得る2チーム目はぎりぎりまで決まらないだろう。ただそんな痺れる戦いも、お客さんに見て、楽しんでもらわなければ意味がない。勝利の貢献と『プラスアルファ』は残り10試合、そしてチャンピオンシップに向けた根来の大切な仕事だ。