Bクラブのキーマンに聞く
Bリーグが開幕し、日本のバスケットボール界が大きく変わりつつある今、各クラブはどんな状況にあるのだろうか。それぞれのクラブが置かれた『現在』と『未来』を、クラブのキーマンに語ってもらおう。
構成=鈴木健一郎 写真=野口岳彦

2011年創設の千葉ジェッツは、bjリーグからNBLに『移籍』した唯一のチームだ。Bリーグになる以前から観客動員ナンバーワン、ホームタウンである千葉県船橋市をメインにスポンサーも数多く集め、ビジネスに長けたクラブというイメージがあった。ところが今シーズンは1月のオールジャパンをプロクラブとして初制覇。最初のシーズンが終盤に差し掛かったBリーグでも上位に食い込む健闘を見せている。

『経営上手』から『ビッグクラブ』へと変貌を遂げつつある千葉ジェッツの島田慎二代表のインタビューは、予定時間の60分を大幅にオーバー。たっぷりと熱弁を振るってもらった。


島田慎二(しまだ・しんじ)
1970年生まれ、新潟県出身。千葉ジェッツの運営を行う株式会社ASPEの代表取締役社長。旅行事業やコンサルタント事業で成功を収めた後、2012年に経営難にあった千葉の社長に就任すると、1期目から経営を立て直し、現在の飛躍へとつなげた。現在は公益財団法人日本プロフェッショナルバスケットボールリーグの理事も務める。

稲葉繁樹(いなば・しげき)
1981年生まれ、福岡県出身。『バスケット・カウント』プロデューサー。デジタルコンテンツ、映像、広告、音楽、イベントなど、ジャンルの垣根を自由に往来する「越境するプロデューサー」として多角的に活動している。今も多忙の合間をぬって月2でプレーする草バスケプレーヤー。20年来のブルズファンでもある。


「クラブに入れるお金を死に金にするわけにはいかない」

稲葉 経営不振に陥った千葉ジェッツの再建プランを立てた経営コンサルタントの島田さんが、プランを立てるだけでなく実行役まで頼まれて社長になったエピソードは有名ですが、リスクばかり大きいように思えてしまいます。引き受けた理由は何だったのですか?

島田 私が引き受けないと会社を潰すという話だったからです。「コンサルじゃなく社長をやってくれ、金はないけどやってくれ」というのは無茶な話ですが、私が引き受けないのであれば続けられないから潰すと。それなら引き受けるしかない、潰すわけにはいかないよな、という考えでした。

稲葉 ただ、社長として関わるからには「頑張ってみたけどダメでした」という話では済まないですよね。その時点で多少なりとも勝算はあったのですか?

島田 ただ単に赤字で潰れそうな会社で負債を背負っても仕方ないですよね。当時はbjリーグだったので、あまりお金がかからなかった。1億5000万円ぐらいあれば損益分岐みたいな事業感だったんです。それならトントンぐらいにはできるだろう、というイメージはありました。ただ、それは勝算とは呼べないですね。

稲葉 最初は再建から入ったわけで、その時点では組織としての未来像を描けなかったと思います。最初の1年で黒字化されたということですが、それまでで一番の危機は何でしたか?

島田 私が来た時に株主が40人ぐらいいて、中にはよく分からない株の持ち方をしている人もいました。管理会社みたいなのがあって分割したり、誰が支配しているのかも分からない状況で、そこを紐解くのが最初の仕事でした。それを解決しない限りは、この会社に資金を投入して稼いでも、誰のため、何のためにやっているのか分からないという状況です。

稲葉 無償で社長をやれと言われるより、そっちのほうがキツいですね。

島田 キツいですよ。社長でリスクを背負っているのに株主が見えないのでは、誰のためにやるのか分からない。それでお金を集めても嘘つきになってしまいますから。自分で入れるにしても集めるにしても、クラブに入れるお金を死に金にするわけにはいかない。だから、生き金としての資金注入をするために株の整理からスタートしました。株主に会いに行っては買い取っていくんです。株の過半数を取って経営権をこっちに持ってきて、そこで初めて会社の再建でした。

稲葉 経営権を取ってからが本当のスタートだったわけですね。

島田 そこからはNBLに行ったり、旧経営陣の責任をはっきりさせたり、今のスポンサーの人たちに助けてもらったり。いろんなことをして一気に資金を集めました。私が社長になったのが2月1日なんですけど、4カ月で1億5000万円くらい集めて、初年度はトントンで決算しています。それを借り入れじゃなく、全部PL(損益計算書)に反映させる形にしました。決算を正さないと信用されません。当たり前のことですが、ウチにスポンサーをしようとする大きい会社は信用調査をやりますよ。「ちゃんと1年運営できるのか」と。そこで1億4000万円の赤字を出す会社では信用されません。粉飾じゃなく、実体としてトントンまで持っていかないと何も始まらないんです。その第1期、私は半期ぐらいしか絡んでいないのですが、そこが一番デンジャラスでした。今思い出しても笑っちゃうぐらい大変でしたね。

「地域密着とわざわざ言うこと自体が違うんじゃないかな」

稲葉 地域密着についてはどうお考えですか? 地域貢献に限らず行政連携もうまくやっている印象です。

島田 地域密着での活動は、ホップ・ステップ・ジャンプで言えば『ホップ』の位置付け、必要条件ですよね。地域密着とわざわざ言うこと自体が違うんじゃないかなと。その地域でビジネスをする上で、地域にアプローチするのは当たり前。それは最低限、その地で生きていくための礼儀ですよね。

稲葉 面白いです。では、ホップの次の『ステップ』と『ジャンプ』はどう行きましょう?

島田 最近は「地域密着」をあらためて「地域愛着」という言葉を社内で使うようにしています。我々がここで生きていくために、アプローチしていくのが地域密着活動とするならば、地域愛着はむしろ地域がウチを必要としてる状況です。分かりやすく言うと「ジェッツがあるからここに住みたい」とか。関東圏で引っ越しをするバスケ好きが、徒歩圏内でジェッツの試合を見られる場所を選んで住むような。サーファーが湘南に住むという例はありますよね。あるいは一人暮らしをする学生がコンビニの近くに住みたがるのに近いのかもしれない。そういう自分の生活スタイルに影響を与えられるような状況を作るのが目的であって、地域密着活動はそのプロセスですよね。

稲葉 目的とプロセスを混同しないということがよく分かります。

島田 要はゴールを設定しないまま日々をこなしていても、どこに向かってるかよく分からないということです。

稲葉 では「地域愛着」を実現するためのアプローチについて聞かせてください。

島田 それはただ一つ、力を付けるしかないですよ。チームが強くなるのもそのプロセスです。チームが強くなればいいわけじゃなくて、要はクラブとしての力をつけて、地元で存在感を発揮していくことです。すべて含めて地元で存在感が出てくれば、扱いは変わります。どうやれば力が付くか、それは経営を強くするしかないと思っています。

千葉ジェッツ 島田慎二代表に聞く
vol.1「地域密着を実現するには経営を強くして、地元で存在感を出すしかない」
vol.2「経営と集客って結構似ているというか、経営そのものだと思います」
vol.3「チームも経営と同じ、骨太の方針を決めることで一本筋を通そうとした」
vol.4「究極的には大局観を持って『日本のバスケのため 』を考えますよ」
vol.5「可能性をみんなに感じさせて、引っ張っていくリーダーシップが必要」