取材=鈴木健一郎 写真=本永創太、野口岳彦
Bリーグはいよいよシーズン終盤戦。どのチームもそれぞれの目標に向かって奮闘しているが、上位チームはチャンピオンシップを視野に入れた戦いがもう始まっている。
チャンピオンシップには8チームが進出。準々決勝と準決勝ではリーグ戦上位クラブのホームで開催される2戦先勝方式、1勝1敗となった場合には『5分前後半の3試合目』を当日実施する、というレギュレーション。また決勝は代々木第一体育館での一発勝負となる。
Bリーグ初代王者の座を懸けたチャンピオンシップの見どころや魅力について、バスケットボール解説者の佐々木クリスに聞いた。

千葉の流動的なバスケはチャンピオンシップでも脅威に

チャンピオンシップならではの楽しみと言うと、「タイトルを争う負けられない試合」ということです。ユーロリーグのチャンピオンシップを見ても、ファイナル4からは一発勝負。そうなると準決勝と決勝はすごく重くなります。つまりペースが遅くなって、大事にプレーする。ハーフコートバスケットか、スティールでのワンマンブレイクか、それぐらいでしか得点が動かない試合になります。

誰もがディフェンスを優先して潰し合いの中で勝とうとする中、どうやって自分たちの特徴を出していくか。トーナメント方式のオールジャパンで優勝した千葉ジェッツは、ディフェンスはベースとしてあって、その上で得点ペースも緩めなかった。それで勢いを呼び込んで、シーホース三河や川崎ブレイブサンダースを破ったわけです。

40-40のようなロースコアの展開だったら、あんな形で千葉の良さは出なかったはずです。富樫勇樹選手がボールをプッシュする力があって、伝統的なパワーフォワードとセンターをコートに置く三河や川崎に対し、ハーフコートでもピック&ロールでズレを作って、ビッグマンのディフェンスの粗さを突いた。3ポイントシュートも確率良く決めましたが、ピック&ロールの副産物と言うか、チームオフェンスの結果だと思うんですね。

そういう意味ではハーフコートに入っても止まらない千葉の流動的なバスケットは、対戦相手からするとチャンピオンシップでもすごく恐ろしいものだと思います。トーナメントの勝ち方を知っている、それに対して自信を持っている。これは大きいですよね。

強豪はチャンピオンシップでの『特別な戦術』を準備

今だと1回戦で千葉と当たるのは栃木です。1回戦で当たるのはもったいないカードですね。ただ栃木はホームの強さがあります。あの雰囲気の中で戦えるとなると、オールジャパンとはまた違った展開になるでしょう。

栃木は変則的なピック&ロールをするチームです。ジェフ・ギブスとライアン・ロシターの4番5番のピック&ロールとか、田臥勇太がスクリーナーになるロシターへのピック&ロールとか。

栃木はレギュラーシーズンでは隠しているプレーがたくさんあると感じています。ヘッドコーチと話しても、選手の印象を聞いてもそうなので、すでにチャンピオンシップを見据えて戦っている。目の前のゲームを勝つのはもちろんですが、そこ以外にフォーカスして戦えるのは、今すでにチャンピオンシップ出場を決めているチームの強みでしょうね。

チャンピオンシップに向けての準備という話になると、2人の外国籍選手を入れ替えたアルバルク東京はちょっと違います。だけど、60試合あるシーズンの長さがA東京にはアドバンテージになるんじゃないか。途中加入でもチームケミストリーを作るに十分な時間を残したまま、ギリギリではありましたけど、新しい選手を加えることができました。

ジェフ・エアーズと先日ご一緒させてもらいましたが、スパーズの文化を知っていたりだとか、人間的にも優れた選手です。A東京の関係者に聞いても、彼らが入ってチームの雰囲気がガラッと変わったと評価されているので。ここからチャンピオンシップまでにどう持っていくかですね。

底を見せない三河、ダークホースで面白い存在となる三遠

三河は難しいチームです。何かを隠し持っているかもしれないのですが、それが見えてこない。鈴木貴美一ヘッドコーチがやってきたインサイドアウトの、オーソドックスなバスケットをしていて、持ち前のタレント、シュート力というもので基本的には相手を上回ってくるわけですよね。

だけどシュートが入らなくなった時、短期決戦の中で当然出てくる状況でどういう対策をしてくるのか、それがリーグの戦いの中では見えてこない部分があります。60試合のレギュラーシーズンの中では若手を使いながらバランスを取って戦うのですが、その中で三河の最大の強みが何かとなると、オフェンスリバウンドなのかな、1on1なのかな、と挙げることはできますが、はっきりとは見えてこない。レギュラーシーズンはすべて寄り切りで勝っているんです。上手投げができるのか、下手投げは得意なのか、そういうのを見せない強さがあります。

まだチャンピオンシップ出場が決まっていない中で注目しているのは三遠ネオフェニックスです。ジョシュ・チルドレスはすごく能力のある万能型の選手。それこそセンターに付くこともできるし、ボールを運ぶこともできる。僕はオールラウンダーを見る際、どのポジションをオフェンスでできるかではなく、何番ポジションで守ることができるかを見ます。1番から5番まで守れる選手が一番すごくて、今のリーグで言うと栃木のギブスです。そんな働きをチルドレスがやって、三遠の速い展開のバスケに完全にフィットしたら、これは楽しみです。

ピック&ロールを制す者が大会を制す、それがあるべき姿

優勝予想をするのは避けてきたのですが、バスケット・カウントさんはそれでは許してくれないので予想しましょう(笑)。やはりポイントはピック&ロール、そのオフェンスをいかに使いこなすかです。そういう意味で軸になるのは、川崎では辻選手、千葉では富樫選手。栃木も当然優勝候補なんですけど、ちょっと変則的なピック&ロールをするので、ガードではなくむしろロシターがボールを扱うような役割だと見ています。

そんな中で「ピック&ロールを制す者がチャンピオンシップを制す」みたいな形になる。それが今後の流れとしてあるべき姿だと思います。

ああ、優勝予想をしていないですね(笑)。では条件付きにはなりますが本命として栃木ブレックスの名を挙げておきましょう。対抗は千葉で。栃木については遠藤祐亮がピック&ロールをするというのが条件です。

遠藤はディアンテ・ギャレットに付ける選手です。田臥、渡邉裕規、ロシター、そしてギブスのピック&ロールを止めた時、遠藤がピック&ロールで起点となれるか。ピック&ロールの恩恵を受けるだけのシューターではなく、自分も扱えるか。それは遠藤の代表での立ち位置にもかかわってきます。

古川孝敏のピンダウンだけじゃなくて遠藤の部分もトーマス・ウィスマンはレギュラーシーズンの60試合を通じて育てている。それがチャンピオンシップで実を結べば、栃木なのかなと思いますね。

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