大上晴司

選手たちのケガでチーム状況が安定しない時期を乗り越え、5年ぶりに福岡県1位となりウインターカップ出場を決めた精華女子。『組織力』を武器に掲げる大上晴司コーチは「ユニフォームが着られない選手たちがチームのため献身的に頑張ってくれた」と一人ひとりの成長がチームを作ったと話す。体育館に掲げられた『精華旋風を巻き起こす』の文字通り、戦力の揃った精華女子は試合ごとに風の勢いを大きくしながら旋風を巻き起こす。

「良いコンディションで大会に臨みたいです」

──去年のウインターカップが終わってから今まで、精華女子にとってどんな1年でしたか。

留学生を入れてウィークポイントだった高さを補い、去年の北海道インターハイである程度の経験を積んで、福岡インターハイで日本一を取ることを目標にしていましたが、選手のケガが相次いだことで、描いてた状態と変わってしまいました。去年はエースの清藤優衣が膝のケガで長期離脱がありましたし、県の決勝でアキンデーレ・タイウォ・イダヤットが前十字靭帯を切ってしまい、タイウォが抜けた状態でウインターカップを迎え、初戦で千葉経済大学附属に負けました。

チームとして良いコンディションで大会に臨めない状況が続きましたが、清藤も帰って来て、福岡インターハイの日本一を目指して九州ブロック大会まで良い感じで来ていました。しかし、九州ブロック大会の決勝戦で核になるポイントガードの中釜光来が脱臼して救急車で運ばれて、インターハイには肘が伸び切らないまま臨んだので、パスは出せないしシュートも打てない。となると、どうしてもウチのトランジションは機能しません。そんな状態で1回戦から全然ウチらしくないバスケで、昭和学院に負けました。

ここに来てやっと選手が揃って、コンディションも非常に良い状態です。ウインターカップは3年生にとって日本一を狙える最後のチャレンジなので、本当に良いコンディションで大会に臨みたいです。

──ケガというチームのハプニングを、どうやって乗り越えましたか。

タイウォが非常に良い活躍をしてくれて、そこをある程度見越した新チームのイメージでした。ただ彼女のケガで、またスモールラインナップに戻したから出てきたプラスもたくさんあります。特に、新人戦からスタートに抜擢した宮崎陽向の成長がこのチームに勢いをつけたし、下川蒼乃も留学生相手に身体を張ってよく守ってくれたし、日本人だけでもできるんだという証明ができました。タイウォがいないからなおさら勝たなきゃいけないと感じたと思いますし、トランジションも早くなり、ディフェンスもオールコートでハードに守れるようになりました。「もうそこしかないんだ」と平面のバスケに割り切れたのが大きかったですね。

──紆余曲折を経て成長したからこそ、県予選で最後に東海大附属福岡に打ち勝つ強さが出てきたんですね。

県予選は日本人の5人をベースに大会に臨みました。勝ち抜くには高さが必要なので、復帰明けで40分試合に出続けるスタミナが戻っていないタイウォをどこで使って、どう選手を回していくのかが非常に難しかったです。決勝戦はタイウォのファウルが立て込んで、スモールラインナップに戻したことがきっかけで、スピーディーなバスケでウチらしい試合運びができました。それでも最終的にとどめを打ってくれたのはやっぱりタイウォのゴール下でした。ウィンターカップに向けて『高さ』は絶対必要なので、この1カ月でチームを仕上げて、「こういう時はこのメンバーでこのバスケだよね」と選手たちが共通理解を持ってゲームが運べるようになればと思います。

福岡精華1

『組織作り』が「チームの団結力に繋がっている」

──今年は3年生が20人いますが、大所帯でもチームがブレずにやっている印象があります。

20人いる3年生の半分以上がユニフォームが着られない中で、チームのためにそれぞれの持ち場で献身的に頑張っています。福岡の決勝戦の前には、チームの特徴をスカウティングして、メンバーに入ってない子たちでチームを組んで、東海大福岡の選手になりきって練習相手になってくれました。決勝戦は応援席から身を乗り出して、全員が一体となって戦えた試合でした。それは『組織は人なり』という、ウチにしか出せない部員の多さをパワーとする一つの強みになっていると思います。

──大上コーチが『組織作り』をする上で、意識されてるところはどこですか。

『個人力と組織力』を武器に掲げていますが、「どんな組織にしたいからどんな人を育てていくか」と「どんな人に成長してほしいからどんな組織にしていくか」を常に大切にしています。外から見たら「元気が良くてまとまっているチーム」に見えるかもしれないですが、いつも上手くいっているわけではありません。まだまだコーチ陣が未熟だったり、選手と噛み合わない時期を乗り越えながらやってきました。ただ、問題を乗り越えて一つ前に進むことが、いつも「チームが変わるきっかけに」なります。

順風満帆に見えるかもしれませんが、実は中でいろいろなことがあります。ユニフォームを着れない悔しさだったり、AチームとBチームの中のちょっとした気持ちのすれ違いとか、お互いがいろいろな壁にぶつかりながら、一人ひとりが成長しています。コーチ陣もそれに触れることで、何かに気付かされたり、勉強させてもらいながら、一緒に目指すところに向かって行く。今回はそれが特にチームの団結力に繋がっていると思いますね。

──今年、清藤選手は実力が評価されてU17日本代表に呼ばれました。メンタルの部分も含めて成長を感じるところはありますか。

清藤はたくさんの刺激をもらうチャンスがあったおかげで、一つひとつの技術だったりに対する追求心が育ちました。海外経験の後で、本人と私に「ハンドリングはもっと改善の余地あり」という評価シートが来たのですが、それ以来、毎日iPadを見ながらハンドリングを1人黙々とやっています。一番力のある子が一番基本的な練習に打ち込む姿をチームメートに見せることでチームを引っ張ってくれました。

彼女なりにこのチームを引っ張ることに重圧を感じていて、インターハイに負けた時も「もっともっと自分がやるべきだった」という思いが行動に出てきました。私からすると、もっと出せる力はあるのにまだまだ遠慮しています。この1カ月でその壁を乗り越えてくれると、さらにすごい潜在能力を発揮できると期待しています。

──同じく中釜選手もキーマンになってくると思います。

去年は控えでしたが、「中釜がいるといないとでは、こんなにチームが変わるのか」という、たくましい存在に成長しました。今はゲームをコントロールすることを本当に理解していて、自分が行くべきところと、チームメートを使うべきところの戦術的な理解だったり、ゲームの運び方に関しても成長を実感しています。

大上晴司

「風の勢いを大きくしながら、旋風を巻き起こしたい」

──準々決勝まで行けば桜花学園と当たるという組み合わせを、どう感じていますか。

私たちはおそらく第4シードなので、桜花学園やその他の強豪チームが入ってくるのは分かっていましたが、日本一という目標を達成するには組み合わせの良し悪しは関係なく、全試合に勝たなくてはいけません。樋口鈴乃や三浦舞華の代のウインターカップで桜花学園に負けています。やっぱり、先輩たちが果たせなかった相手にリベンジをして、自分たちの目標を達成するのが一番良いと思うんです。桜花学園の選手たちもこの一戦に懸けてくる思いは強いでしょうし、その準備ができたチームが優勝すると思います。選手たちには「日本一になる準備、メンタル、フィジカル、スキル、チームワークのいろいろなことを含めて、真剣に考えて計画を立てて行く必要があるぞ」と喝を入れました。

──選手たちは『日本一』になる心づもりができていますか。

本人たちの中では、去年のインターハイで京都精華学園と競り合うことができたり、トップリーグのいろいろな試合を経て「自分たちは十分やっていける」ということを感じています。ただ今年はトップリーグに出られなかったので、それを直前に肌で感じ合うことができなかった分、練習がすべてです。コーチ陣ができる仕掛けと、選手たちが出してくるエネルギーが噛み合うことが勝つための条件になるので「お前たちだけでやれ」ではなくて、コーチとして選手たちが目標に近づける仕掛けを作らなければいけないですし、いかに気持ち良くハードなことに取り組んで準備していけるかと、ハードの中にコンディションを調整する計画もしっかり持って、ベストコンディションで臨ませてあげたいです。

──最後に、全国の応援してくれてる方々にメッセージと意気込みををお願いします。

いつもたくさんの方から応援していただいて、大会に行けばファンの子たちが選手を追いかけてくれる姿を見て、本当に感謝しています。ぜひ、戦力が揃った精華女子の本当のバスケを楽しみにしてほしいですし、ウインターカップでは一つでも多くの試合を見ていただくために、選手たちは最後まで東京体育館のコートに立ってバスケをするつもりで頑張ってきたので、ぜひ期待してほしいです。試合前にみんなで円陣を組んで「精華旋風を巻き起こせ」という掛け声の下、勢いを付けてコートに入っていきます。試合ごとに風の勢いを大きくしながら旋風を巻き起こしたいので、そこも楽しみにしていてください。