「一番尊敬している先輩」である田臥とのマッチアップ
滋賀レイクスターズは57-103と栃木ブレックスに大敗した第1戦から、昨日の第2戦では80-82と持ち直した。並里成自身も15得点7アシスト5リバウンドというスタッツを残している。ただ前日とは違う種類の悔しさが、彼の胸中には宿っている様子だった。
「後半20点(最大で21点リード)勝っていて、そこを逆転されるのはコーチとポイントガードの責任だと思う。せっかく勝つチャンスが見えていたのに、自分らの細かい部分で……。僕も最後タフショットを打ったりとか、ターンオーバーしてしまった。ちょっとしたことで勝敗が分かれる。そこは昨日よりも悔しいですね」
栃木のポイントガードはもちろん田臥勇太。並里が「一番尊敬している先輩」と口にするお手本だ。並里はスラムダンク奨学金の第1期生として渡米しているが、帰国した2009年から11年まで栃木で田臥とチームメートだった。身長も並里の172センチに対して、田臥は173センチ。田臥は9歳上で、並里がまだ果たせていないNBAの舞台に立っている選手だ。そこを意識するのは当然だろう。
19日の試合、並里は30分40秒のプレータイムを得て、重要なプレーに数多く絡んだ。特に後半はフルタイムで出場し、第3クォーターは7得点2アシスト2スティールを記録。32-31から65-48までリードを拡げる立役者になった。4123人の大観衆の中には、田臥目当てのお客さんも少なからずいただろう。しかしそんな空気を彼は滋賀に引き寄せた。
両者の『対決』について田臥に問うと、「個人と戦っているという意識はない」と釘を刺しつつも、後輩のプレーをこう評していた。「彼の良さもドライブで出て、チームが勢いづいたのも彼のプレーが理由の一つ。チームの主力として思い切りよくやっているのは敵として感じました」
目覚ましいプレーの裏に見えた『勝敗に直結するミス』
第2戦、並里はこう考えてプレーしていた。「僕はディフェンスが良ければオフェンスにもつながるタイプ。そこをもう一回思い出させてもらった。ディフェンスからやることを重要視してやりました」
41-35で迎えた第3クォーター残り6分38秒、彼は田臥からボールを絡め取りスティールに成功した。速攻に持ち込もうとしたところを竹内公輔のファウルで止められたが、17点のビッグランを加速させるプレーだった。
並里自身にとっても会心のプレーだったのだろう。彼はこう口にする。「田臥さんはターンオーバーが本当に少ない選手。彼からボールを取ってターンオーバーに持っていけたのはすごくうれしい。ディフェンスは僕の持ち味でもありますし、あそこで流れが変わったんじゃないかと思っています」
しかし第4クォーターは「重荷を負いすぎた」印象で、勝敗に直結する失敗も複数あった。残り4分17秒にはクレイグ・ブラッキンズのスローインを受けた並里がターンオーバー、そこからライアン・ロシターに72-71と1点差に詰め寄られるシュートを決められてしまう。
並里はこう分析する。「スペーシングがなかった。オールコートで前に来たときの運び方がない。そこをちょっと軽く決めたら良かった。僕がもらいに行って、もらえなかったらこの人がもらって、それができない時にセンターがフラッシュしてとか、そういう決め事がちょっと必要だった」
ボールを受けた並里は、外国籍のインサイドと田臥の合計3名に激しくチャージをかけられた。パスコースを探す間もなくスペースを消され、彼の個人技をもってしても打開できない状況に追い込まれていた。そこは彼自身だけなく、チームとしての課題でもあろう。
託されたラストショット「シンプルに打ちたかった」
81-82と逆転されて迎えた残り24秒、並里は渡邉裕規のシュートのディフェンスリバウンドを確保、ここから勝敗を左右するオフェンスが始まった。並里が2点でも決めれば逆転、ファウルを取ってフリースローが「2分の1」でも同点という究極の見せ場だった。
並里はゆっくりとボールを運び、足を止めて時計を進める。ブラッキンズのスクリーンを使い、左に膨らんでシュートを放った。並里はこう振り返る。「キレイにアンダーしてくれてノーマークだった。中に行ってタフなシュートを打つよりは、シンプルに打ちたかった。その方が今まで確率が良かったのでそれを選択しました」
しかし、やや体勢が流れてのシュートは無情にもエアボールのままラインを割った。
並里は大番狂わせのヒーローになれなかった。ああいう場面で決めて、ファンを沸かせる選手に『スター』の資格がある。しかし27歳の並里はそこにあと一歩届いていない。2020年の東京オリンピックに向けた日本代表に選ばれるためにも、彼の言う「細かい部分」、「ちょっとしたこと」の質を高めなければならない。
この試合の並里は8つのターンオーオーバーを犯した。アグレッシブに仕掛ける、創造的なプレーができるところは彼の強みだ。ただ試合運びを安定させ、勝負どころを制するという『勝てるポイントガード』になるためには、まだ努力と経験が必要なのだろう。並里のすごみと課題の両方が出た、栃木との激闘だった。
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