トバイアス・ハリス

「このチームが持つエネルギーは誰もが感じ取れる」

トバイアス・ハリスがフリーエージェントでピストンズと2年5200万ドル(約78億円)の契約を結び、新天地でのユニフォームを着た写真をSNSに投稿すると、すさまじい勢いでコメントが伸びた。「来てくれてありがとう」というピストンズのファンの声よりも目立ったのは「二度とフィラデルフィアに戻って来ないで」のようなセブンティシクサーズのファンからの批判の声だった。

ハリスは2018-19シーズン途中にクリッパーズからのトレードでシクサーズに加わり、6シーズンを過ごしたが、そのほとんどの期間でファンから批判を浴びせられた。その根底にあったのは、5年1億8000万ドル(約270億円)のマックス契約に見合った働きができていない、という考え方だ。シクサーズの在籍期間を通してハリスはその批判に向き合ってきた。

そんなコメントにハリスはいちいちレスを返した。「二度とフィラデルフィアに戻って来ないで」には「そうか、君たちの街だったね」と、「シクサーズから何年も金を盗んだ」には「口座を教えてくれれば金を返すよ」とコメントを返し、「君には失望した」というコメントには笑顔の絵文字を付けた。

それを最後に、彼は過去と決別してピストンズでの将来へと目を向けた。ハリスにとってピストンズは、若手から中堅へと差し掛かる時期を過ごしたチームだ。「僕にとってここは、スタン・ヴァン・ガンディの下で大きく成長させてもらった場所だ。この夏にオファーをもらった時、チームの顔ぶれやコーチングスタッフを見て、自分がプレーで若い選手たちの成長に良い影響を与えたいと思った」と彼は言う。

ピストンズはオフのたびにチームを作り直すことを繰り返し、再建は遅々として進んでいない。その流れを変えるのがハリスの役割だ。「ピストンズの名に相応しい尊厳を取り戻す、その一員になることを誇りに思う。やらなければいけないことは多いけど、正しい方向へ、正しい手順を踏んで進んでいきたい。自分たちのバスケを確立し、ファンが応援したいと感じることはすべてやる。チームが持つ可能性に良い影響を与えて、過小評価を覆すんだ。それこそがキャリアのこの段階で僕のやりたいことだった」

ファンの支持は得られなかったとしても、シクサーズは優勝候補だった。そこから万年下位のピストンズへの移籍は『都落ち』とも受け取れるが、ハリスの考え方は違う。「NBAで優勝するのは1チームだけ。優勝できなければ失敗、という見方が本当に当てはまるのは前年の優勝チームだけだと僕は思う。僕はピストンズの現在地も、これからどこに向かっていくのかも理解しているつもりだ」

「必要なのは、少しずつでも毎日良くなっていくことだ。それだって簡単ではないけど、僕はこのチームがリーグに良い意味でのサプライズを巻き起こすと信じている。それを続けていけば、大きな何かを成し遂げることだってできる。だから、どうなるか楽しみだ。全員でケミストリーを築き、僕は若い選手たちがそれぞれの可能性を引き出す手助けをする。それはこのチームにとって素晴らしい機会になるはずだ」

ハリスは体調不良でプレシーズン序盤を欠場したものの、後半の3試合には出場し、最初のサンズ戦で22得点を記録。続くウォリアーズ戦とキャバリアーズ戦ではそれぞれ6得点とスタッツには波があったが、効率の良いプレーを作り出し、周囲を巻き込むという点では安定していた。

常に粘り強く戦い、内外のバランス良く賢くプレーする。そうやってハリスはピストンズを引っ張っていくつもりだ。「良い試合もそうでもない試合もあったけど、両方から学べる。僕らはフィジカルが強く、技術もある。あとは自分たちの意志を貫くこと、好守ともコミュニケーションを取ってチームでプレーすることだ。それぞれがどのように補い、お互いを快適にプレーさせるかを話し合っている。でも、全体としては良い感触だよ。このチームが持つエネルギーは誰もが感じ取れるものだと思う。成功を収めるチームが必ず持っている不屈の精神だ」