バスケットボール指導者、ARUのコーチング哲学「バスケで良い習慣を身につける」

2019/04/09
プレーヤー
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ルンゲ春香

文=鈴木健一郎、写真=古後登志夫
新学期が始まり、新たな環境でバスケットボールに取り組む者は数多くいることだろう。同じようにバスケットボールの指導を始める人も多いはず。「少年よ大志を抱け」ではないが、そんな新米指導者は何を目標に日々のコーチングに取り組めばいいのか。愛知県半田市の『ソシオ成岩スポーツクラブ』でバスケットボールのコーチをしている『ARU』ことルンゲ春香に聞いた。「育成世代にかかわることがとても楽しい」と語るARUが大切にしているのは、好きなことを通して『良い習慣』を身につけることだ。

バスケットの理論を学んだら「なるほど!」の連続

小学校の時は、野球が大好きだったので、野球をしながらバスケットボールは楽しくやっていた程度でした。目標を持って本気に取り組んだのは中学校に入ってからでした。

出身が福岡ですので、九州大会、全国大会を目標に一生懸命やっていたのですが、高校までは県大会にも出ることができませんでした。それでも、自分が決めた目標に向かって、やるべきことをやり続け、全国大会でも勝ち続けている樟蔭東女子短大でバスケットボールを学びたいと意志を固め、覚悟を決めて進学しました。そこで出会った恩師の原田茂先生のおかげで、私のバスケットボール人生は大きく変わりました。原田先生のバスケットボール理論は、現在もそうですが、私にとってとても衝撃的なものでした。

高校まで全国大会を目標に、がむしゃらに走って、いろいろなことに挑戦し、一生懸命取り組んでいたのですが、なぜそうなるのだろうとか、なんで同じ頑張りでもさっきはできたのに今はできなかったのだろうとか、常に「なんでだろう」と自分なりに疑問を持ちながら取り組んでいました。

上のレベルになると、やれそうなのに、何でうまく行かないのだろうって思っていたし、そうなると、人からの言葉や自分の中で「努力が足りない」、「クイックネスが遅い」、「身長が低すぎる」……と考えるようになるのですが、限界はないはずだと、「何でできないのか」を知りたいと常に思っていました。

しかし、原田先生の指導を通して理にかなったバスケットボールを学んだ時に、初めて「なるほど!」と思ったのです。短大の2年間は、なるほど!の連続でした。それまでは、何でだろう?と疑問を持ち続けていたことが、すべて繋がって一本の線になったような感じがしたのです。

そこで私は、プレーも考え方も大きく変わり、短大1年生にして全国大会3位となり、大会ベスト5を受賞しました。1年前までは全国大会にも県大会にも出たことがない150cmの選手が、バスケットボールを理解して、それを意識して同じように全力に取り組み続けることで、結果がこんなにも変わるのだと実感しました。理論を知ることで成功する確率が上がるので。原田先生がおっしゃっていた、「理論があるから方法がある、基本があるから応用がある」とは、まさに通りだと、海外でプレーした時に実感しました。もちろん、高校までいろんなことに挑戦し、全力でできる環境で経験できた積み重ねも大きかったです。そのおかげで、原田先生から学ぶ準備ができていたのだと思います。

ルンゲ春香

ただ頑張るだけじゃなく、理に適ったプレーをする

その後は荏原ヴィッキーズ(現在の東京羽田ヴィッキーズ)で2年間プレーした後に、アメリカでバスケットボールとライフスキルを学びたいと渡米し、4年間を過ごしました。

最初の2年間はアリゾナ州で過ごし、短大のセントラルアリゾナカレッジで英語の勉強をしながら練習生としてプレーしていました。夏休みは、ジョージア州のアトランタでセミプロのチームに所属して3カ月間チームメートの家にホームステイして、リーグ戦を経験しました。大学で残りの2年間プレーしたくて、2年間はアリゾナ州でやるべきことを続けていたところ、短大のリンコーチとの出会いや繋がるタイミングも重なって、ネブラスカ州のヘイスティングスカレッジに、スカラシップをいただいて転校し、2年間プレーすることができました。

そこでは2年間、スタートとしてプレーし、カンファレンス優勝、全米トーナメント3位という経験ができました。私は、身長の小さな選手というのは、人の2倍、3倍頑張ることが必要だといつも思っているのですが、そこで大事なのは、一つひとつの練習を理解して目的を持ち、何をどう頑張るかを知ってやり続けることだと思っています。そうやって成功する確率を上げることで、コーチやチームメートからプレーの信頼を得ることができ、身長が低くても、アメリカ人のような身体能力がなくても、スタートとして試合でプレーし続けられたのだと確信しています。

アメリカでの経験の後、その時の出会いや繋がりをきっかけに、ヨーロッパのプロリーグに興味を持ち、調べてみると部活ではなくクラブチームという一貫指導で育成をしているシステムだと知り、そこにすごく興味を持ちました。ワーキングホリデーを使ってドイツのベルリンに渡独し、ベルリンバスケッツという2部のクラブチームに所属して2年間を過ごしました。

そこで感じたのは、バスケットボールの理論は世界共通だということ。バスケが物理である以上、理由があってそうなるから、それを知ってプレーするのと、知らないでプレーするのでは、成功率が変わるし、上達のスピードも全然違うんだなと、バスケットボールってやっぱり楽しいなあとあらためて感じました。今でも学び続けたいし、もっともっと成長し続けたいです。

ルンゲ春香

誰かを指導して、その人がうれしかったら喜びは2倍

指導に興味を持ったのはドイツでプレーしていた時です。たまたま私が所属していた時期に、チームメートにドイツのU17代表に選ばれている子がいました。その選手の取組み方が一生懸命で、試合の中や練習中でアドバイスしたことを純粋に聞いてくれて、それを試合で成功した時には私もうれしいし、その子も私の顔を見て喜んでくれたんです。その時に、人に伝えて喜びが倍になるんだったら、10人だったら10倍かなあと。そう思えるようになって、日本に帰ったら育成に携わるお仕事をやりたい、育成をお手伝いする指導者になりたいなと思いました。

日本に帰国した時に、たまたまご縁と繋がりとタイミングが重なって、愛知県半田市にある、総合型地域スポーツクラブのソシオ成岩スポーツクラブさんからお声がかかり、私が挑戦したかった、一貫指導育成システムのバスケットボールアカデミーを立ち上げる機会をいただきました。

現在8年目となるのですが、3年前に私が理想としていた「3歳から中学生までの一貫指導育成システム」の環境の形が完成し、今は250名の子供たちの成長を、バスケットボールを使って子育てをしている気分で携わらせていただいております。なので、今は喜びが250倍です(笑)。

ルンゲ春香

好きなことで「良い習慣」を身につける

私が運営しているバスケットボールアカデミーは、強化ではなく育成です。人それぞれ役割が必要だと思っています。日本には素晴らしい指導者の方々がたくさんいますので、強化はその方たちがやり続けていくもの、私の役割は子供たちを、好きなスポーツを使って「良い習慣」を身につけるきっかけを与えていけるような育成だと思っています。

そういう習慣が身についてるからこそ、自分で考えて自分のためにやり続けていく力や人間性が育ち、そのベースがあるからこそ、その上は何をやっても成功するのだと思います。日頃の生活から、能力や努力とか関係なく、自分で選択する「やる、やらない」を意識して選び続ける訓練をすることで、良い習慣が自然と身についていきます。例えば、「思ったらすぐに行動するか、しないか」、「目的を持って目標に向かうか、ただなんとなく目標に向かうか」、「思いやりを持って行動するか、しないか」、「自分を信じて行動するか、人と比べて評価するか」など12項目あるのですが、登録する親子には必ず面談をしています。私たちの指導概念である優先順位「①家族の時間 ②勉強 ③バスケ」を理解し、参加していただくようにしています。たくさんの素晴らしい大人たちがいる中の、私は地域の子供たちの子育てを、バスケットボールというスポーツを使ってお手伝いする一人の大人だと思っています。

もちろん私自身も、「良い習慣」を意識して過ごすように心がけています。育成年代にかかわる人達は、大人こそそうであるべきだと思っていますので、私と一緒にアカデミーをやってくれるコーチたちは、本人は気付いていないのですが「良い習慣」を持っているので、それはとても心強いし、頼りになります。尊敬できる人たちと一緒に大好きなお仕事ができることを、とても幸せだと思っています。

最後に、私にとってのやりがい、役割は、育成年代の子供たちにとって、一度身につけたら一生取れない、人生の最大の武器である「良い習慣」を身につけられるように、バスケットボールというツールを使って訓練していけるきっかとなるような環境づくりを目指し、日々挑戦していくことです。そのためにも、自分自身がワクワクすることを見つけ行動し、良い習慣が身につくように意識し続け、人生を全力で楽しんで上手に遊べるような、そして一番はかかわる子供たちに、いろいろな夢や目標を持つきっかけを与えられるような人間になれるように、私自身バスケットボールを通して学び、成長し続けていきたいです。