5分強の出場時間も攻守両面でチームに勢いを与える
10月6日、琉球ゴールデンキングスはホームで三遠ネオフェニックスと対戦。要所の粘り強いディフェンスで82-74と競り勝ち、前日に敗れた雪辱を果たして今シーズン初勝利を挙げた。
第1クォーター、琉球はこのクォーターで3ポイントシュートが7本中5本成功と爆発。さらにケヴェ・アルマ、脇真大の新戦力コンビで合計17得点と積極的なインサイドアタックも光り、33-22と素晴らしいスタートを切る。しかし、琉球は第2クォーターだけで8ターンオーバーとイージーミスを連発。自滅する形でリズムを崩し、46-39とリードを縮められて前半を終える。
後半に入っても琉球は、不用意なターンオーバーが目立ちオフェンスが停滞。第3クォーターの最後には大浦颯太にブザービーターの長距離砲を決められ、3点差まで迫られた。第4クォーターは互いにフィジカルな守備で相手のオフェンスを抑え、僅差の息詰まる展開が続く。そんな中、琉球のヴィック・ローが流れを変えた。3番、4番の両ポジションで起用されているローは3番の時は吉井裕鷹の密着マークに苦しんでいたが、この勝負どころで主に4番でプレーすると、相手のビッグマンに対してスピードのミスマッチを生かして得点を量産。第4クォーターで11得点をマークしたローの爆発によって、琉球が激闘を制した。
琉球の桶谷大ヘッドコーチは「三遠さんに勝てたのはめちゃくちゃでかいです」と、開幕節を1勝1敗で終えた収穫について語る。「(三遠は)ファイナルに行くようなチームで正直、大差で連敗する可能性はありました。そのチームに2試合とも接戦で、今日しっかり勝てたのはこの先に繋がっていく。選手たち、コーチ陣にとって大きな勝利で、チーム一丸になれる素材として大きいです」
指揮官も強調する『チーム一丸』を促進する要素として取り上げたいのが植松義也の奮闘だ。今シーズンの琉球は11名と少ない人数でスタートを切っている。そこにはロスター全員が試合に絡む、文字通りの全員バスケでチーム力を高めていきたい狙いがある。そして、開幕からベンチメンバーを全員起用しているが、それが可能なのは、昨シーズンまで出番の少なかった植松もしっかりと結果を残しているからに尽きる。
開幕節の2試合、植松はともに5分台のプレータイムで、初戦は3ポイントシュート1本成功。さらに2試合目も3ポイントシュート成功に加え、ゴール下で相手ビッグマンに当たり負けせずレイアップをねじ込んだ。さらにディフェンスでは元NBA選手であるデイビッド・ヌワバのアタックを1対1で抑えるなど、特に琉球のペースで進んだ前半において植松の活躍は不可欠だった。
「課題は毎試合見つかっているので、もっと改善してチームに貢献していきたい」
桶谷ヘッドコーチも、このように植松のパフォーマンスを称える。「できることを120%やり切ってくれることはチームにとってプラスになっています。3ポイントは練習中からよく入っていますし、今日はすごいレイアップを決めました。こうして結果が出てくれることで使いやすくなっています」
そして植松は「昨日は負けてしまいましたが、開幕してまず1勝目を挙げられることができてチームとしてより一体感が出て、また次に良い雰囲気に繋げられると思います」と試合を振り返ると、自身のプレーについてこう続ける。
「3ポイントシュートは今、佐々(宜央アソシエイトヘッドコーチ)さんと練習していて、去年まではコーナーでのキャッチ&シュートだったのが、今は動きの中でボールをもらって打つこともやっています。思いっきり打っていこう、と言ってもらえてプレシーズンから狙っているところです。シーズンが始まって2日続けて決められたのは自信に繋がります。また、5分の出場時間の中でもオフェンス、ディフェンスとも課題が見つかったのでもっと改善できるようにしていきたいです」
植松は明治大学を経てB2のライジングゼファー福岡に加入したが、在籍2シーズンで計34試合の出場に留まった。そして2022年夏、琉球に練習生として入団し、シーズン途中にプロ契約を勝ち取り、今シーズンで3年目を迎える。昨シーズンの23試合出場がキャリアハイと、植松は継続的に試合に出ることがなかった。それだけに、開幕節から連続出場とコンスタントに出場できる現在のチャンスを必ずつかみ取りたいと考えている。「5分ですが、プロになって安定してプレータイムをもらえていることはこれまでほとんどなかったです。この機会を得られているのはうれしいですし、課題は毎試合見つかっているので、もっと改善してチームに貢献していきたいです」
ここまで出場機会は少なかった植松だが、過去2シーズンは外国籍選手の欠場で出番を得た時には勝利に貢献するなど、少なからず爪痕を残してきた。琉球はリーグ屈指の強豪であり、出場機会のことだけを考えれば琉球を出る選択をしても驚きはない。
だが、彼は琉球に残った。プレータイムに関しては茨の道を自ら選んだわけだが、その根底にあるのは自分にチャンスを与えてくれた指揮官への感謝がある。「自分のことを練習生としてチームに入れてくれ、そこから(ロスターに)引き上げてくれた桶さんの存在は大きいです。自分の強み、弱みを理解してくれて、今シーズンはプレータイムをくれています。その中で成長できていると実感できていますが、もっと成長して恩返しをできたらという気持ちで、今シーズンもキングスで戦いたいと思いました」
まだ、シーズンは始まったばかりだが、指揮官は植松のスタッツ以外での献身性も評価している。「短いプレータイムの中でも集中力を切らさずにいつでも試合に出られる状態でいてくれるメンタリティーを持っています。チームとして勝者であるために必要な存在としても素晴らしいです」
琉球が今シーズンの大きなテーマに掲げている全員バスケットボールを継続し、チームの一体感を高めていくためには、例え5分だとしても植松が継続的にコートに立って爪痕を残し続けることは大きな意味を持つ。プロキャリアで大きな飛躍のチャンスを迎えている、彼のこれからが楽しみになる開幕節となった。
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