ナゲッツを離れ、自分の持ち味を生かす環境に恵まれず
ラプターズのブルース・ブラウンは右膝の関節鏡視下手術を受け、3週間後の再検査で復帰の時期が決まる。回復が順調に進んだとしても開幕には間に合わないだろう。
ブラウンはキャリア7年目を迎える28歳。2巡目指名されたピストンズからネッツへと移り、精神的に不安定な時期にありコンスタントにプレーできなかったカイリー・アービングに続く2番手のポイントガードとして評価を勝ち取り、キャリア5年目の2022-23シーズンにナゲッツのシックスマンとして優勝に貢献する大きな働きを見せた。
ブラウンは大学まではフォワードでプレーしていたが、身長が2mに満たない自分がNBAでやっていくためにガードへと転向した。プレーメークを学ぶのに苦労した分だけドラフト時点での評価を下げたが、ガードでありながらフォワードのようなリムアタックの力強さは彼の武器となった。ナゲッツではニコラ・ヨキッチのプレーメークにより『常に誰かがフリー』になる。コートを幅広く動き周り、空いたスペースに見逃さず飛び込んでパスを呼び込み、そのままシュートを決めきるブラウンの能力はナゲッツのプレースタイルに見事にハマった。
ただ、ナゲッツには彼を引き留めるだけのサラリーキャップの空きがなかった。ネッツで470万ドル(約7億円)、ナゲッツ660万ドル(約10億円)しかもらっていなかった彼は、単にブレイクを果たしただけでなく優勝のキーマンとしてフリーエージェントとなり、昨年オフに2年4500万ドル(約68億円)の契約を勝ち取る。彼が抜けたことでナゲッツが苦戦を強いられたことで、ブラウンの価値は後々まで語られることとなった。
それでも、自分に合った環境を離れる代償も大きい。ペイサーズのスピーディーなバスケとの相性は良かったが、数か月後にはパスカル・シアカムのトレードでラプターズへと送られることに。ラプターズは主力を次々と放出したところで勝つ意欲に乏しく、やっているバスケも定まらない中で、ブラウンの持ち味は生かされないままシーズンが終わった。
ブラウンがペイサーズと結んだ2年契約の2年目、つまり今シーズンの2300万ドル(約35億円)はチームオプション。ラプターズはこれを破棄せずブラウンを残留させた。冷え切った今オフの市場に出ずに済んだのは幸いだったが、スコッティ・バーンズを軸とする新たなチームのタイムラインに合わないブラウンが長期的な構想に入っているかどうかは微妙で、今シーズンも機会があればトレードの駒として使われ、そうでなくとも来年オフには契約満了を迎える。ブラウンとしては今シーズンに再評価を勝ち取らなければ厳しい状況が待ち受けることになるが、ケガからスタートすることになった。
ナゲッツ時代、ブラウンは「僕はいつだって自分を証明しなきゃいけなかった。大学でさえ僕を欲しいチームは多くなかった。評価されない怒りを力に変えてきた」と語っている。大きな年俸を一度勝ち取ったことで彼のハングリー精神は薄れたのだろうか? そうでなければ、チームが再建中であっても、ケガで出遅れたとしても、彼は『自分を証明する』に十分なパフォーマンスを見せるはずだ。