ガーション・ヤブセレ

試合ごとに調子を上げるフランス代表を引っ張る活躍

ガーション・ヤブセレは2016年のNBAドラフトで1巡目16位でセルティックスに指名され、その翌年にボストンへやって来た。それでも出場は1年目が33試合、2年目が41試合に留まり、出場6.6分、2.3得点という数字しか残せなかった。

この時期のセルティックスはカイリー・アービングがエースで、ジェイレン・ブラウンとジェイソン・テイタムがまだ若手だったチームの転換期。ヤブセレのポテンシャルは見落とされ、Gリーグが主戦場となっており、あのままセルティックスに残っていても彼のキャリアがプラスに転じることはなかっただろう。ヤブセレは4年契約の半分が過ぎたところでこの環境に見切りをつけ、NBAデビュー前にプレーしていた中国に戻り、フランスリーグを経て2021年からスペインのレアル・マドリーで活躍している。

そのヤブセレが再評価されたのが、今回のパリオリンピックだった。ビクター・ウェンバニャマに次ぐフランス代表のセカンドオプションとなった彼は、平均14.0得点と期待に応えるパフォーマンスを見せた。グループリーグでは出場機会が少なかったが、決勝トーナメントに入るとカナダ戦で22得点、ドイツ戦で17得点、アメリカ戦で20得点を上げ、試合をこなすごとに調子を上げるフランス代表に大きく貢献。レブロン・ジェームズの上から叩き込んだポスタライズダンクは、彼の爆発力がNBAでも通用することを端的に示すプレーだった。

そして今、彼はNBA再挑戦を視野に入れている。決勝が終わった数時間後、彼はSNSに「2度目のチャンスを待っていた。準備万端だ」と投稿した。攻守両面でチームに貢献できるフォワードを必要とするチームにとって、ヤブセレは貴重な戦力になるだろう。

問題はレアル・マドリーとの契約があと1年残っており、違約金が250万ドル(約3億8000万円)に設定されていること。NBAのチームにとっては些細な金額だが、NBAのルールで国際間移籍にチームが払うことのできるのは85万ドルまで。残りは選手個人が負担しなければならない。

NBAではルーキー契約を2年経験しただけのヤブセレには、それなりに大きな金額だ。それを考慮すると、『トレーニングキャンプに招待し、使えそうなら契約する』ようなチームのためにレアル・マドリーとの契約を破棄するわけにはいかない。少なくとも1年、できれば2年を保証する契約を彼に提示するチームが現れなければ、彼にとってNBA再挑戦は大きなリスクのある賭けとなる。

まだオリンピックが終わったばかりで、クラブとヤブセレが交渉し、落としどころを探る時間はある。レアル・マドリーではすでに国内リーグを2度、ユーロリーグ優勝を1度経験しているヤブセレにとって、やはりNBAは魅力的な舞台なのだろう。

「準備万端だ」というヤブセレのメッセージに応えるチームは出てくるのか。彼にどんな地位と役割を与えるのか。シーズンオフも半ばを過ぎた今になって、ヤブセレは一躍注目株となっている。