PJ・ワシントン

PJ・ワシントンのフリースローでシリーズ突破を決める

サンダーはプレーオフの経験に乏しい若手中心のチームだが、第1シードに見合ったシーズンを過ごしてきた。プレーオフのファーストラウンドでペリカンズを難なくスウィープしたのも、その実力あってこその成果だ。プレーオフで試合を重ねるごとに経験を積むチームは、ここでマーベリックスに勝っていれば自信をさらに増し、カンファレンスファイナルのさらに先まで行けたかもしれない。

しかし、若いチームの夢の実現をマブスは先延ばしにした。3勝2敗で迎えたホームでの第6戦、レジェンドのダーク・ノビツキーを始めとする大観衆に後押しされたマブスは、最大17点のビハインドを背負っても集中を切らすことなく戦い続けた。前半はターンオーバー11回、ミスを恐れてオフェンスから大胆さが消え、ディフェンスではフィールドゴール13本中8本を決めて21得点のシェイ・ギルジャス・アレクサンダーを止める術がなく、勝ち筋を見いだせそうになかった。

ヘッドコーチのジェイソン・キッドがハーフタイムに選手たちに説いたのは、ボールをもっと大切に扱うこと、それと同時にオフェンスのスピードを上げること、そして選手同士でより信頼してプレーすることだった。そしてルカ・ドンチッチはチームメートにこう宣言した。「オクラホマシティーにもう一度戻るつもりはない」

カイリー・アービングは後半を迎える時の心境をこう振り返る。「勝てば終わりの試合で大きく引き離されるのは望ましい状況じゃないけど、そこが自分たちの居場所ならやるしかない。シーズンを通してやってきたように、ここから巻き返すんだと考えていた」。前半のカイリーは得点わずか4。しかし後半にはチームトップの18得点を挙げ、マブスの反撃を引っ張った。

ルカ・ドンチッチは29得点10リバウンド10アシストのトリプル・ダブルを記録。だが、この試合で勝利の立役者となったのはドンチッチでもカイリーでもなかった。『チーム一丸』とはまさにこのこと。デリック・ジョーンズJr.は後半開始2分弱で8得点を挙げて反撃の機運を作り、残り1分にはカイリーのシュートがブロックされたこぼれ球を拾い、ショットクロックがないところでタフショットをねじ込んだ。デレック・ライブリー二世は前半唯一マブスで気を吐いた選手で、後半もフル回転。12得点15リバウンド、コートに立っていた時間の得失点差は両チームで最高の+26だった。

そして極め付けはPJ・ワシントンだ。9得点5リバウンド2アシストとスタッツは目立たないが、彼の9得点はすべて第4クォーターに決めたもの。残り2分、ルーゲンツ・ドートとシェイのダブルチームを受けたドンチッチからのパスを受け、逆転の3ポイントシュートを決めた。シェイからチェット・ホルムグレンのアリウープで逆転を許した残り20秒、ドートを押し込むもシェイと挟まれたドンチッチがボールをワシントンに託す。彼はすぐにシュートを放ち、これを防ごうしたシェイからファウルを引き出した。

土壇場で得たスリーショット。ワシントンは最初の2本を落ち着いて決めて117-116と逆転すると、3本目をわざと外した。タイムアウトを使い切っていたサンダーに反撃の時間は残っておらず、これで試合終了。指揮官ジェイソン・キッドは「PJのガッツはすごい。最高のプレーとして語り継がれることはないかもしれないが、最後のフリースローをちゃんと外したのはビッグプレーだった」と語る。

「ルカかカイリーがゲームウィナーを決めたわけじゃない。これはチーム内の信頼の証だ。ルカがボールを持ち、ペイントエリアに入ればディフェンスは崩れる。そしてルカはPJを信頼した」と指揮官キッドはうれしそうに語る。ドンチッチも「僕らはいつも一緒にいて、ポジティブなエネルギーを保っている。今日はそれが最高の形で出たね」とうれしそうだった。

マブスは4勝2敗でカンファレンスファイナル進出を決め、ナゲッツとティンバーウルブズの勝者と対戦する。