「チームでボールムーブ、クリエイトをして期待の高いシュートを最後まで選び続ける」

――日本はどうしてもサイズ、フィジカルで相手より劣ります。そのマイナス面を少しでも補うためにサイズアップも必要という考えでしょうか。そこは180cmの馬瓜エブリン選手を5番で起用したようなスモールラインナップを貫くのか、どんな基本戦術をイメージしていますか。

欧州視察の際、OQTを見たスペインのコーチから、「日本はなんか違うよね。強さが違う」と言われました。外からもそういうモノなんだと、手応えとして持てています。だから大きい選手を入れる、入れないではなく、一番はチームのコンセプトに合う選手かどうか、コンセプトを体現できるかどうかが選手選考の一番のポイントになります。

――オリンピックでは相手もOQTを見て日本の長所を潰してくることが想定されます。その中で、さらに相手の予想を上回る違和感を与えるには何が必要ですか。

『走り勝つシューター軍団』のコンセプトは変わらないです。ただ、走れなくなる時、逆に相手に走られてしまう時はどんな状況か。相手の妨害で自分たちのコンセプトが実現できなくなる時はどういう場面なのか、そういう課題を潰していくための整理をしています。あとは、いかに総力戦でプレーできるのか。それはメンバーチェンジをしながら全員で戦っていくという話しだけでないです。一つのプレーに対し、チームでボールムーブ、クリエイトをして期待値の高いシュートを最後まで選び続ける。ワンプレー毎にチームで戦えるように強化をしていきたいです。

今までもこれを目指して取り組んできましたが、先ほども触れたように最後に習慣的なところでやりきれない面があると行き着いた感はあります。これからは、この習慣づけるところにフォーカスする。各選手に代表チームのやり方が習慣となってオリンピックに臨めるようになってもらうことが大事になってきます。

――パリに向けては習慣づけといったチーム作りと共に、12名に絞る選考作業も大切になっていきます。各選手にとってオリンピックは絶対に譲れない舞台で、強い思いを持って合宿に臨んでいます。その中でコンセプトを体現することに加え、何か重要なポイントはありますか。

オリンピックは特別な大会でみんな行きたい。その思いの強さはリオオリンピックの時から代表チームに関わっているので見てきました。長期に渡る合宿においてメンタル面のケアは必要です。そして、これまでのオリンピックを見ても、ブレない選手が12名に残っていると思います。では、ブレない選手はなんでブレないのか考えると、自分のことだけでなくチームのためにプレーできるからだと思います。選手がそういうマインドでプレーできるようにサポートしていきたいです。

「やり方次第で、世界最強の相手にもチャンスがあることを示せたら」

――12名を選ぶ時、選手から見てもこのコンセプトで戦うからこの12名になったんだと納得できる、そういう分かりやすさは重要だと思いますか。

そちらの方向に行くと、軸がなんかボヤけてしまうと思っています。私が選手、チームに対して持つべき1番の誠実さは、試合に勝つには何が最善なのか。そこから逆算して12名を選択すること。これは私の信念です。この選択が1番勝つ確率が高いと私は信じているので、一緒に戦ってくださいというのが私の考えです。

――東京オリンピックでは一大ムーブメントを起こしました。その中で今回のパリオリンピックではどういうインパクトを与えたいと考えていますか。

勝って、バスケット界に恩返しがしたい。そこが一番です。具体的に言うと、あんな風にすれば世界と戦える。こうして頑張ることで世界が広がっていくことを示す、と言ったらおこがましいですが、その可能性を示せるチャンスだと思っています。この意気込みに誇りを持って戦いたいです。

――パリは大きな集大成となります。ヘッドコーチとなってから、ここまでの2年半の道のりは、あっという間でしたか。

あっという間ということはないです。必死にもがいた感じです。なんとかバスケット界を前に進めたい、 選手の成長に貢献したい。そのために何ができるか、本当にずっと考えてきました。ずっと緊張感のある日々を過ごしてきました。

――就任直後から今に至るまで、コーチングの手法に関して何か変化がありましたか。

いろいろとあります。その中でも選手の成長を支えて輝かせていく、その理念は変わらないですが、そこに到達するまでの登り方には選手それぞれの個性があります。その個性に応じて、それぞれに合ったやり方でサポートをしていく必要があります。『ワクワクは最強』、とよく言っていますが、私がそういうメッセージを発しなくても、個々の内側から湧いてくるようにしていきたい。挑戦することの豊かさ、価値を選手たちが感じて誇りを持てるように導いていき、支えていきたい。そこは1つの変化だと思います。

――最後にオリンピック初戦、アメリカ戦に向けてどんな風にチームを作り上げていきたいのか教えてください。

強敵で、日本が最高のパフォーマンスをしても勝てるかは分からないです。この現状を踏まえた上で、どうやったら勝てるかをしっかりイメージできて、それをチームでやり抜けるビジョンを持って戦えるようにすることを、アメリカに勝つための第一歩にしたいです。10年前の自分だったら、難敵を倒すためにはなんか魔法があるような気がしていました。でも、そうではなくて自分たちの強みを最大限に発揮し、勝てるところでしっかりと勝つ。基本的なことをやり抜くことが鍵になると、これまでの学びから感じています。やり方次第で、世界最強の相手にもチャンスがあることを示せたらと思います。