文・写真=小永吉陽子

オフェンスの方向性は示せたが、ディフェンスは課題が山積

今年11月からのワールドカップ予選に備えたシミュレーションとなった国際強化試合。イランとの2試合を1勝1敗で終えた選手たちからは反省の弁が次々に出た。

「イランが若いメンバーであることを考えれば、2連勝は絶対条件でした。イランはフィジカルがとても強く、日本が一番苦手としているチーム。こういう機会を無駄にせずに対戦して克服していくしかない」。そう語るのは比江島慎だ。

イランは世代交代を進めており、2月上旬に終了した西アジア選手権に出場した6人に加え、U-18代表の3選手を含む平均21.2歳の若い布陣で札幌に乗り込んできた。しかも、長時間移動と時差のハンデがあったことを考慮すれば、『ホーム』の日本としては反省が出るのは当然のことだ。

オフェンスにおいては、ルカ・パヴィチェヴィッチ暫定ヘッドコーチが導入するピック&ロールからコートを広く使い、シュートチャンスを作り出す方向性は示した。たとえパヴィチェヴィッチHCが東アジア選手権までの暫定ヘッドコーチだとしても、これまでスクリーンプレーを苦手としてきた日本にとっては必要な技術であり、その取り組みは正しい。また馬場雄大(筑波大3年)のような将来有望な若手を起用し、試合経験を積ませたことはこの先につながる。

しかしディフェンスやプレーの強度に目を移せば、パヴィチェヴィッチHCが掲げる『インテンシティ』(激しさ)は発揮できなかった。特に2戦目はイランに簡単に走られてしまい、日本がやりたいピック&ロールにおいても、逆にイランのほうが巧みに仕掛けてくるなど課題は山積している。

パヴィチェヴィッチHCは2試合終えての収穫と課題を次のように挙げた。

「試合前2日間の練習だけで、流れるようなバスケットができるとは思わないが、ディフェンスではもっと力を発揮できたはずで、そこは反省点。今回は12人の選手しか起用できなかったが、出られなかった選手に実力がないということではない。競った試合で10人以上を起用するのは難しい。選手は皆、モチベーションが高く、真摯に取り組んでくれた。今後の課題はディフェンスを40分間通して一貫性あるものにすることと、オフェンスのバリエーションを増やしていくこと」

日本のスタンダードを上げるのは『Bリーグ』を戦う日常から

昨年7月のオリンピック最終予選(以下OQT)でラトビアとチェコに惨敗した日本は「世界基準でのチーム作りが急務」という理由で、強豪セルビアからルカ・パヴィチェヴィッチをテクニカルアドバイザーとして招聘し、新任を探しながら、現在は暫定で指揮を託している。前任の長谷川健志ヘッドコーチについては、ハードワークというモットーの下でアジアのベスト4まで導いたことを評価した上で『勇退』扱いでの退任という形を取った。

日本はこれまでも指揮官が変わり、システムが変わるたびに、チーム作りに時間を要する『悪しき伝統』を繰り返してきたが、今回は東野智弥技術委員長が言うように、「この短期間でピック&ロールを表現できるようになっているので、今までより早くチーム作りが進んでいる」ことは間違いない。その上で、今後のチーム作りのカギをパヴィチェヴィッチHCは「いかに日本のスタンダード(基準値)を上げられるか」だと語る。

日本のスタンダードを上げることは、Bリーグを設立する上で掲げたミッションでもある。果たして現状はどうなのだろうか。

イランを例にとれば、若手であってもパスは強くて速く、リバウンドに跳び込む人数も多く、14番のアルサラン・カーゼミは199㎝の身長ながら、リバウンドを取って自らボールをプッシュし、密集地帯にも切れ込んでフィニッシュできるパワフルさが目立った。13番のモハマド・ジャムシディは一試合を通して攻め続けるタフネスさを持つ。そしてシーズン中の来日でも、長距離移動のあとでも、2戦目には持ち直せるスタミナを発揮した。これがアジアの強豪、イランのスタンダードだ。

日本代表がチーム作りに時間を要することについて比江島は、「自チームと代表チームのスタイルに違いがある」ことを理由に挙げる。その意見はもっともであり、シーホース三河を例に取れば、ポストにいる桜木ジェイアールにボールを入れることが起点となるし、他のチームでもフィニッシュやリバウンドを外国人選手に任せることは多い。外国人選手依存からの脱却、または外国人選手と日本人選手がマッチアップできる仕組み作りが急務であることは、イランのスタンダードを見ても分かる通りだ。

日常の強化であるBリーグについて、パヴィチェヴィッチHCはこう言及する。

「日本人選手にサイズがないことを嘆くより、もっと一人ひとりがアグレッシブさやスピードを出し、バスケットボールの知識を得ることを心がけてほしい。ゲームの本質を捉えながら成長していくことが大事だ」

若手の経験値を上げるイラン、では日本の進むべき道は?

最後にイランの現状について記し、日本のスタンダードを上げるために必要なことを考察したい。

イランが2戦目に勝利した要因は、選手起用を変えたからだ。初戦は「移動に30時間もかかった」というコンディションの悪さに加え、主力を使い続けてスタミナ切れを起こした。その反省から、2戦目はU-18の3選手を早い時間帯で起用して主力を休ませたことが功を奏し、トランジションとリバウンド面で優位に立てたことで勝利をつかんだ。

イランのメッヘラン・ハタミHCに来日の目的を聞くと、「イラン協会としては、アジアカップやワールドカップのような大きな国際大会では最強チームを作るが、他の大会は若い選手に海外経験を積ませることを狙いとしている」との答えが返ってきた。最終的には、今回経験を積んだ若手の他に、218㎝のハメド・ハダディ(31歳)を筆頭に、ベテラン数人が加わることで、さらに強力なチームを目指すことになるだろう。

こうしたライバル国の強化方針を知る一方で、対戦国も日本に対しての印象は変わってきている。今回のイラン戦にしろ、11月の台湾遠征にしろ、両国のスタッフは「リーグを中断して強化することは国を挙げてやらなければできない」と語り、早くから開始した日本の準備については驚きの声を上げている。

日本は他国に比べて身体的ハンデがあり、チーム形成に時間がかかるという危機感から予行練習をしている。だとすれば、今後もシーズン中に数日間の代表活動を設けることを日本のスタンダードにしていけばいいのではないだろうか。

シーズン中に代表活動を行うことはとてもハードだ。しかし続けていくことで、スタミナや技術の基準、そして選手の意識は必ず上がっていく。再開するBリーグにおいて、シーズン中の代表活動がハードであることを知る日の丸戦士たちから、日本のスタンダードを上げるアグレッシブな戦いをしてほしいものだ。