篠山竜青

放った6本のシュートをすべて沈めてアシストも7本成功、ミラクルなブザービーターも

川崎ブレイブサンダースは4月17日、アウェーでファイティングイーグルス名古屋と対戦し、95-78と完勝を収めた。川崎はこれで10日のサンロッカーズ渋谷戦以降4連勝。中地区、ワイルドカードともに順位を上げ、『レギュラーシーズン残り6試合にすべて勝てば中地区2位でチャンピオンシップ(CS)出場』という位置までこぎつけた。

川崎の関係者は、かねてよりこのFE名古屋戦を重要な一戦とにらんでいた。FE名古屋は同地区で星を争う相手で、ここまでの対戦成績は1勝2敗。勝利して2勝2敗のタイに持ち込んだ上で、得失点差で上位に立たなければいけないからだ。

選手たちに課せられたミッションは『12点差以上で勝利』。しかし佐藤賢次ヘッドコーチは試合前、「目の前のことに集中してほしい」との思惑からこの点数を選手たちに強調しなかったと明かした。

指揮官の一手は良い方向に転がった。川崎は試合序盤から強固なディフェンスでFE名古屋の得点を封じ、ミスマッチになったニック・ファジーカスの1対1で大きなアドバンテージを握る。そして、第1クォーター開始約6分、6-5という展開でコートに立った篠山竜青のゲームメイクで一気に流れをつかみ、44-27と大量リードで前半を終えることに成功した。

前半の篠山のパフォーマンスは、日本代表として活躍していた2017年ごろを彷彿とさせ、『強豪・川崎』が備えていた強さを鮮やかに蘇らせるものだった。緩急を駆使したペイントアタックとそこからのシュート、ファジーカスや外国籍選手たちへの鋭いアシスト。篠山は前半のゲームメイクの狙いについて次のように解説した。

「とにかく相手の弱いところ、強いところを把握しながらボールをプッシュして、自分もペイントに積極的にアタックできていたかなと思います。特に突きたかったのは、(センターのショーン・)オマラ選手の足。横の動きが(ジェレミー・)ジョーンズ選手などに比べてスローなので、オマラ選手をスクリーナーに引き寄せて、狙い撃ちしました。あとは、ロスコ(・アレン)が出てたらロスコの機動力を生かして自分とロスコを起点にフローを作ったり、ガード陣のディフェンスも加味しながらオフェンスを組み立てました」

第3クォーター終了間際には敵陣深い位置からのミラクルブザービーターも沈め、終わってみれば、放った6本のシュート(フリースローを含む)をすべて沈めての12得点7アシスト0ターンオーバー。後半は得失点差を取り返さんとするFE名古屋の猛攻に防戦気味になったものの、『12点差以上での勝利』という目標は達成した。「FEさんの思い切ったスリーが当たりだしてちょっとバタバタしましたけど、しっかり跳ね返せてよかったと思います」と試合を振り返った。

篠山竜青

チームの一体感に貢献しつつも「そこだけに理想を求めてはいけない」

レギュラーシーズン終盤、CSに向けて重要な時期にもかかわらず、川崎はどん底の状態に陥っていた。格下のチーム相手に星を落とし、天皇杯セミファイナルの琉球ゴールデンキングス戦も大差で敗れた。千葉ジェッツに連敗し、翌節の広島ドラゴンフライズにも連敗したあと、佐藤ヘッドコーチは「選手たちに信頼関係がなくなっているように見えた」と言い、篠山も次のように話していた。

「こういう状況になると、やっぱりベクトルが外に向きがちにはなってくると思います。 結果が出ていないチームはそうなるもんだと思うんで。ただこれは『もう1回信頼関係を取り戻して頑張ろう』っていう言葉1つで解決する話ではないと思います。今なぜこういう現状にあるのかっていうところを紐解いていったら、理由は単純な1つではないと思うんで。そこに関してはもう…なんて言ったらいいですかね。ちょっとずつちょっとずつ、小さな成功体験を作りながらやっていくしかないのかなと思いますけどね」

成功体験を得るチャンスはすぐに訪れた。3日後に行われたサンロッカーズ渋谷戦、川崎は激しいディフェンスとトーマス・ウィンブッシュの果敢なアタックを足がかりに80-52と大勝。チームは一気に息を吹き返し、続く信州ブレイブウォリアーズ戦もSR渋谷戦で整理されたディフェンスを軸に連勝を果たした。

半ばセルフィッシュにボールを持つことを躊躇していたウィンブッシュに「チームのためにお前のエゴが必要」「アタックし続けろ」と声をかけて積極性を蘇らせた篠山は、パフォーマンスを落としていたアレンや、先発メンバーながらボールを扱う時間が多くなかった野﨑零也らにもこまめに声をかけ、その背中を押した。他選手たちのコミュニケーションも増えていき、このFE名古屋戦でもベンチメンバーは試合開始直後から立ち上がってコートの仲間たちを励ました。

「もうやるしかないという状況なので、何かがあったらちゃんとお互いの目を見て話す雰囲気が一人ひとりに生まれていると感じます。竜青がキャプテンらしく色々声をかけてくれていることももちろん知っています。本当に助かっていますし、感謝しています」

指揮官がこう話したことを受け、疲労困憊の様子で取材に応じた篠山にもチームの一体感について尋ねた。すると少し意外な答えが帰ってきた。

「一体感が出れば勝ちに繋がるとは思っていないと言いますか。岡田武史さん(サッカー日本代表元監督、現FC今治代表取締役会長)が、一体感ばかり求めているとただの仲良しクラブになるから、そこだけに理想を求めてはいけないと言っていて、僕もそう感じます。勝って、結果が出て、成功体験が積み重なってはきましたけど」

奇跡的なシナリオを生み出すのもスポーツだが、その実現をささいな事象であっさりひっくり返すのもまたスポーツだ。まずはあと6勝。そしてさらに先へ——。篠山があくまで冷静に大局を見つめ、勝利のために必要なものを必死で追い求めていることを実感させられる言葉だった。

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