ディフェンスの強度アップから積み上がった白星
「自信にしながら、過信にならずに……」
第20節から第25節にかけて怒涛の9連勝を果たし、第26節もアルバルク東京を相手に1ゴール差と肉薄。チャンピオンシップ進出に向けて好位置につけている群馬クレインサンダーズの水野宏太ヘッドコーチは、インタビュー中に何度も上記の言葉を口にした。
コー・フリッピン、並里成、辻直人ら新戦力を補強をして臨んだ今シーズンだったが、11月の中断期間まで5勝9敗と負け越し。水野ヘッドコーチは序盤戦について「トレイ・ジョーンズとベン・ベンティルが同じ時期にケガをして、チーム作りが難しかったです。その中でも残っている選手が、どうにか状況を打開しようとし続けてくれたことで傷口が大きく広がらず、取り返しがつかないところまで行くことにはなりませんでした」と振り返る。
2人が戻ってきた中断期間明けの12月は、6勝6敗と勝率5割まで戦績を戻したものの、望むような結果からは大きくかけ離れていた。「2人が戻ってきてもコンディションや連携の部分がまだまだで、勝てる試合もあれば負けてしまうこともありました」と話すとおり、上位チームのA東京に勝つこともあれば、後半に失速する試合も多くあり、不安定な印象を残した。
そのような状況からの転機になったのが、年明けに行われた第16節の島根スサノオマジック戦。第1戦は90-83、第2戦は84-96で星を分けたものの、「チームとしてプレーできる兆しが見えました。ディフェンスの強度を上げることができましたし、自分たちのバスケに原点回帰できました」と手応えを得られるシリーズとなった。
ディフェンスの強度を上げるという点で、目に見える変化を呼び込んだのがフリッピンの先発ポイントガード起用だ。水野ヘッドコーチはその経緯について次のように説明する。「加入の段階では、コーには2番(シューティングガード)でプレーしてほしいという思いがありました。とは言え、あの時期に必要だったのは相手に簡単に攻めさせないためのディフェンスのトーンセットだとも感じていたので、打てる1つの手として相手のハンドラーやエースを守れるコーを序盤から使うという決断をしました」
ディフェンスによってチームの戦績が上向く中、1月20日、21日に行われた京都ハンナリーズ戦以降は「ボールを動かしながら、その中でアグレッシブにアタックすることができようになってきました」と、オフェンスの手応えも感じるようになったという。
「選手たちには、コンセプトにしているスピード、フロー、スクリーン、スペースを大切にした上で、各々の良さを理解して生かす戦い方をしていこうと話しています。ドライブからボールを回した後に外のシュートだけでなく、セカンドドライブといった形で再度ペイントに侵入するなど、ボールと人の流れがうまくできている状況です」
「我慢できないチーム」から「我慢できるチーム」への変貌
当初からのコンセプト通りに攻守ともに遂行できるようになり、年明けは13勝3敗。大きく勝ち越して、一気にCS出場権争いに加わった。水野ヘッドコーチは昨シーズン、敗戦後に「我慢できなかった」という言葉をよく口にしていたが、現状は「我慢ができるチーム」へ変貌を遂げている。
その要因について、水野ヘッドコーチは2つの変化を挙げた。まずは精神面。「あわてなくなったのが、チームとして強くなった部分です。負けているところから、しっかりカムバックして勝つという試合が増え、前半ビハインドでも逆転できるという自信が選手もスタッフもあります」
もう1つはやはりディフェンス強度の向上だ。「シーズンを積み重ね、個人、チームともにディフェンスを激しく遂行できるようになりました。これまではリードされると無理に返そうとしたり、ギャンブル的なディフェンスをしたりしていましたが、少し離されても返せるという感覚がチームで持てています」
さらに、コミュニケーションの部分でもチームがより良くなっていると評価している。「2月のバイウィークあたりから、うまくいかないときにリセットする方法を考えていこうと話していました。最近はハドルの回数も増えて、タイムアウトやハーフタイムでも、現状からより良くするためにどうしたらいいかという会話が出てきています」
水野ヘッドコーチはさらに言葉を進める。「もともと、自分たちが感じている可能性は高いところにありましたが、結果が伴ってきて、お互いをより信頼し合えるようになったのは大きいと思います。今のBリーグではどのチームであっても勝つことは簡単ではないので、相手の順位が自分たちの連勝に影響しているとは考えていません。内容がついてきているから勝っている。素直にチームとしての成長と評価しています」
その話ぶりからはチームの手応えや良い状況が伝わってきた。しかし指揮官は、あくまでシーズン終盤戦に向けて兜の緒を締める構えでいる。
「このチームで選手も僕もまだ何も成し遂げていません。連勝していることはいいことですが、これから起こることとは切り離して考えていかなければならないです。自信を持ちながら、良い経験を積み上げていくことが求められます」(後編に続く)