「誰かに頼るのではなく自分自身がやる」
最初に目を引いたのは、その見慣れない名字だった。
読み方は「おさかべ」。筆者の出身地である北海道には長万部という難読地名があるが、その町とどこか似た響きだなというのが率直な感想だ(ちなみに「おしゃまんべ」と読む)。
そんな名字の話題から取材を始めると、「よく言われます」と小酒部泰暉は笑ってくれた。日本全国で見ると、珍しい名字である「小酒部」さんは、ほとんどが神奈川県在住のようである。彼自身、神奈川の最西端に位置する山北町出身だ。
「親戚以外でもたまにいますけど、同じ漢字ではなかなか見ないですね。親戚と言っても、父親の家族くらいしかいないと思います」
もう一つ目を引いたのが、その経歴だった。彼は高校までを地元の公立校で過ごしている。神奈川県立山北高校での最高成績は県大会2回戦。県選抜の経験もなく、エリート街道とは無縁だった。いわゆる「埋もれ続けてきた存在」で、中高時代からトップレベルで活躍した選手がプロになっていくことの多いBリーガーにおいては珍しいキャリアである。
神奈川大学に進学し、関東リーグで頭角を現したことが転換期となり、3年次在学中の2019年12月にアルバルク東京の特別指定選手となる。自ら道を切り開いていった若武者は順調にキャリアを重ね、チーム在籍5年目。25歳となった。
今では自分が若手という意識もない。A東京に10シーズン在籍していた田中大貴がチームを離れた影響もあり、生え抜きの一人として勝敗の責任も背負い始めている。「大貴さんという大黒柱が抜けて、ウイングを引っ張っていかなければならないという気持ちが芽生えています。負けている時も、誰かに頼るのではなく自分自身がやる。そういう気持ちの部分は大事にしています。試合に出させてもらっているからこそ、そういう責任感も芽生えているのだと思います」
身長187cmのシューティングガード。抜群の身体能力とジャンプ力を生かしたダイナミックなプレーを持ち味としている。ドライブからの得点だけではなく、3ポイントシュートも武器だ。ただ近年はオフェンスのみならず、ディフェンスの評価も高めつつある。「エースキラー」と評されることもしばしば。コートでは冷静だが、ディフェンスでもっとも大事にしているのは気持ちの部分だと話す。
「1on1のところは、絶対にやられちゃいけないという気持ちを一番持っていると思います。その中でチームディフェンスでやるべきことを徹底する。5人がそれをできていれば、守れると思っています。それを前提として1on1のディフェンスがあるので、そこは大事にしているところです」
勝敗のカギを握る富樫とのマッチアップ
今年1月の千葉ジェッツ戦、小酒部がマッチアップしたのは富樫勇樹だった。試合は激闘の末、74-75の1点差で敗れている。しかし試合後のデイニアス・アドマイティスヘッドコーチは、富樫を苦しめた小酒部のディフェンス力を高く評価するコメントを残した。
小酒部自身も、気持ちの入ったディフェンスで渡り合った感触と敗戦の悔しさが同居した試合だったと振り返る。「手応えはありましたが、負けてしまったら意味がないとも思っています。ただ、ああいうレベルの選手とやるのは楽しみだし、楽しいですね」
3月23日、24日。A東京はホームで千葉Jと再び対戦する。相手は東アジアスーパーリーグと天皇杯を制したばかり。難敵であるのはいうまでもない。「アスレティックなプレーヤーも増えて、トランジションが得意なチームだと思います。でも、相手のリズムでやらせなければ、ウチのバスケットができる試合だと思っています」
千葉Jのリズムを作るのは富樫だ。「3ポイントがあるし、1on1が一番厄介だと思います」と話す小酒部が彼をどう封じるかは、このゲームの見どころと言える。
チケットはすでに両日完売するなどファンの注目度も高い。何より、東地区の優勝を争う重要なゲームとなる。小酒部は必勝を誓った。「前回負けているので、絶対に勝ちに行きます。自分たちの力もそうですけど、ファンのみなさんの声援が一緒になって後押ししてくれると信じています」
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