ドリュー・ホリデー

「相応しい立ち位置にいさせてあげたかった」

ドリュー・ホリデーは激動の夏を過ごした。彼は2020年オフに加入し、NBA優勝を勝ち取ったバックスに骨を埋めるつもりだったが、デイミアン・リラード獲得を何としてでも果たしたいバックスからトレードに出された。3チームが絡んだ大型トレードで彼が移籍することになったのはトレイルブレイザーズ。トレードされただけでもショックなのに、リラード放出で再建へと舵を切ったばかりのチームに行くことに、複雑な思いがあったのは間違いない。

ただ、その4日後にはセルティックスへの移籍が決まる。あれから5カ月が経過した今、セルティックスは51勝14敗とリーグ首位を快走しており、ポストシーズンに向けても盤石の状態にある。得点とアシストのスタッツこそバックス時代より落としているものの、チームの勝利を何よりも優先する彼には満足しかない。

その彼は先日、今シーズン唯一のポートランドでのトレイルブレイザーズ戦を迎えた。左膝に痛みを抱えていたため欠場となったものの、彼はごく短期間だけ在籍したことになるブレイザーズへの感謝を語ることを忘れなかった。実際にはブレイザーズというより、その指揮官チャウンシー・ビラップスにだ。

ホリデーはブレイザーズの一員として試合に出るどころか、チーム練習に参加することもなかったが、トレードが決まってすぐにビラップスと会話を交わしていた。「チャウンシーは自分のこと、チームのことではなく、僕のことを最優先に考えてくれた。彼は間違いなく、選手を一番に考えてくれるコーチなんだ」とホリデーは『The Athletic』の取材に語る。

ビラップスは1997年のNBAドラフトで1巡目3位指名を受けてNBAに入り、2004年にはピストンズでNBA優勝とファイナルMVPを勝ち取り、オールスター選出4回、オールNBA選出の経験もある名選手だった。ピストンズの背番号1は彼のための永久欠番だ。ディフェンスと頭脳的なプレーメークでチームを支える万能型ポイントガードという点で、現役時代のビラップスとホリデーは重なる。

ビラップスは「ドリューとは良い会話ができた」と明かす。「私にとって彼は以前から大好きな選手。思いがけずトレードされたのはつらいもので、私もその経験がある。彼はどのチームでも活躍してきたし、素晴らしい人間として評価されてきた。だからこそ適切に扱い、彼に相応しい立ち位置にいさせてあげたかった」

会話の中で、ホリデーは優勝争いのできるチームでプレーしたいという気持ちを正直に話したという。そしてビラップスは、ホリデーの望みをかなえるために動き、なおかつマルコム・ブログドンとロバート・ウィリアムズ三世、1巡目指名権2つというブレイザーズにとってもマイナスにならないトレードに繋げた。

ビラップスはホリデーに「プロフェッショナルであることの大切さ」をあらためて説いたという。「全く予想していなかったトレードが起きれば、混乱したり感情的になったりするものだ。感情が渦巻いている時は当たり前のことが当たり前にできない。でも、そういう時こそプロフェッショナルでなければいけない」とのアドバイスを送り、セルティックスへとホリデーを送り出した。

ホリデーは優れたポイントガードであるだけでなく、人間として、チームメートとしての評価が非常に高い。ブレイザーズに残していれば、コート内外で若い選手たちを指導するリーダーとして大いに役に立っただろう。だが、ビラップスはホリデーの意思を尊重した。「25歳の選手ならともかく、彼がキャリアのどの位置にいるかを考えれば当然だ」と彼は言うが、簡単にできることではない。