「彼の胸を狙い、リムの下まで押し込んだ」
昨年のNBAドラフト指名権を巡る抽選では、17勝で最下位のピストンズ、22勝のロケッツとスパーズが全体1位指名権を引き当てる確率が最も高い『ボトム3』だった。全体1位指名権を引き当て、ビクター・ウェンバニャマを指名したのはスパーズで、ロケッツはこのチャンスを逃した。現地3月5日に行われたロケッツvsスパーズの試合開始早々、ウェンバニャマはジェイレン・グリーンを手玉に取ってゴール下のシュートを決め、アルぺラン・シェングンのシュートをブロックしてリバウンドを手中に収めると、そのままボールを運んで3ポイントシュートを沈めた。
開始1分足らずでロケッツのファンは、自分たちのクジ運の悪さを嘆くことになったが、試合を通して見れば、シェングンがウェンバニャマを上回るプレーを見せ、ロケッツは114-101でスパーズに完勝を収めた。今シーズンも下位に沈む両チームの対戦とあってトヨタ・センターには空席が目立ったが、会場に足を運んだファンの誰もが満足できる内容だった。
サイズと柔軟な動き、シュート能力の高さを兼ね備えるウェンバニャマは、次世代のNBAを背負う逸材だ。しかし、少なくとも今は完璧なプレーヤーではない。チームを引っ張るべく試合開始から力強いプレーを見せたが、第2クォーター途中で立て続けにファウルを犯してからは次第に積極性を欠くようになった。
シェングンは得点もアシストもできるセンターで、対戦相手の多くは彼がペイントエリアに入るとダブルチームで対応してくる。しかしウェンバニャマのリムプロテクト能力に自信を持つスパーズは、1対1でシェングンを止める守り方を選択。これをシェングンは打ち破った。マークに付くのがウェンバニャマでもザック・コリンズでも果敢に攻め続ける。ゴール下では俊敏な動きでウェンバニャマを振り切り、コリンズはパワーで一蹴した。
ウェンバニャマがファウルトラブルに陥った後半になると、シェングンはまさに手の付けられない存在となった。ペイントエリアで彼が素早くターンすると、その俊敏さにウェンバニャマはついていけない。腕を伸ばしてブロックすることはできたが、ファウルを恐れてそこにも手を伸ばせなかった。フレッド・バンブリートもジェイレン・グリーンも、ノッているシェングンにどんどんパスを送る。結果、シェングンは32本ものフィールドゴールを放ち、19本を成功させた。前半は15得点だったが、第3クォーターは18得点、第4クォーターには12得点を記録してキャリアハイの45得点、さらに16リバウンドに5スティール1ブロックの大活躍。一方で前半10得点だったウェンバニャマは後半には無得点に終わっている。
「ウェンバニャマの高さは本当にすごいけど、まだ強さが足りない」とシェングンは言う。「だからポストアップで彼の胸を狙い、リムの下まで押し込んだ」
ただ、試合後のシェングンはウェンバニャマとの戦いよりも語りたいことがあった。タリ・イーソンへのメッセージだ。2年目のイーソンはセカンドユニットのディフェンスを引っ張ることでチームに貢献していたが、1月1日のピストンズ戦を最後に欠場が続いていた。左足の脛骨に抱えていたケガが悪化し、休養を取っても練習し始めると痛みが再発するため、手術を行うことに。復帰までに少なくとも4か月はかかり、今シーズンは事実上終わる。シェングンは試合後のコートインタビューで「この試合はタリ・イーソンのためのものだった」と中継のカメラに向かって語りかけた。「彼はもっと強くなって戻って来ると思う。みんな彼を必要としているんだ。彼がいれば来シーズンはもっと良いものになる」
タリ・イーソンは前日に手術を終えて入院しており、自分が試合を観戦する様子をSNSでライブ配信していたが、シェングンが勝利インタビューで自分にメッセージを送るとは予期しておらず、「アルピ(シェングン)は本物の男だよ」と語るとともに喜びの涙を流した。
ロケッツは27勝34敗で西カンファレンス12位。プレーイン圏内までは5.5ゲーム差で、残り21試合で巻き返すのは現実的な目標とは言えない。ただ、プレーオフ進出の可能性を別にして、レギュラーシーズンのラスト1か月を全力で戦い、良いパフォーマンスを示すことが、チームの今後に繋がるのは間違いない。